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ITエンジニアがR6年度、2級造園技能士の資格を取ったお話し

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お久しぶりです。最後にこのコラムを書いてから2年経ちました。
この間に私自身の環境も変わり現在は定年退職、再雇用で契約社員として働いています。役職は定年前の肩書を継続していますが、時間的、精神的に余裕も出て還暦も過ぎて何か資格でもとろうかということで、ガーデニングの趣味があるので国家資格である造園技能士の資格を取ることを目標にちょうど去年から受験準備を始めました。
本職はITエンジニア兼プロジェクトマネージャですが流行りのリスキリングでハイブリッドのスキル保持を目指そうかなと思い1年弱の準備をしてR6年度、2級造園技能士の資格を取得することができました。

2級造園技能士は、造園に関する基礎的な知識や技能を習得していることを証明する国家資格です。
ITエンジニアなのになぜに、AWS認定資格とかIPA高度試験じゃないのかと思われる方が大半だと思います。
私のメイン分野の一つであるIoT関連でIPA高度試験エンベデッドシステムスペシャリストは受ける予定です。そこで、IoT関連でスマート農業と造園関連でのスキルを抱き合わせてスマート造園やデジタル化されたグリーンインフラストラクチャ等に生かせないかと思った次第です。資格を取っただけでは何もかわりませんがきっかけ作りには十分なインパクトがあります。

2級造園技能士の試験内容を少しお話しします。造園経験は若いころの剪定、植栽ぐらいしかありません。資格取得準備に1年弱使いました。

試験は学科、実技(要素試験及び作業試験)があります。
合格ラインは学科で65/100、実技で60/100、ただし実技は要素20、作業80のそれぞれ最低4割は取らないといけない。例えば、作業試験で80満点を取っていても要素試験で8点を下回ると実技は不合格となります。

学科試験

学科はどの分野においても同じで過去問を周回してわからないところは参考書で勉強するところは同じです。
「造園技能検定問題集精選500題」で過去問を3周すれば合格点には確実に届くはずです。難しくはありません。私は調子にのってしまって6週もしてしまい点数は1問間違いで98点です。

経験値は人によって違い、分野も違いますので一概には言えませんが、学科は勉強しなくても経験値と常識、論理的思考で4割は取れます。
私の場合、生物学系出身でかつ図面設計もしたことがあるので、何もしなくても5割取れそうな気がします。しかしながら合格点に達するにはやはり勉強が必要となります。本職の造園屋さんであれば勉強しなくても6割はとれるものなのかもしれません。

普段の生活で観察できる範囲でもわかるものもあります。

例えば次の4択問題
Q「高さ4mのハナミズキを街路樹として狭い場所の植樹帯に植栽する場合の支柱として、適切なものはどれか。」


イ.竹を使用した八つ掛け支柱
ロ.丸太を使用した方杖支柱
ハ.丸太を使用した鳥居支柱
二.丸太を使用した布掛け支柱

正解は「ハ」です。筆者は通勤で京都烏丸通を歩いていますが道路の中央分離帯に植栽されている樹木を眺めながら歩いています。ハナミズキ、ユリノキ等で木を支えているのは鳥居の形をした支柱です。ですので「ハ」が正解であることがわかります。
この鳥居支柱のねかせ角度についての問題も過去問にはあります。

地面に対して約60度、70度、80度、90度のどれか。

正解は80度です。これも鳥居支柱を思い出しながら角度を想定すれば導きだせます

転移・転生ものアニメ好きであれば次のような問題さえも推測できます。
Q「フランス式庭園の説明として、適切でないものはどれか。」


イ.イタリア式の立体式に対して平面的である。
ロ.園路が集まる場所には、噴水や彫刻などが置かれる。
ハ.曲線園路が多く用いられている。
二.主要建築物の周辺に花壇を作ることが多い。

正解は「ハ」です。転移・転生ものアニメで出てくる西洋風の城や屋敷のシーンを思い出すとまさしく表現される庭園はなぜか典型的なフランス式庭園です。門から屋敷の扉に向かう直線的な園路、中央に配置された噴水と彫像、花壇が浮かび上がります。「ハ」の曲線園路は間違いです。

とはいいながら勉強していないと全く分からない問もありますので勉強が必要なことはいうまでもありません。ただITエンジニアであれば皆さんIT系の資格取得で勉強されたこともあると思いますがそれよりも遥かに簡単です。

実技試験

実技試験は2つから構成されます。

1.要素試験(20点満点)

これは全115種の樹木からランダムに選択された15種を見極める試験です。小枝付き葉っぱの実物が展示されてそれを当てるというものです。(115種の名前が載ったリスト表は事前に配布される)
最低8点はとらないといけない。6~7種類は絶対正解しなければなりません。15種なのに20点ということは、ほぼだれでも分かる樹木は点数が低いのかもしれません。例えばイロハモミジとかです。葉っぱだけみて115種を見分けるのは大変です。特徴がそれほどない葉っぱはどれも同じように見えてきます。

