工業デザイン、制御系から業務系アプリケーションのプロジェクト経験からデザインの情報までを扱います。

『光の結晶惑星の思い』 -コードとはプロセスを暗号化すること-

»

先月、京都大学主催の春季講義「AIと向き合う」‐「脳内イメージを解読する」(神谷教授)のセミナーを受講してきました。脳の信号は心の状態を表現する「暗号」コードであり、そのコードを解く「ブレイン・デコーディング」の話でした。

そのエッセンスを少しだけ取り入れたSF短編小説です。コヒープレークにどうぞ。

『光の結晶惑星の思い』 -コードとはプロセスを暗号化すること-

・光の結晶惑星の誕生

この星に最初の思考体が誕生したのは銀河誕生後一億年が経った頃である。星全体が一千億個の多種な鉱物結晶の集合体である。圧縮応力がかかった中心核にある結晶から絶えず全方向にフォトン(光)が放出供給されていた、光の屈折、解析、吸収を処理する一単位のフォトンニューロは数十の鉱物結晶で構成されていた。

そうこの星全体で一つの脳でありその情報伝達はフォトン(光)である。
cube2-1.png

光の結晶惑星は自身のことをノアベラ(norbera)と呼んでいた。

ノアベラは外部からの降り注ぐフォトンを取り込んではその情報を処理していた。最初はそれで充分満足していたが、全天から発せられる星々には自分と同じ思考体が存在するのか、また実際にもっとそばで観測したいという思いが何千年にも渡って蓄積していた。

できなかったことは、動くことである。善も悪もなく理だけである。

・結晶体レールガンの構築

動くことはできなかったが、当方もない時間をかけて結晶構造物を造ることはできた。

もうすぐ完成の時を迎える。

全天二十三方向への結晶体レールガンである。このレールガンにフォトン受信・重力波変換を有する探査結晶構造物をセットしてある。計算では第一陣の銀河辺境まではたった三十億年で到達できる。

三十億年の情報をリアルタイムで受信するには、結晶体レールガンで第七陣まで放出し、重力波変換でリレー方式で中継する算段である。都合一億年の計画である。

「結晶体レールガン、第七陣探査結晶体放出。さてこれで後は網にかかるのを待つだけだね」ザイガ・ラビ(Xiga Rabbi)が言った。

ザイガ・ラビは第三陣放出時代に生まれた二つめの思考体である。この当時光の結晶惑星で第二コア付近で爆発が起き、その振動により一部結晶に亀裂が発生してノアベラから分離したものである。予測計算を得意としているが、その思考は幼い。

「そうだね、わたしたちと同じ思考体が見つかればよいのだけれど」ノアベラが答えた。

「ぜったい見つかるさ。だってもうここに二つ存在しているのだから」

・探索の途中

フォトン受信による意味ある情報は一向に得られなかった。

「全天にはこんなにもフォトンが満ち溢れているのに、これっぽっちも思考の欠片もないや」ザイガ・ラビは否定の赤の光を放って言った。

「そうね......」一瞬、光の結晶惑星全体にノアベラが放ったブルーの光のさざ波が広がった。

「でもね、ちょっと理解できない現象があるんだ。この銀河で外縁部の再辺境の惑星で、ほんのわずかだけど、無数の光の点が明滅してそれが広範囲にシンクロしている場所をみつけたんだ」ザイガ・ラビはそれが自然に発生しているのではないという計算結果を示したが、思考体であるという結論は出せなかった。

「位置は正確に特定できてるの?」

「もちろんさ、その恒星は九つの惑星を有して、発信源は三番目の惑星だな。黄色の無数の光点はその惑星が恒星の光を受けない側でしか観測できないのだけど。それと表面は七割が液体で覆われている」

「液体? そんなに高温なの?」

「いや、金属液体ではなくてH2Oが液体化している」

「H2Oがそんなに大量に?」

「ああ、間違いない。恒星の放射光の反射から解析した」

「H2Oって時々飛来する彗星のかけらに含まれているけど、液体の状態で存在するのって凄い温度条件じゃない?近隣区画の探査結晶構造物もそちらに向けて今監視している探査体は、その惑星に落として精査して」

