教育の本質って、考えるネタを提供することだよね
教育の現場で活用されているITといえば、まず思い浮かぶのが、各種のeラーニングだ。
eラーニングは、時間的な自由度という点では生徒にもメリットがある。しかし、どちらかというと教師(管理者)の利便性に配慮したものが多いように感じる。
よくある構成としては、ある程度のボリュームの説明を、文章や図表や、時には音声や動画も交えながら進め、節目節目で理解度をチェックするために多肢選択問題をいくつか出す、といった感じだろうか。
なんというか、「試験対策のための要点を覚えることを目的とした教材」の域を脱していないものが多すぎる気がする。
ひょっとしたら、実際のところそれが目的だから、制作側としてはその域を脱する必要性すら感じていないのかもしれない。
教える側、あるいは作る側は、それは楽だろう。
しかし、教わる側としては、それではまったく楽しくない。楽しくないということは、モチベーションも上がらない。
楽しくもないものを、親や教師に強制的にやらされるというのでは、奴隷と変わらないではないか。
子供は大人の奴隷ではないし、受講者も講師の奴隷ではない。あるいは、アプリのユーザーはアプリの奴隷ではない。
だから、私としては、教わる側が「これは面白い!」と自主的にそのテーマについて思わず考えてしまうような状況を作ることこそが、教育の本質だと思うのだ。つまり「考えるネタの提供」。
それをはっきりと確信することとなったのは、ゴールデンウィーク前半の5月1日、たまたまふらりとアシストオン原宿店に入ったときのことだ。
ちょうど“大谷和利トークショー iPad2が創る「未来の教室」”というイベントをやっていた。
残念ながら、私が店に入ったときには既に後半にさしかかっていたのだが、後半だけでも十分楽しめ、そしていろいろと考えさせられた。
そこでは「未来の教室」で使えそうな、いくつかのiPhone/iPadアプリが紹介されていた。そしてそのチョイスが非常に素晴らしかったのだ。まさに、考えるネタを提供してくれるアプリがそろっていた。以下、その中のいくつかをリストアップしよう。
明治維新から現在までの時間を軸にして、東京の変遷を体感できる地図アプリ。
つまり、今自分が立っている場所でこのアプリの明治維新の地図を開けば、当時はそこに何があったかが分かるので、歴史の変化、社会の変化、地形の変化といったものに思いを馳せることができるということだ。
『ぶらタモリ』を知っているヒトは、実感が湧くのではないだろうか。
これは教育アプリではない。しかし、過去の地図と重ね合わせることによって、自分が立っている場所についていろいろなことを考えるきっかけとなる。これが全国版であれば、社会科の授業に革命を起こすのではないか、などというと大げさすぎるだろうか。
これも教育アプリではない。
The Civil Warとはアメリカの南北戦争のことだ。
150年前の南北戦争の出来事を、2011/4/12から2015/4/26まで、新聞の形式で配信する。つまり、この新聞の日付は1861/4/12からスタートしている。
面白いのは、本物の新聞と同じように、毎日(150年前の)その日のニュースだけが配信されることだ。つまり、例えば2011/5/1には1861/5/1のニュースが配信され、ユーザーは1861/4/12から1861/5/1までの情報だけを見ることができる。
これは歴史のテキストとして考えるとかなり面白い。大谷氏も話しておられたが、日本では、例えば関ヶ原の合戦や幕末の動乱期などを、この形式で見せると面白いだろう。
単に年表を暗記させるのではなく、歴史上の出来事を臨場感を持った形式で表現することによって、無数の考えるネタを提供できそうではないか。
これは計算問題を解くアプリだが、単純に問題が表示されて、その答えを入力するという形式ではない。というより、実は計算自体はアプリがやってくれるのだ。
ユーザーは、問題として表示される数式の、数字や演算記号をタップしたり移動したりしながら、代数式の移行や通分について、問題を解く手順を操作して学ぶことができるのだ。
これはちょっと変わったアプリだ。
Webの情報を検索するのではなく、自前の膨大なデータやアルゴリズム、方法論に基づいて、知識や答えを得るためのまったく新しい方法だという。
ええと。説明が難しいな。とにかくWeb版が無料で使えるので、試してみてほしい。
例えば"1000 yen + 5%"と入力して実行すると"\1050(japanise yen)"と返ってくるし、"baseball + soccor"と入れてみると、野球とサッカーの1時間当たりの消費カロリーを足した値を返したりする。
"USA + Japan"はどう答えるかと思ったら、国土の広さや人口、GDPの合計が表示された。
このように思いついた単語を適当に計算してみるだけでも、何か思いがけない発見があるかも知¥しれない。そこから何か新たな疑問が生まれ、それを調べてみたくなったり。
他にもいろいろと紹介されていたが、その多くは教育系のアプリではなかった。ここに挙げたものも、"Algebra Touch"以外は教育目的のアプリではない。
にも関わらず、これらはたくさんの「考えるネタ」を提供してくれるという点において、優秀な教育アプリということができる。
もちろん、覚えることをおろそかにしていいと言っているわけではない。それはそれで必要なことだ。
しかし、覚えたことを実践するには考える力が必要だ。そしてその力を伸ばすためには、ネタを与えて、考える癖をつけるのが大切なのだ。
そんなわけで、教育目的ではなくても「考えるネタ」を提供できるアプリを作ったら、いつかどこかの教室でそのアプリが使われることになるかも知れない。
そんなアプリが作れたらいいなぁなどと妄想してしまう、ゴールデンウィーク中の深夜であった。