『過去からのメッセージ』 -仮想通貨買っといたからね-
皆さん、一度はあの時の株買っておけば、仮想通貨買っておけばと思ったことがあると思います。過去の自分に教えてあげたいという願望が生まれます。
今回の物語は"ネット時間軸で過去に戻った時に"の架空の物語です。
-序-
2022年6月、どうやら寝落ちしたようだ。握り締められたワイヤレスマウスからの青色の光が目に飛び込んできた。真っ暗な部屋でモニターがやけに明るい。
「Twitterのタイムラインを見ながら寝落ちしたか。まったく還暦で何をやってんだか......」
「ん? 寝ている間に無意識に自分のタイムライン表示を十年も遡ったのか」マウスホイールに人差し指が乗ったまま右手が強張っていた。
タイムラインは2012年11月9日を表示している。
『コーディングスピード 1000行/6H』とツイートしてあった。
十年前つまり五十歳の時のコーディングスピードである。五十にしてその速度はまあ、よろしいのではと自分のことながら苦笑して明かりをつけた。
-覚醒-
ゲーミングチェアに座り直し、Twitterのタイムラインを再表示する。がしかし、2012年11月9日が最新のままで、PCの時間も同日時を表示していた。自分のブログはおろか、世間のネットサイトも同じである。
スマフォをwifiからモバイル回線に接続し直して改めてスマフォを見ても、何もかもその日時である。
「まだ夢を見ているのか? 何かのネット上の実験? まさか2022年が未来だったのか?」
そんなはずはない。記憶はたしかに2022年6月まである。ついこの前も、定年退職兼再雇用祝いをしてもらった。
どこのサイトを何度確認しても、今はネット上では2012年6月である。自身が管理しているサーバにログインして、NICT公開NTPサービスにアクセスした。時刻を再取得しても結果は同じであった。ネット上は2012年の過去であることは間違いなかった!
本能的にこの状況を維持するには、この場所にとどまること。そしてやるべきことはただ一つ。
まず、この十年間に蓄積された自分の記憶にないことは発生させてはだめだ。不整合がおきて自史の揺り戻しがくるかもしれない。タイムパラドックスだ。
2022年6月以降にイベントを発生させる必要がある。今やろうとしていることも忘れる必要がある。
-過去実行-
現在、ビットコインはたったの千五百円、この日に手持ちで自由にできるのは一千万円。手持ち全額買ったとしたら絶対忘れないだろうからその十分の一の百万円分を買うことにして塩づけして忘れることにする。
海外サイトにアカウント作成、アカウント名、パスワード、メールアドレス、誕生日を入力し、ビットコイン666分を購入。
後はこの行為を思い出すのに未来への告知をどうするか?
タイムカプセル郵便だと現物の郵便を書かなくてならない。
未来へのメール配信サービスで2022年までサービスしているサイトは覚えていない。
借りているサーバにCRONのスクリプト組もうにも、十年間で複数替えているのでだめ。
さらに移設時に絶対CRON設定みるのでだめ。そのような設定の記憶は自分にはない。
十年後の2022年まで継続できる自分のコンテンツでブログやSNSの履歴に現れていないものは何か? ひとつだけ目的にそうぴったりな物があった。早速、とあるオブジェクトにコードを1000行ほど追加した。
-再覚醒-
カタン、床にワイヤレスマウスが落ちて青色の光が消えた。電池がワイヤレスマウスから飛び出したのであった。
窓から朝日が差し込んでいる。差し込んだ光が照らしているカレンダーは2022年。
「あれ、もしかして二度寝してしまったのか? まったく還暦で何をやってんだか......」
最近、気になることがある。それは暗号資産のビットコインのことである。暗号資産の取引所は日本のサイトに登録していたが、海外の老舗サイトにも登録しようとしたのだが、
既に「お使いのメールアドレスで登録済み」とエラーが出る。
パスワードリセット要求するも、誕生日が違うらしくそれ以上進めなかった。いつも本当の誕生日以外は1970/1/1とか2000/1/1とかのダミーを登録するのだが違うようで全くもって不明であった。あまりしつこく要求するとブロックされる危険性がありどうしようもなくなっていた。仕方がないので違うメールアドレスで登録しようか迷っていた。
そんな状況で、このツイートが飛び込んできた。
-過去からのメッセージ-
「2012年11月9日にXYZで仮想通貨買っといたからね。パスワードは忘れた。誕生日は洗礼日だよ」Twitterより。
何これ? 仮想空間サービスに設置している鉢オブジェクトから自動的にTwitter連携されたものだ。そのオブジェクトに自動的にタッチしたアバター名とメッセージをTwitter連携するもので、オブジェクト自体は2008年から使い回している。
「こんなメッセージなんて埋め込んだ記憶ない。いや昔、なんのためか定かではないが、重要なコードを1000行ほど埋め込んだような気がする」
「老舗の取引所XYZって、誕生日で撥ねられたとこじゃないか...... 洗礼日だって?」
自分の洗礼日を知っている人なんてほぼ自分だけ。身内ですらもう覚えてないだろう。
書庫からカトリックの洗礼証明書を取り出して洗礼日を確認した。こんなの自分でも今覚えていなかった。
XYZサイトでメールアドレス、誕生日に洗礼日を入力、パスワードリセット要求ボタンをクリック。
「通った!」
ほどなくメールが来た。本文にはパスワードリセットのリンクが付いている。
パスワードをリセット実行。
-ログイン-
XYZサイトにIDにメールアドレス、変更パスワードでログイン。メッセージが出てきた。
"マスター、十年ぶりのログイン。お待ちしておりました"
"あなたの保有ビットコインは666 (22,289,022 USD)です"
間違いない。あの時に手に入れたのか。よくぞ十年も自分の記憶から消せた。
いや、はたして記憶から消えているのはこれだけなのか?