大自然の中でノマドについて考えた
以前のコラムで「ニセコリゾートオフィス」について取り上げたことがある。(『この夏、リゾートオフィス計画を』を参照)
その時は、東京で開かれた説明会の内容をレポートしたものだったが、説明だけでは分からないこともあるだろうと、実際に現地視察に行ってきたので、今回はそこで感じたことを書いてみる。
■ノマドワーカーは「都会の遊牧民」か?
数年前から、日本でも「ノマド」というコトバが話題に上ることが多くなっている。
大抵は、モバイル機器やインターネットを活用して、オフィスがなくても、どこでも仕事ができる時代になったというような文脈で語られている。
しかし「都会の遊牧民」というコトバからもうかがえるように、その活動の場は地理的にかなり制約のある範囲内にとどまっているような印象がある。
もちろん、客先を定期的に訪問しなければならない営業職にしてみれば、オフィスからは解放されても担当エリアから解放されることはあり得ない。ハードウェアやインフラのエンジニアも、現場を離れることはなかなか難しい。
そういった意味でも、仕事場はやはり都市部に集中せざるを得ないということか。
■リゾートオフィスはノマドワーカーを都会から解放する
一方で、そのような物理的な場所に縛られないノマドワーカーがいることも確かだ。
例えば、昔からノマドワークを実践していた職業を考えてみよう。作家や画家など、クリエイティブな仕事は一般的に物理的な場所に縛られにくい。
お気に入りの避暑地で名作を生みだした文豪や巨匠たちは、枚挙にいとまがない。
ITの力でオフィスから解放された新興ノマドワーカーの中でも、企画・デザイン・開発といった職種は、クリエイティブな仕事の部類であり、物理的な場所に縛られにくいと考えられる。
そういったノマドワーカーにとって、「ニセコリゾートオフィス」のように、都会以外で快適に働ける場所があるなら、試してみない手はない。
真夏の一番キツイ時期に、鬱蒼たる高層ビルの森に覆われた、不快なヒートアイランドの中で生活するより、真夏でもエアコンがほとんど不要な北海道に行けば、よほど生産性の高い仕事が期待できそうではないか。
■ひらめきはオフィスの外で
何かのCMではないが、アイデアはオフィスの外で生まれる。
今回の視察旅行でも、いきなり初日の早朝、空港の出発ロビーで飛行機を待ちながら、タブレット端末でソースを眺めている時に降りてきた。しばらく悩んでいた問題の解決方法が、突然ひらめいたのだ。
このように環境の変化はヒトに刺激を与える。
その利点はすでにノマドワークを経験しているヒトなら理解できると思うが、オフィスの中では期待できないような刺激が、外にはたくさんあるのだ。
しかし、実は環境の変化による刺激だけが創造の源ではない。
■遊牧民は世界を動かす
紀元4世紀、遊牧民族であるフン族がヨーロッパになだれ込んだのを契機としてゲルマン民族の大移動が始まり、それが西ローマ帝国の滅亡につながったといわれている。
中国から東ヨーロッパまで、ほぼユーラシア全域を席巻したモンゴル帝国も遊牧民の国だ。
彼らが動くことによって、多くの民族、多くの文化、多くの価値観がひとつの釜の中で撹拌された。
その結果、異質なモノ同士が反応し合って新しいモノが生まれた。そしてそのたびに、世界は新しい局面を迎えることになった。
異なる価値観のぶつかり合いは、時に凄惨な闘争を引き起こすが、東西の文化交流が科学技術の発展に大いに寄与したのも周知の事実だ。
私が現代のノマドワーカー達に期待するのは、これだ。
彼らの行動が、ヒトとヒトとの新しいつながりを促し、それを契機として新しいモノが生まれる未来図。
ニセコリゾートオフィスの中心となる倶知安町ひらふ地区は、住民の3分の1近くをオーストラリア人等の外国人が占めているらしい。このエキゾチックな土地に、様々な業種・職種のノマドワーカーが集い、何か新しいムーブメントが起こると楽しいだろうな。
まだ雪の残る神仙沼をスノーシューを履いて散策しながら、そんな妄想に浸った視察旅行だった。