【番外編2】コンピュータは人間になれるのか?
こんにちは手塚規雄です。
エンジニアライフのコラムニストであるAnubisさんからのコメントからリクエストがありました。今回のコラムについてですが、将棋ソフト開発者がみんな私と同じ考えではありません。十人十色の回答が返ってくると思います。そこで今回のコラムは私自身の考えです。これが総意だと思われると他の将棋ソフト開発者にご迷惑をかけることになってしまいます。
コンピュータは人間になれるのか?
Anubisさんは人間らしさの一つとして相手の強さを解析して接戦にするというアイデアでした。単純にこれだけだったらそれほど難しくはないと思います。(実際に組み込むのは面倒くさいですけど)
・自分が有利な時に評価関数の値をゼロに向かうようにする
・自分が有利な時に深読みさせないようにする。
この2つだけで最善手をさせず接戦にすることができます。
じゃあこれが人間らしい指し手をするのか?というとそれはそれで全然別物です。実際にそんな事をされたら、人間が真面目にやっていてもいきなり変な手を指されたら人間側は興ざめしてしまうと思います。ゲームでいわゆる舐めプ(相手を舐めたプレイ)された気分になるからです。つまりAnubisさんが定義する人間らしさからは大きく遠ざかるシロモノなのです。
指導対局は人間にしかできない領域
私は受けた事がないのですが、棋士、女流棋士、指導棋士による指導対局というものがあります。また強い相手と互角にさせるようにするためのコマ落ちの対局があります。簡単にいえばハンデです。飛車落ち、角落ち、2枚落ちなどなど。初心者相手だと10枚落ちまであるとか…。
そのハンデもありながら、互角になるように相手にわからないように緩手(悪手ではないけど甘い手)を指すようです。これが相手にわからないのは実力差もあるし、それを上手に指すのがプロの技とも言えます。
市販のソフトには指導対局モードで人間側の悪手の指摘はできるようですが、これが今の将棋ソフトに指せるのか?たまたまそうなる事はあっても意図的にソフトが指せるとは私は思えません。そこまでの技術進歩はもっと先の話だと思います。それがどれくらい先なのかは私にはまったく想像できません。(他の将棋ソフト開発者からそんな事はないとのご指摘を受けました。)
<追記 2015/11/29 20:35>
人間側が自己申告すれば相手の力量に合わせて手加減してくれるソフトは存在しています。
<追記 2015/11/29 21:45>
相手の力量に合わせて人間らしく対応できることがアマチュア相手ではだいぶできるようになっているという論文がありました。想像以上に進んでいるようです。
http://ir.lib.uec.ac.jp/infolib/user_contents/9090000435/1331078.pdf
他にも人間にしかできない領域がある
本編でも書きましたが、将棋ソフトの読み筋を解説できるのは今のところアマチュア高段者かプロ棋士しかいません。なぜなら将棋ソフトは勝つための最短経路を頑張って探している「だけ」ですから。だからなぜこの手が良いのかを説明することができません。それを盤と駒を使ってわかりやすく将棋ファンに解説できるのは人間しかいません。そしてあえてその領域にコンピュータが挑む必要性もないような気がします。
ソフトウエアの研究対象としては面白いかもしれませんが、需要があまりありません。そして何よりもやっぱりプロ棋士に解説して欲しいという要望のほうが明らかに大きいですから。
人間に勝てるようになっても技術としてはまだまだ発展途上
機械学習、ディープラーニングを使ってプロ棋士に勝つ将棋ソフトが現れても、将棋を解明することはまだまだできません。それでも将棋を人に教える、人間に最善手を教えるソフトはあります。そういえば激指14がつい先日発売されました。(私はこれから購入予定)
機械学習やディープラーニングはいろいろな可能性を秘めています。でも発展してもっと幅広く応用して汎用的になるのはまだまだこれからの話のような気がします。そしてその結果人間の感情をコンピュータが理解できるようになった時に、コンピュータが人間っぽく振る舞えるかもしれません。その時になってAnubisさんが思う人間ようなソフトウエアが現れるかもしれません。
さて、それはいったい何年先なんでしょうかね?私はやっぱり想像できない世界です。わりとあっさり来そうで怖くもあるのですけど。
<追記 2015/11/29 21:55>
先ほどの論文がある限り、そんな未来は想像以上に近いのかもしれません。世の中の研究は相当進んでいるようです。正直大学の研究を侮っていました。申し訳ございませんでした。
P.S.
将棋ソフト開発者の皆様にコラム投稿後に色々とご指摘頂きました。この場を借りてお礼を申し上げます。
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コメント欄にて書いて欲しいコラムの題材をいつでも受け付けております。ただしその内容に応えられるかどうかはわかりません。基本的にコメント欄には私自身がコメントしないのですが、題材リクエストに関してはレスをすることもありますので、よろしくお願いします。
コメント
Anubis
リクエストお応え頂きありがとうございます。
コラムを拝読させて頂き、私の思っているより研究が進んでいると実感しました。
このような研究が今後、人工知能に活かされたりするのだろうか。
軽く考えていたが、結構深いテーマだったように思いました。