新米武装派フリーランスプログラマ男子(0x1d歳)

SIerは衰退しました ―ようせいさんの、たいかんきょほうしゅぎ― episode 2

»

 わたしが『戦艦』の名前をあげた途端、妖精さんたちの瞳がいっせいに輝きだしました。彼らはアニメだけでなく、軍事関係のお話も大・好・物なのです。理由はよく分かりません。祖父に尋ねたことがありますが、彼が言うには「プログラマとは、そういうものだ」ということらしいです。まったくもってよく分かりません。

 「せんかんー?」「やまとー」「ながとー」「あやなみー」「そうりゅうー」「はい。ですがラインアップ、明らかに偏ってますよね。あと綾波と蒼龍は戦艦じゃなく、駆逐艦と空母ですよね」

※初出時はどちらも駆逐艦になっていました。ご指摘有難うございます

 「ええー?」不満気な声をあげる妖精さん。「せんとうかんのりゃくだとこくえいほうそうが」「くうぼもせんすいかんもぐんかんである」「ぐんかのひびきけしからん」「いっぱつだけならごしゃかもしれない」

 こめかみに鈍い痛みを覚えました。「そういう左サイドオーバーラップ気味な発言はやめてください。手痛いカウンター喰らいますよ」「かてなちおです?」「じゃいあんときりんぐ?」「すといこびっちならあるいは」「べっかむのふりーきっくです?」「じだんのずつきこわい」

「ええと、話がまったく先に行かないので、進めますね。『SIer』が『戦艦』に例えられる理由ですが、ひとつはその生い立ちにあります」「おいたちー?」「そだってきたこうちくてじゅんしょがちがうから?」「よみあげくろすちぇっくはいなめない?」

 わたしはもはや対話という相互理解プロセスをあきらめ、話を続けます。「戦史において『戦艦』が艦隊決戦の雌雄を決する主力艦として位置づけられたのは、日露戦争の黄海海戦、および日本海海戦の戦訓によるものでした」

 「にちろー?」「さかぐもかー」「てーじせんぽう」「とうごうたーん?」「てんきせいろうなれどもなみたかし」「はい。世界最強クラスと目されていたバルチック艦隊に対し、極東の弱小島国が起こした奇跡――歴史的にもまれな、一方的大勝利です。これにより、以後の帝国海軍はいわゆる『大艦巨砲主義』を突き進むことになりました」

 「自らの主砲に耐える圧倒的な防御力と規格外の射程を誇る『戦艦』を主力艦として艦隊を編成、長射程主砲によるアウトレンジ攻撃で敵の主力艦を沈めることで、艦隊決戦に勝利するという、帝国海軍独自の戦術――いわゆる『ドクトリン』が確立したわけですね」「ふむふむ」「きょじん」「たいほー」「たまごやき」

 「しかし皮肉にもその帝国海軍こそが、戦艦の有効性とそれを用いたドクトリン、そのものの存在価値を否定することとなります。それが、真珠湾海戦やマレー沖海戦の戦訓が示した、海戦における『航空機の優位性』です。空中という3次元運動が可能な多数の航空機と、それを運用する航空母艦。その攻撃力と機動力が、戦艦の防御力や射程を上回ってしまったのです」

 妖精さんたちが、わいわいがやがやと議論をはじめます。「だいにじたいせんれべるではどうです?」「しゅってんをようするきじ?」「どくじけんきゅうです?」「ゔいてーしんかんさえあれば?」「しかしゆうどうへいきが」「でんたんのゆういせいもすてがたい」「だめこんもじゅうようですゆえ」わたしはもちろん、無視、無視、アンド無視。

 「そしてもうひとつ。『戦艦』の致命的な問題となったのが『建造、運用コストの高さ』でした。戦艦はあまりにコストがかかりすぎるため、高価すぎて使うに使えない兵器になってしまったのです。ようは『お飾り兵器』になってしまったのですね。ちょうどこれと対照的な例が、かの有名な『Uボート』。ドイツ海軍は無制限潜水艦作戦による通商破壊によって、非常に費用対効果に優れた成果をあげました」「さんそぎょらいはよかった」「おぺれーしょんろーれらいさえできれば」「ふくいしんじゃおつおつです?」

 わたしは斜め上に盛り上がりまくる妖精さんたちを一瞥し、まとめに入ります。「さて、これらの戦訓および歴史的教訓のすべてを『SIer』へと当てはめると、いったいどうなるでしょうか? いわゆる『IT革命』の起こった2000年代前半、『SIer』は『ワンストップ・ソリューション』をスローガンに発展を続けました。これは簡単に言うと、『SIer』へとシステム構築の仕事をほぼ丸投げし、あとはすべてお任せという仕組みです」

 「これもいわばシステム開発における『ドクトリン』――『戦術』の1つといえるでしょう。誤解を恐れずに言うならば、決戦に向けての主力艦として、開発プロジェクトを率いる旗艦として、『SIer』という戦艦と、それをサポートする協力会社という形で『IT時代の聯合艦隊』が作られ、『情報システムの開発』という戦争に挑もうとしたわけです」

「そしてご存じのとおり、『SIer』は建築系ゼネコンや製造業、はたまた軍隊にも似た業界構造になりました」「しゅっかはんていかいぎです?」「ひんかんぶもん?」「なぜなぜごかいです?」「たすくふぉーすひとよんひとなのです?」わたしはまたも無視。

 「このような体制は上意下達がしやすいというメリットがありますが、プロジェクト体制がシステム開発規模に対して無駄に大きくなりがちという問題を抱えています。ゆえに全体として見ると、開発コストが増加してしまう傾向にありました。また企業が大きくなればなるほど、柔軟な対応は難しくなり、組織は硬直化していきました……」

episode 3

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する