新米武装派フリーランスプログラマ男子(0x1d歳)

孤独のエンジニアめしばな 最終めし「職場めし」

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あらすじ: ITエンジニア向け情報サイト「&IT」の企画により、『エンジニアめし』という題材で、お互いのめし論をぶつけあうことになった3人のコラムニストたち。彼らは実体験に基づいためしばなを披露し、企画は成功裏に終了したかに思えた。しかし、帰り際にインタビュアーの竹金が興味本位で尋ねた「エンジニア禁断のめし」という言葉に、彼らは慟哭する。そして重々しく口から流れ出た言葉……それは――『職場めし』――!!

竹金「『職場めし』……!? 」

Jさん「そや……」

竹金「それは……いったい……? 」

Iさん「竹金さん、あなたにも経験があると思います。仕事が忙しく、飯を食いに行く暇も取れずに、自席でコンビニで適当に買ったものをキーボードを叩きつつ食う『めし』……」

竹金「え、ええ……(わりとよく)ありますが……それが何か……? 」

Tさん「まさにそれです。それがよくないんですよ」

竹金「確かに、毎日コンビニ弁当では栄養が偏りそうですが……でも、最近は健康ブームですし、お弁当を自分で作って食べるというエンジニアも……」

3人「「「いるかッ!!!! 」」」

竹金「ひいぃッ! 」

Jさん「そんな『アラサー草食系男子エンジニアの元に、突然の姉の事故死で本当は血のつながっていない従兄妹の女子中学生と一緒に暮らすことになり、お互い戸惑いながらも弁当を通して心を近づけていく……』みたいな話、あるわけあらへん! 」

Iさん「そのとおりです! 口数が少なく、何を考えているのか分かりづらいように見えて、実は感情豊かで特売商品に目がなく、一方でクマのグッズを集めるような少女らしい一面も持つ、黒髪ポニテの美少女中学生のために毎日お弁当をつくるエンジニアなど、現実には存在しえない……いや、してはならないのです!! 」

Tさん「しかも同僚の、ちょっと年下の眼鏡美人からも、お弁当の中身のおかずを通して遠まわしにアプローチ受けたりとか、まったくもって本当にけしからん、けしからんですよ!! 」

竹金「は、はあ…………(ただお弁当の話をしただけだったのに……なぜそこまで具体事例を……??? )」

Tさん「竹金さん。『職場めし』が悪いのは、肉体的、栄養的な面ではなく、精神的な面なんです。エンジニアという人種は、どうしても仕事に追われて脳が仕事でいっぱいいっぱいになってしまいがちだ。そんな中で『めし』を食うという行為は、仕事のことをしばし忘れて『めし』のことだけに集中できる、貴重この上ないリフレッシュの時間なんです」

Jさん「そや。毎日毎日、自席でめしを食い、残りの時間を寝て体力回復に務める……もちろん、デスマ中の昼休みがどうしてもそうなりがちなのは分かる。だが、その場合でもせめて、夕飯ぐらいは外に食べに行きたいもんや。一日中、常に職場というのは、知らず知らずのうちに気が滅入ってしまう」

Iさん「自席でめしを食べる以外にも、いつも同じメンバーで同僚と一緒に飯を食いに行くという人も多いでしょう。もちろん、同僚とコミュニケーションを取るのは素晴らしいことです。ですが、常に同じメンバーではなく、普段はあまり誘わない人を誘ってみたり、たまには1人で辺りを散策したりすると、また違った刺激を受けられますよ」

竹金「……なるほど……エンジニアにとっての『めし』は、すべてのエンジニアに与えられる、数少ないリフレッシュタイムなんですね……勉強になりました」

Tさん「いやそんなそんな」

Jさん「ええってええって」

Iさん「お気になさらないでください」

……

 その後、楽しげに『何を食うか』で盛り上がる3人を玄関まで見送った竹金は、別件インタビューを記事に書き起こすべく、編集室でひたすらキーボードを叩いていた。時間はそろそろ21時をまわろうとしている。胃が空腹を覚える時間帯だ。いつものように机の中の軽食でも……と引き出しに手をかけたところで止まる。

 竹金は、先ほどの3人のエンジニアのことを思い出した。全員が全員というわけではないが、エンジニアには良くも悪くも、仕事のことで頭がいっぱいになってしまう人が多い。そして彼らも、自分たちにそういった一面があることを否定していなかった。

 そして、だからこそ、『めし』というリフレッシュが、何よりも重要なのだと、彼らは言っていた。そう、彼らにとって大事なのは、『どんなめしを食うか』ではなく『どうやってめしを食ってリフレッシュするか』なのだ。

 だからこそ、彼らはあんなに懸命に『めし』について語ったのだろう。『めし』というものは、エンジニアという厳しい仕事を日々こなしていくなかで、エンジニアが砂漠に見つけた、ちっぽけなオアシスなのかもしれない……。

 竹金は小さくため息をつくと、伸ばしかけていた手を戻し、ディスプレイから目線を外した。そして、はす向かいでキーボードを叩いている後輩に、小さく声をかける。

「……大田さん」

「はい? 」

「よかったら夕飯、食べにいかない? 」

Fin.

 

参考文献: 高杉さん家のおべんとう

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