【38】起業家精神なんか要らない
こんにちは、手塚規雄です。
ビジネス書や社内教育などではよく聞かれる「起業家精神」や「アントレプレナーシップ」。これを持つ社員を育てよう。そんな事が世間では言われています。私個人の意見となりますがそんなものは要りません。それについて1つ1つ紐解いていきましょう。
そもそも起業家精神って何?
実は明確な定義がありません。少なくとも私は見たこと、聞いたことがありません。この理由は「起業家精神」という言葉の定義が人によって違うからです。その証拠にGoogle先生に聞いても色んな答えが返ってきます。
さらに言えば「起業家」や「起業」も人によって定義が違います。辞書では「新しく事業を始めること」ですが、最近はもっぱら「従来にない新種の事業を起こすこと」の意味で使われることのほうが多いです。前者は個人事業主や法人代表者のすべての人を指し、後者は新しい事業、イノベーションを起こして俗に言われる「成功者」となった人。これじゃ同じ言葉であっても、前者と後者はぜんぜん違う人です。そんな言葉の後ろに「精神」を付け足すとどうなるのか?それが最初に話した、人によって定義の異なる言葉になってしまうわけです。
「起業家精神を持とう!」という言葉は非常にあいまいなのです。もしそんな事を言っている人がいたら「具体的にいうとどんな精神の事ですか?」と一言質問してみてください。ほとんどの人が次の言葉が出てきませんから。人は言葉のニュアンスだけで納得した気になってしまうので注意が必要です。使っている本人もわかってない事も意外なほど多いのも変な話ですが。
そこで本コラムでは辞書と同じく起業とは「新しく事業を始めること」という意味で統一します。だから起業家精神は個人事業主や法人の代表者が持っている精神ということになります。
起業するなら起業家精神を持つより脱サラリーマン精神のほうがよっぽど大事
社会人になるになると必ず耳にする言葉があります。それは「学生気分のままでいるな!」という言葉です。これも明確な定義がありませんが、「時間を守らない」「言葉遣い」や「身だしなみ」とか社会人としての基本ができてない。こんな感じかと思います。
これを学生でなくサラリーマン精神に置き換えるだけの話です。サラリーマン精神とはどんな状態か?それは
1:責任を自分以外の誰かの預けること
2:リスクゼロとハイリスク・ハイリターンを追い続けること
3:毎月給料は必ず貰えるもの
会社に所属している場合は、悪いことでなく、むしろこうあるべき精神です。しかし起業する人にとっては弊害になります。この3つについて細かく説明していきます。
1:サラリーマンは責任を預けることが癖になっている
サラリーマンの宿命というか団体に所属する人はこうあるのが普通です。そして悪いことではありません。責任の所在を明確にする。そして多くの場合は、上司に責任を預けることになります。これは命令系統を考えれば当然のこと。サラリーマンはリスクが少なく大きなチャレンジもできるメリットとも言えます。普段は非常に鬱陶しいと思える上司ですが、責任を引き受けてくれる頼もしい存在です。
問題はこの状態に慣れてしまうことです。いざ自分が責任を取る時に責任のとり方がわからない。ひどい場合には誰かに押し付けてしまう。極端ですがわかりやすい例は会社内で「承認したのは上司だ。だから全部上司が悪くて、俺は悪くない」というパターン。ここまでひどい人はいませんが、言い訳を簡潔に纏めると同じ意味を言っている人はけっこういます。
特に役職がないと責任を追うことはほとんどありません。だから役職付きになって、責任のプレッシャーに耐え切れなくストレスでダウン。そんな話も珍しくもありません。だからこそ起業する前には責任を取る事に慣れていくことが大事です。
2:リスクゼロ or ハイリスク・ハイリターン
日本人的な思考で良し悪しあるのですが、リスクがあると、失敗した時に周りの人へ迷惑をかけることになる。だから、迷惑のかからないリスクゼロを追い求めてしまう。これが日本のサラリーマンの傾向です。そうでなくても日本人はリスクを避ける傾向にあるからなおさらです。でもリスクゼロは守りの戦略。起業するには攻めの戦略が必要で、それはどうしてもリスクが発生します。守りだけではジリ貧になってしまいます。
じゃあリスクを負って頑張ろう。それは正しいのですが、自分の器に比べて大きすぎるリスクを負ってしまう人が大勢います。起業だ!○百万円の融資だ!一発勝負だ!みたいな感じで。はたから見ていたらギャンブルより勝率低そうだなあというのに、本人は何故か100%成功するみたいな状態です。リスクを追うのは大事だけど、やっぱり最初はローリスク・ローリターンからです。新人に戻ったつもりで小さな成功を積み重ねるのが大事です。
ハイリスク・ハイリターンができるのは元々器が大きい人。能力、資金、人脈、運が常人とは違う。だからこそ有名になるような成功ができるだけで、そんな人の真似を凡人がしても失敗するだけです。
3:毎月定額の給料が手に入る事のデメリット
サラリーマンは残業代が上下することはあっても基本給は変わりません。つまり毎月定額の給料が貰える。その代わりに有給を使わない限り平日は出勤し続けなければいけません。毎月毎月決まった時間に出勤して同じように働き続けるのが普通ですが、実はその働き方がデメリットという考え方もあります。
どんな業界にも繁忙期と閑散期もあります。繁忙期は忙しくなりますが、その分だけ売上も上がります。閑散期は暇な分、売上も下がります。逆に考えれば、稼ぎ時は働きっぱなしで大きく稼ぎ、閑散期は長期休暇にして売上ゼロという選択をすることもできます。つまり働き方に幅を持たせることができる。1年間に必要な利益をどこで得るか。それが明確なら仕事時間はサラリーマンの半分、3分の1にすることだって十分にありえます。
次に休む人もいれば、空いた時間で他の事業をはじめたり、従業員を増やしたりして年収を倍にするという考え方もあるし、実際にそういう人は大勢います。他には最初は自力で稼ぎ、その後にお金で従業員を雇い、自分は仕事をしない立場になる。つまりは働き方を自分で選ぶ選択肢ができます。これが毎月定額の給料を貰えないデメリットの代わりに得られるメリットです。
そんな働き方に幅を持たせることができるのに、なぜか平日だけ1つの仕事にこだわって仕事をしている。もちろんしかたなく平日昼間が働くことになってしまう業種もあります。しかしサラリーマン時代とお金の貰い方が違うだけで、やっている事はほとんど同じ。起業してそんな働き方もあるとは思いますが、個人的にはもったいないと思います。
起業家精神が良くて、サラリーマンが悪いという考え方がそもそもオカシイ
起業するためにはサラリーマン精神のままでいると落とし穴にハマりますが、サラリーマンのままならそのままのほうがいいです。下手に脱サラリーマン精神になってしまうと会社で働く事がストレスとなったり、会社の中を乱す存在となったり、あまり良い事とは思えません。結局はそれぞれの立場にあった考え方があるだけです。
何をメリットと感じ、何をデメリットと感じるのか。それがそれぞれの立場の主張でもあり、生き方であるだけ。個人的には脱サラリーマン精神で起業するのがオススメです。しかしサラリーマン精神のままのフリーランサーや個人事業主を数多く見てしまうと、考え方や価値観を変えるのは難しいことなのだと思わされます。