書籍「進化のからくり」を読んでみた。今役立つことが全てじゃない!【第29回】
ありがとうございます。平岡麻奈です。連日雨模様ですが、こういう時こそ読書が進みます。本から得る知識は様々です。知らない世界のことを知り、到底今の自分では直接出会えないような方の思考を知ることが出来る。そして今この瞬間から、読書で得たことを自分の力として育てることが可能です。今まで全く興味がなかったジャンルに挑戦してみたり、敢えて「初心者」になることは、生きる楽しさを見出します。今まで慣れ切った世界の反対側、その隣。今の視点が全てじゃない。まだまだ世界は面白いと感じさせます。
また、興味の湧くタイミングも予測出来ません。例えば、この連日の雨。雨ばっかりで嫌だなあという感覚から一歩踏み出せば、天気について詳しく勉強したくなるかもしれません。毎朝何気なく見ている天気予報にも、どうしてこの予報になるんだろう?という思考が働けば、興味が湧いている証拠です。そこで突き詰めるかどうかは本人次第。読書には、こうしたきっかけが沢山存在しています。
今回ご紹介する書籍は、『進化論』がテーマです。本を選ぶ時、まずタイトルを見て惹かれるワードを探す。「『進化論』ってなんだか面白そう」という小さなワクワクを自分の中に見つけます。そのジャンルに詳しくなくても良い、これから詳しくなる為に読書をする。私にとって読書は知らないことを教えてもらえる先生のような感覚です。読み進めていくと研究の話が多く活写されていました。その時、大学時代に研究室に所属していたことが蘇りました。今になって思うこと、もっと深く研究をしていたらどうなっていただろう?いや、今からでも遅くないかもしれない。どういう選択をするかは本人次第。エンジニアライフコラム「平岡麻奈のちょっと一息」の第29回は、『進化論』が生み出す魅力溢れる1冊を紹介します。
進化のからくり
現代のダーヴィンたちの物語
【著】千葉 聡
https://www.amazon.co.jp/dp/4065187214/
「『進化のからくり』の解明に魅せられた進化生物学者たちの知的なワンダーランド」を描く本書は、研究への興味を加速させるものでした。毎日研究に没頭することへの葛藤、迷い、そして成果が現れた時の感情等、文章から伝わる躍動感には心を動かされます。
・「刻々と変化していく環境の中では、どれが有利になってどれが不利になるかは、事前には誰もわからない。どの変異が役立つかは、後にならなければわからないのである。」(第4章 進化学者のやる気は謎の多さに比例する P,74)
・「自分は何者なのかを知りたい、という好奇心です。それも人間としての自分ではなく、一つの生命体としての自分です。究極的には、生命とは何か、という問いに対する何らかの答えを得たいと思い、研究を続けているのです。」(第5章 進化学者のやる気は好奇心の多さに比例する P,109)
どうして研究をするのか。学生時代の私にはまだまだ理解出来ていなかったように感じます。それは、与えられた研究課題をどこかで、これは将来自分の人生に役立つのか?と疑問に感じていました。将来なにが役立つかなんてわかりません。もっと深く知っておけばよかったと感じるタイミングは、不意に訪れるもの。何に対しても決めつけすぎることのないようにしたいものです。
「好むと好まざるとにかかわらず、すでに私たちの目前に、新しい優生学の脅威が迫りつつあるのだ。ゲノム情報で序列化され、マシンのように効率化された人生――道を誤れば、恋愛など不要とされるディストピアがやってくるかもしれない」(第6章 恋愛なんて無駄とか言わないで P,126)
思わず ドキッとしてしまった文章です。確かに効率が悪いことって生きている上では多いですし、もっとテンポよく物事を進めたくなることもあります。けれど、「序列化され、マシンのように効率化」された人生を本当に求めているのでしょうか。本書では、「進化学にはそれを回避する力がある」と示されています。違う生物・個体には本質的な優劣がないことにより、生きる上での有利不利が条件次第で変わることを教えてくれます。「ヒトを人たらしめているものは何か」という問いに対する答えを導くツールこそ、『進化論』であると説いています。