「わかった」

・探索体の投入

直径三十センチメートルの球形探査体は三番目の惑星の周回軌道に入った後に、落下重力圏に突入した。

探査体は球形から円錐形に変形し、頂点を惑星に向け赤道付記の地上へと落下していった。

円錐形探査体は夜の領域を青白い光の筋を引きながら山脈の合間を縫い、湿地帯に到達した。

落下範囲の湿地帯の水分は一瞬で蒸発し、閃光の周りに二重の虹が生成された。すばらしい光景であるが、これを見ることができる生命体は存在するが美しいを思える知性体はこの惑星にはいない。

・蛍の歌

閃光が消え暗闇に戻ってもその者達は沈黙し、静寂した夜にほんの一時戻った。沼の中心に落下した円錐探索体から離れた縁から一匹が明滅した。明滅は縁を一周し、環になって明滅しだした。蛍のシンクロした明滅である。

「ピカってびっくりしたけど」

「また、おちてきたね」

「いつものやつとちがうね」

「おつきさまがおちてきたのかな」

「おつきさまはほら、あそこに」

「ぼくらにあわせてあれがこたえてるよ」

----

・解析

第三惑星に投入した円錐探索体から送られてきた情報が蓄積されてきた。

この世界で光を発するものは鉱物結晶体ではなく炭素系で炭素、酸素、水素、カルシウム、鉄の成分から成り立っていた。その発光体は崩壊するのが一瞬だった。奇妙なことはそれでも明滅する群体は一定数を維持していることだった。

「僕らとは全く違う発光体のようだ。情報伝達はフォトンではなくて電子信号による。しかも情報伝達の連結部は炭素系物質の物理移動によって情報伝達している。
全くの低速!こんなのでよく統制がとれるな?
全く発光しない電子信号体だけのずっと大きな個体もいるし謎だらけだよ。
これじゃ思考体が存在することはできないな」ザイガ・ラビはあきれたかのようにブルーの光を放った。

「そうは言って統制がとれているし、この電子信号体ニューロンのシミュレーションをしてよ」ノアベラが指示した。

ノアベラは発光体をステラ(蛍)、大きな電子信号個体をディノ(恐竜)と名付けた。

ザイガ・ラビはまずはステラの電子信号体ニューロンを百万ユニット用意して発光情報と電子信号情報から深層学習を開始し、独自の解析シミュレーションを何度も突き合わせていった。

分かったことは、エネルギー源は外部から取り込む。外界からの光の受容体が二箇所にあること。刺激により移動可能なこと。

驚くべきことは、僕たちとくらべて情報処理は一万倍遅いのに、部位の可変が一万倍速い。惑星上を浮遊することもできるようだ。

ディノはステラと構造は違うがそのコンセプトは同じだ。電子信号体ニューロンは百億ユニット、光の受容体が二箇所ある。移動も可能である。エネルギー源は類似個体の捕食による。

「ザイガ、どう?」

「シミュレーションではいくら時間をかけても今後、高位な思考は獲得できないね」

「でも、高位の思考能力はないけど、何かしらの意識はあるのよね」

「あるようだけど、一世代があまりにも短すぎるよ。僕らは一億年かけて思考を獲得してまだ二世代なんだから。世代間で思考を受け継ぐことなんて到底できないよ」

「でも、統制がとれてるよね。どうして?」

「それはコードが受け継がれているんだよ」

「コード?」

「そう、四種類のユニットによってコードが書かれている。ステラとディノは七割は同じコードだ」

「それにコードしか存在しない物質も浮遊している。時々そのコードが取り込まれて、組み込まれるようなこともあるようだ」

「じゃ、そのコードを操作してもっと高次元の電子信号体を創造することはできないの?」

「簡単に言ってくれるね。ノアベラ」

「だって、この惑星の電子信号体は意思の欠片はあるのよね。ちょっと面白そうじゃない」

・コード

ザイガ・ラビは光の受容体、電子信号体ニューロン体に作用するコードを書いた。

そのコードが蓄積され、効果が発揮されるのは数億年後である。

ザイガ・ラビは果たして何手先を読み切ったのであろうか? ノアベラがこの結果を知るのは数億年後であるが、彼らにとって数億年は大した時間ではない。

すでにノアベラの興味は第五惑星に向いていた。

Comment(0)