受験する地域周辺の15種の樹木が選ばれるので、北とか南の樹木は捨てて30種に絞り込んで重点的に覚えこみました。それで10種は正解したと思っています。
30種をカードにしてシャフルして寝る前に覚えていました。おかげで葉っぱの悪夢にうなされたことがあります。
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2.作業試験(80点満点)


作業内容は区画内で四ツ目垣製作、飛び石・敷石敷設、低木植栽を仕様、施工図面通りに標準時間2時間半で製作する試験です。延長は30分までですが経過時間とともに減点されます。それを超えて完成しない場合は失格となります。

これは作成練習しないと絶対に合格できません。
四ツ目垣の結び方は裏綾掛けいぼ結びとからみ結びです。お寺や神社あるいはご近所で竹垣があれば一度観察してみてください。結び方にもいろいろあります。
四ツ目垣は試験日までに合計4柵作って練習しました。庭に結束練習用の少し小ぶりの四ツ目垣を作って何度も結ぶ練習をしました。裏綾掛けいぼ結びの結束箇所は18か所あり1か所にかかる時間をなるべく短縮する練習が必要です。プロの職人さんなら1か所10秒で、私は30秒前後ぐらいでしょうか。
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敷石はホームセンターから2つ買ってきて設置練習しています。どれぐらいの重さかを知っておく必要があります。還暦をとうに過ぎている私に持てるのかどうか。重さは次のようになります。

敷石(花崗岩)長さ60cm×幅30cm×厚さ6cm 29kg前後
飛石(花崗岩)踏面35~50cm程度 厚さ10cm 38kg前後
縁石(コンクリート)長さ60cm×幅10cm×厚さ10cm 14kg前後
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ちなみに、これはChatGPTに重さを聞いてみました。実際敷石の重さがそれぐらいですので合っています。
飛石は40kg弱と重いです。試験当日は台風の影響により雨で石も濡れ、地面はもう泥状態で注意しないと滑ります。専門学校生と思われる女の子も受験されていましたが、非力な女子でこれ持てるのだろうか心配になるぐらいです。

植栽はぶっつけ本番です。これは図面の指定位置に植えるだけで問題ないです。細かいことはいろいろありますが、あまり減点対象にはならないと思います。

さて、剪定、植栽ぐらいしか経験がなかった私ですがこの一連の作業はいったいどれほどの時間で作成できるものなのか。
時間をかければ造園経験者であれば誰でもできます。しかしながら制限時間2時間半で仕上げないといけません。幸い私が受けた受験地では本番試験とおなじ作業区画で材料支給(植栽は無し)の有料でトライアルを受けることができました。

実地トライアル

結果、30分オーバーでギリギリの3時間です。ただし植栽はしていないので実際はもう少しかかるはずです。本番までに30分の短縮が必要です。寸法精度はあきらめて全体的に作業のスピードを上げることにしました。

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だいたい四ツ目垣の裏綾掛けいぼ結びは18か所、1か所30秒で9分、もたついて1分かかるとそれだけで9分差になってしまいます。
早い人だと10秒で結ぶことができます。その他に短縮できるとすればコンベックス(メジャー)を腰のフォルダーに装着できるようにすることで、何回も計って出し入れするのに作業短縮できます。水平で水糸でライン取るのに1ラインだけにする。後はイメージトレーニングで合計30分を短縮すること目標にします。
得点は減点法で、寸法精度(施工図面記載のサイズ、位置どおりか)、寸法精度は許容範囲の大きさにより減点されます。チェック内容は公開されていないので正確には不明です。仕様間違いは大幅な減点となります。アプリケーションの作成と同様ですね。仕様間違いは論外です。この試験での仕様間違いは例えば、結び方が裏綾掛けいぼ結び、からみ結びになっていない。竹の上下である末口、元口を間違えている敷石の設置位置が全然違っているとかなどです。
実際、試験になると緊張によってからみ結びで巻いていくスタートの部分を間違うとわけがわからなくなります。やり直しをしていると相当時間も消費してしまいます。練習して体で覚えておく必要があります。

本番作業試験

さて、本番がやってきました。例年9月の後半に試験はありますが、猛暑の暑さで体力が削がれ体力勝負でもあります。
試験会場は場所によりますが私の受験地では日射を避けるため黒い透けた天幕が張られていました。
しかし当日は台風の影響で雨によって地面はもう泥状態になってしまっていました。開始時間もある程度雨がやむまで延期されました。ただ温度だけは前日は35度超えていたのに、奇跡的に25度で日射もありません。ワークマン空調服のファンは無可動でも問題なく作業できました。黒い透けた天幕はある程度雨を防いでくれました。

ただ、地面の作業環境が劣悪です、駆け出しの私にとって雨での作業なんてしたことがありません。当然予想外のことが起こります。
時間短縮の為、腰に付けたコンベックス(メジャー)装着フォルダー。ガンマンよろしく取り出しと装着の練習をしていたのに、コンベックス(メジャー)を使う度に泥が付着し巻き戻らなくなってしまいました。装着できなくなったのです。
もう諦めて出したテープはそのままにして計っては地面に放置を繰り返すことにしました。道具をそういう風に雑に扱うことは作業時の減点になりますが、それよりも作業時間を短縮する方を取ります。

