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『ル・ファテルシア』-エクスプロラエンジニアのミッション-

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エンジニアと呼ばれる職種は多種あります。フリーランスの方であれば特定分野にスキルがあれば何々エンジニアと自称しても通用しそうですね。

本編は架空世界における架空エンジニアのSF世界のショート物語.Vol1です。

 ラ・アリサシアはエクスプロラエンジニア(特殊探索技術者)である。今や探索冒険分野で常に上位の成績を収めており、アリサの愛称で呼ばれていた。

 この星の知的構成体は人族が十万人、それに対してアンドロイドが百万体で維持され千年を経ていた。統治評議会は統合AIと最高位アンドロイド三体により世界が運営されている。

 ある問題点の打破の為に統治評議会は人族を優遇している。その問題点とはAI技術、アンドロイドの精神が高度に発達しきった世界において新たな思考が停滞してしまっていた。人族の不確定なインスピレーションを言語化できる大賢者の出現を待っているのだ。大賢者の智慧を統合AIにインプットすれば更なる発展とこの銀河群で精神性で優位に立てるのだ。

 しかしながら、既に前の大賢者の出現から千年も経っており、智慧の取得方法の方針転換を余儀なくされていた。統括AI、アンドロイドだけではどうにも閃きのインプットがないのである。

 この銀河中に煌めく星々は無数に存在する。その中に知的生命体が存在することは周知の事実であった。その知的生命体の思考を集めて統合AIにインプットするのだ。それにより新たな革新を生み出そうという方針である。

 統治評議会は人族からエクスプロラエンジニアを募った。エクスプロラエンジニアには統合AIからデフォルトAIをパートナーとして割り当てられるのが習わしである。

 ラ・アリサシアは駆け出しのエクスプロラエンジニアになった。

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 パートナーAIにはデフォルトAIではなくて、かつて引退したエースエンジニアだった父のAIを引き継いだ。人格形成済みのベテランAIのサポートを受けられるのは他のエクスプロラより一歩も二歩も先んじることになる。

「統治評議会ったら、存在確率が高い探索地域にはトップエンジニアにオーダーを出すから、私みたいな駆け出しの下っ端にはせいぜい金属鉱物の持ち帰りしか期待してないのだわ」

 役に立つ収穫はこれまで一度もない。ワードによるコミュニケーションが発達している知的生命体を発見できずにいた。

「まあ、そう言うなって。この辺境地域は過去に一度探索した記録が残っている。気になるスポットもあるから」ファルが言った。

 ル・ファテルシアは父が育成したAIで、アリサはこのAIを愛称でファルと呼んでいた。ファルの人格と思考はアリサに似ていた。

 アリサの居住する星は銀河の中心に位置し周辺の星々をまとめる統合星である。銀河中心から星々が四つの渦状腕に伸びており一つの渦状腕は十万光年に達する。第四渦状腕の辺境の地での探索であるが、過去の予備探索では知的生命体の痕跡はなかった。今までどの渦状腕においても、銀河中心から一万光年以内からしか知的生命体は発見されていない。

「こんな辺境まできてしまったわ。重力波転移はもう何回目かしら。この地域も収穫はなさそうね。鉱石ぐらい持ち帰らないとペイできないわ」前方の恒星系の第五番目の巨大惑星をモニタリングしながらアリサがつぶやいた。

「七回目の転移です。第三番目の惑星には異常な量の液体の水と大量のプルトニウムが存在している」ファルが言った。

「父の私設データベースには第三番目にプルトニウムの存在記録はないわ。それよりも知的生命活動はどうなの? リストには載ってないけど」

「惑星周辺に無数の金属体の人工物が周回してるね。それに旧式の伝達手段である電磁波が発信されている」

「ふ~ん、電磁波通信か。でもまあ人工物を打ち上げるぐらいの知的生命体はいるってことよね。
水素補充量チェック、惑星間航行水素エンジン始動準備、自立ドローン準備」アリサはキャプテン気取りでル・ファテルシアに命令した。

「受領、インパクター注入、エンジン始動準備完了」

 AIファルは惑星間航行水素エンジンを始動させ、第三番目の惑星の月と同じ周回軌道に探査船を誘導した。射出された自立ドローンは高度を徐々に降下させながら200キロメートルの超低軌道で周回し、情報収集モードに入った。

 電磁波通信の密度の高いところが三箇所あった。いずれも北半球にある大陸と巨大な島であった。この三箇所のワード解析にファルは統合星時間で五時間も費やしていた。統合星一時間はこの惑星の自転周期と偶然にも同じである。

「何よこれ。記号構造形態がめちゃくちゃだわ」

 二十六の記号およびそれから派生している言語はすぐに解析完了できたが、何千とある象形文字崩れの記号を持つ言語は解析の手がかりさえ掴めなかった。

「象形文字崩れの記号のようです。もうひとつ興味深い記号形態を使っている地域がが存在する」ファルはスクリーンに巨大な島を映し出した。

 象形文字崩れの記号と四十六種の記号を織り交ぜている言語を話す地域があり、この言語を解析することで、象形文字崩れ記号のみを使用する言語も解析できた。面白いことに、象形文字崩れの記号と四十六種の記号の言語は更に四十六種のサブセット記号を持っており、二十六種の記号の言語と関連性を持っていた。

 本来このような象形文字崩れの記号と簡略化記号の混合型を使う発達途上の知的生命体は発見されていない。記号体系を持たない直接電子疎通による知的生命体もいるぐらいである。

「もしかして、特級のワード体系を持つ初期の知的生命体を見つけたのかしら」アリサは船内空間に浮かぶ解析結果スクリーンを見て小躍りした。

 ファルは第三番目の惑星に初期知的生命体が存在すると情報を更新し、一報を銀河中心へと送った。近傍のエクスプロラが拾ってくれれば伝言ゲームで統合星にまで届くだろう。

 アクアマリンのように青い惑星。白い雲が筋のようにたなびき、両極には紫の円環が煌めいている。アリサは窓に手をかざし、その惑星を綺麗な指輪をはめているように合わせてみた。

 採取すべき知識対象は、二ホンと呼ばれている地域の電脳クリエーターの思考である。

 彼ら思考方法を持ち帰らなければ。ついでにプルトニウムも。

本日ここにエクスプロラエンジニア爆誕。

Comment(2)

コメント

匿名

ファルシのルシがコクーンでパージが一瞬浮かびましたw
いえ、面白いです。がんばってください。

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