雲の中の群衆(Crowd in the Cloud)
Googleの幹部が作ったFacebookのページが、親米派のエジプト政権崩壊に大きく寄与したというのは皮肉な話だ。
われわれ日本人にしても、通常のニュースの枠内でしかエジプトの情報を流さないテレビを尻目に、TwitterやアルジャジーラにBBCのライブ映像、YouTubeやニコニコ生放送によって、リアルタイムに何が起こっているのか知ることができた。これもまた、皮肉なことではないか。
例えばTwitterでは#Egyptや#Jan25といったタグで流れる英語のツイートを日本語に訳してツイートし直す#egyjpのようなタグができて、そこを見ていれば英語が分からなくても、おおよその経過が把握できるようになっていた。
ニコニコ生放送では、アルジャジーラなどのライブ映像を流し、アナウンサーのレポートを訳したりもしていた。
スポンサーもなく、集金もしない個人が、最新情報を発信し続けていたのだ。もちろん玉石混交であることは否めないにしても……。
そしてついに、30年に及ぶ強権的な独裁政権は倒れた。これぞまさしく「ペンは剣よりも強し」か。
といっても、もちろんハードウェアとしてのペンが剣よりも物理的に強いわけでない。ペンによって紡ぎ出される言葉、文字、つまり情報は研ぎすまされた刃よりも鋭い切れ味を発揮するというわけだ。
ところが、筒井康隆氏の『アホの壁』によると、この言葉はもともと、権力者側であるフランスの枢機卿リシュリューが「権力のもとではペンは剣よりも強い」と言ったのが始まりだとか。
つまり、「国家に反旗を翻し、反乱を企てる輩に対して、いつでも逮捕状や死刑執行命令にペンでサインできるのだぞと脅したのである。(『アホの壁』より)
「ん? なに? 文句あんの? 紙切れ1枚でお前らなんてどうにでもできるんだけど、いいの?」
と言っているわけだ。
多分、これはまさにエジプトで30年間行われてきたことなのだろう。
ここで、この言葉のポイントは「権力のもとでは」の部分だ。
これまでの世界は、大抵は国家が権力と結びついてきた。そして、国家権力はペンが剣より強いことをよく分かっているため、さまざまな形で国内に流れる情報をコントロールしてきた。
しかし今、「雲の中の群衆(ネットやソーシャルメディアでつながった世界中の人々)」が、国家を超えたレベルで巨大な力を発揮し始めている。このような、雲の中の群衆は「権力」こそ持っていないが、その圧力は一国の体制を転覆させるほどの破壊力を持っているわけだ。
さて、破壊の後には創造が必要だ。雲の中で、新しい政党の結成が模索されているというニュースも耳にする。
これからもしばらくは、「雲の中の群衆」の動きから目が離せない。