次に水糸をGLから5cm張った高さに敷石を設置するのですが、地面を掘ってちり5cmに合わせて設置しても、掘ったところが泥と水で時間が経つと沈み込んでしまいどうにもなりません。濡れていない砂を底部に入れるしかないです。実際に試験官の方が泥水状態のところには砂を途中補給されていました。

時間ロスも甚だしいところですが、逆に良かったのは、支柱の立てる時に60cmほど掘る必要があるのですが、もうさくさく掘れました。立子などは高さを揃えるのに地面に打ち付けるため地面をほぐしたりする必要がありますが、それはせずに地面が柔らかいのですぐに立てられました。

飛石は40Kg弱あります。雨で滑りやすく持ち上げるにも大変です。施工図面どおりの位置に仮置して、印をつけて一旦どけて穴を掘るのですが、このときにはもう石を持ちあげるのに余力がなく、滑って落としてけがでもしたら失格なので、バールで少し浮かせて裏返してよけて穴を掘ってまた戻してちり3cmに設置しました。
通常の作業ではこういうことはしてはいけません。高価な飛石の場合、表面に傷がつくとまずいですし、苔を生やした石などは台無しになるので、試験なのでそういうことは無視して行いました。ただこの方法でも作業の減点はないかと思います。

チェック項目と減点の値は秘匿事項となっており公開されていません。公開すると処罰対象となります。
最近、技能試験のチェック項目と減点表を持ち帰って失くしてしまった試験関係者がいてお詫びの案内がホームページに記載されていました。

飛石、敷石、自然石を設置したら最後に植栽します。これは施工図面の位置に穴を掘って植えるだけでだれでもできます。
ポイントは正面からみて木が真っすぐに見えるように見栄えよく植栽します。私の植栽は曲がっているので減点です。回転させて正面からは真っすぐに見える必要があります。
下草は飛石に掛からないように調整します。

最後に整地と掃除ですがもう泥状態で整地の体をなしておりません。雨のせいですが、それでも減点対象です。作業後には工具類は綺麗にまとめてシートに納めます。私の場合はばらばら状態ですので減点です。

作業時間はなんと手を上げて作業終了報告したときに2時間29分でした。2時間半に収まりましたのでよしとします。
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終わってズボンは泥だらけになりながらテント内の椅子に座りこんで、ふと"私ITエンジニアでしたよね"と。
この時はもう二度としたくないというのが感想でした。
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この時私は禁煙してかれこれ24年経ちタバコなんて吸いたいとも思わなくなっていましたが、この時だけは吸いたいと思った。造園関係者の喫煙率って高そうです。皆さん休憩時間に車内でタバコ吸っておられた。別に悪くはないですが。

黒い透けた天幕下の試験作業場を見るとまだ7,8人は作業されていました。そのうちにひとりひとり作業終了合図されて終わっていくのですが、一人だけ30分オーバーぎりぎりまでやっていた方がおられた。

専門学校生のグループの方で男の子です。会場には大型バスで各自工具類を載せて現地入りされています。先ほどの女の子もこのグループのようです。
引率の若い女性の先生はもう手に力をいれて少し離れたところから彼を見守っています。
試験官の方も心配そうに皆さん集まって様子をみています。試験官からみたら自分の子供か孫の年代にあたるかと。いや私から見てもそうかも。

作業が終わって彼がやって来た時には、私も含め皆さん拍手をしていました。よくやりきったと。ただ、延長時間30分を使い切るともしも1分1点減点だと基礎点は50点(満点80点)からになり、見栄え、寸法精度チェックで減点があると合格は厳しいものがあります。ほぼパーフェクトに仕上げていれば、要素試験の得点も上乗せしてまだチャンスもあるかとこの時は思っていました。
造園作業に向いていないじゃないかと、多分この場の受験者のだれもが思たったでしょう。もしかして本人すらも思ったかもしれません。

ところがです。彼はやりきったようです!
合格者発表で私は精度も出なかったですがたぶんギリギリ合格できました。私の受験番号から推測して彼の番号を見ると受かっているではないですか、さらにこの専門学校生グループは全員受かっている模様です。
造園作業に彼は向いていないじゃないかと思いましたがそうではなくて、将来はすばらしい丁寧な仕事ができる職人に成れると思った次第でなんか嬉しかったです。
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以上が2級造園技能士の資格を取ったお話しでした。おかげで庭の竹垣をみて、自分のところにも立てて欲しいとの依頼がちらほら入ります。

私は今週末にはIPA高度試験エンベデッドシステムスペシャリストを受けます。こちらは、勉強はしておりません。過去の経験と知識のみで今回初めて受験します。試験当日は最高パフォーマンスが出ますように。またIPA高度試験受験される皆さんも最高パフォーマンスが出ますように。

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