・「カタツムリに関しては、私自身の進化研究の成果に勝負をかけたわけだ。かくして調査員への解説――室内のプレゼンと野外での説明は、小笠原の命運を背負い、絶対に失敗が許されないものとなった。どうすれば、あの見た目が地味でマイナーな生物の価値を伝えることができるのか。」(第8章 ギレスピー教授の贈り物 P,151)
・「クモはたいてい誰にも気づかれないか、嫌われ者の存在です。でも生態系の中で、とても重要な役目をしています。目立つ生物だけを大切にするのではなく、目立たぬ生物、マイナーな生物も、等しく大切にしなければなりません。」(第8章 ギレスピー教授の贈り物 P,157)
著者は巻貝研究の第一人者の方です。日常生活の中で「巻貝」に触れること、「巻貝」の話題になることもない中でも、読み進めていけば「巻貝」のことをもっと知りたくなる。全く知識を持ち合わせていない相手にどうすれば良さが伝わるのか、こういった目線でも、本書は学ぶべき点が多くありました。そして、一見目立たないものにも大きな可能性や壮大な歴史が刻まれていることを知り、未知なことに遭遇すればするほどに、研究への熱量はあがってくるものだと感じました。
・「誰も調べていないのなら、調べなければならない――彼はそう主張した。まだ誰もやっていない、見たことのない、誰も真実を知らない――こうした言葉は、彼の闘志に火をつけるのだ。」(第9章 ロストワールド P,162)
・「学生の頃は自分もそれを楽しんでいたはずだった。だがいつしか、私のフィールドワークはデータを取るための作業になり、論文を書くための手段になった。仕事なのだから楽しんではいけない、と心に蓋をしたのかもしれない。でもそれは間違いだ。楽しんでよいし、楽しむべきなのだ。」(第9章 ロストワールド P,171)
誰かが今まで沢山勉強をして調べた結果は、実際に確認出来るからこそ安心しますが、新鮮味に欠けるものがあります。きっとまだまだ知られていない世界は無数にある、はたまたそのような世界に巡り合えたなら、「研究者」の闘志と、研究を楽しむ気持ちを取り込んでみてはいかがでしょうか。知らないことに出会えた!と嬉しさを覚える生活は、きっと1日を有意義に過ごせるはずです。
・「真実はひとつである。だが人の心に映る真実は、一つとは限らない。だからこそ、何が真実かを追い求める科学は尊く、価値あるものなのだと、私は信じている。」(第11章 エンドレスサマー P,206)
・「どんなにアイディアが素晴らしくても、それを支えるスキルが無ければ研究は成功しないものだ。だがスキルを得るには年月がかかる。だから、役に立つかどうかに関わりなく、何かのスキルを持つ多彩なテクニシャンや専門家を養う多様性の高い社会は、その何かを必要とする時代が思いがけず到来した時に、大きな恩恵を得る。」(第12章 過去には敬意を、未来には希望を P,208)
人それぞれ考え方は違いますし、正解は人の数だけ存在する。ひとつの言葉さえも、受け手によって悲しくも嬉しくもなる。そんな曖昧さこそが「ヒト」でありながらも、「ヒト」は色々な試行錯誤をしながら真実を追い求めます。追い求めるには多くの時間と経験と好奇心が必要。どの分野に多くの時間を使えば真実を知ることが出来るかはわかりません。今与えられている勉強や仕事内容に対して、将来に役立つのかな?とか無駄なんじゃないか?と考えてしまうとしたら、まず今行っていることを自分のスキルとして育てることを決める。そうすれば、1週間後かもしれないし、1年後、数年後に、やっててよかった!と思えるようなチャンスに巡り合えるのではないでしょうか。
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