髪盛ってるから森姫

「DELL Streak」という、甘美な響きに打ち抜かれて

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◆新宿に現れた赤い集団

 バレンタインもDevelopers Summit2011も無事に終了した、とある2月の休日のことでした。

 ギャルなので渋谷をうろついてそうにみえる森姫ですが、基本的な行動範囲は新宿です。

 そんなわけでその日も朝早くから新宿を散歩していたのですが、なにやら奇妙な集団を見かけました。

 黒スーツに顔を赤く塗った5人組。

 パフォーマンスか何かかと思ったのですが、気になるので「何してるんですか?」と話し掛けてみました。

 お兄さんたちは鋭いまなざしでこちらをにらんできました。怖い!!

 しかし、ここで退散したらかっこ悪いという謎のヤンキー魂炸裂でにらみ返していたら、普通のお兄さんが横からはいってきました。

 「あー、この人たち、喋れないんですよー」

 うなずく赤いスーツ。どうやらそういう設定らしい。赤いスーツはさっと胸ポケットから楕円のパンフレットをとりだして私に向けた。

 「今、キャンペーンやってるんです」

 あぁ、そういうことか……。と思いながら、そのお兄さんの説明に耳を傾けていました。

 よく聞くと、「DELL Streak」という端末のプロモーションとのこと。

 DELLといえばパソコンというイメージしかなかったのですが、どうやら携帯端末とのこと。

 「今はやりのAndroidですよ!!」というお兄さんの殺し文句。それまで青かった私の瞳が、がぜん赤くなっていくような感じでした。

 あぁ、スイッチが入ってしまった様子。

 「Androidだと……」

 「そうですよー。これ便利なんで……」

 「バージョンは?」

 「はい?」

 「OSのバージョンを聞いている!!」

 「(引きながら)えーっと、2ですけど」

 「2.1? それとも2.2?? どっちよ?」

 「えーと、そのあたりは分からないのですけど……」

 「端末を貸していただけるかしら?」

 「いやあの……あちらにショップがあるんで」

 「そこにいけばあるのね、端末」

 「は、はい」

 私はその日、最高の笑顔になりました。

 「ありがとう。行ってみます」

 それまでの散歩の速度よりも1.5倍ほど早いテンポで、近くのSoftBankショップに向かいました。

◆赤い衝撃

 私の伴侶(注:携帯端末)はdocomoのLYNXです。去年の夏、私はこの端末に恋をしました。

 美しい白い肌。心地よいキーボードの感覚。ガラパゴスケータイからも移行しやすいように配慮されたすばらしい画面。

 彼を手に入れて、私の生活は変わりました。

 もう、彼なしでは生きていけません。異性にはまったくモテなくなりましたが、私はそれでもよかったのです。

 LYNXがあればそれで良かったのです。彼以外の選択肢はありませんでした。そう、たとえ、OSのバージョンが1.6から上がることがなくても。

 しかし、「DELL Streak」が現れてしまいました。

 LYNXには存在しない、赤い肌。鍛えられたスピード。先ほどスーツのお兄さんが押してしまったスイッチは「恋」でした。

 私は、SoftBankショップで「DELL Streak」を5分ほど触りました。私はIS03にも、HTC Desire HDにも、LYNXの後継機であるLYNX 3Dにも、さらにいえば電子書籍リーダーであるGALAPAGOSにもときめきを感じなかった女です。

 なのに、「DELL Streak」を触った時、何かが飛びました。

 私の中の何かが飛びました。

 朝の早い時間です。店内にはさほど人はおらず、店員さんも雑務に追われている様子でした。番号札をつかむよりも早く、店員さんをつかまえて言いました。

 「DELL Streak、赤を1台、新規でお願い」

 かなり目が血走っていたのかどうだか分からないですが、私はとにかく早く出せと言わんばかりに店員さんにつめよりました。

 店員さんは「えーと、料金プランのご説明は……」

 「いいから、なんでもいいから早く出しなさい。赤をいますぐ!!」

 「はいぃぃっ!!」

 お兄さんが怖がっていた気がしますが、私は気にすることなく座って待ちました。

 「こちらです」

 お兄さんはご丁寧にも色違いである黒も持ってきてくださいました。が、黒は私の目にはとまりませんでした。

 「赤でお願いします」

 「ではお手続きを……」

 私はモノを書くスピードが格段に早いのですが、このときはマッハで手続きを終わらせるほど早かったです。

 一刻も早く、赤い彼をモノにしたい。

 お兄さんはマニュアルに書かれているであろう説明をしてきます。

 が、私は「最低限の説明だけでいいから、早く手続きしなさい!!」と乱暴に。

 今でこそ思います、ごめんなさい。店員のお兄さん。普段は穏便な私をそこまでさせる、赤い衝撃でした。

◆彼は去年から私のことを待っていた

 手続きを終え、彼は私のものになりました。

 このときの達成感は、今年初めてのものです。

 先日のDevelopers Summit2011での登壇を終えたときの達成感のそれよりも大きなものでした。

 急ぎ足で帰宅し、彼のセットアップを行いました。

 久しぶりに触れる、ソフトウェアキーボード。

 少し慣れませんでしたが、大画面で押しやすいためストレスも感じませんでした。

 セットアップが終わり、彼が私に心を開きました。

 「DELL Streak」はAndroid2.2の端末でした。

 DELL仕様にカスタマイズされた画面でも、バージョンが分かります。かなり素のAndroidに近い状態といってもいいでしょう。しかし、オリジナルで作成されたウィジェットが彼らしさを主張しています。

 壁紙は、冬の終わりを感じさせる青空。

 最初にインストールされているアプリケーションはSNS重視という優れモノ。

 良く調べてみたら、彼の登場は去年の12月だった様子。恥ずかしいことに、私は今まで彼の存在を知らなかったのです。

 あぁ、なんという誤算。なんという痛恨のミスでしょうか。もっとはやく彼のことを知っていれば……と思います。

 OSのバージョンが違うこともあり、LYNXとのスピードは比較にならないほど早いものでした。
ソフトウェアキーボードはストレスを感じるかと思いましたが、5インチの画面を横にして使用することで、ストレスどころか快感すら覚えます。

 特にQWERTYキーボードにしたときの打ちやすさはLYNXのハードウェアキーボードを超えていました。

◆好きです

 「ごめんなさい」私はLYNXに別れを告げました。

 「いままでありがとう。愛してた」と、白い彼の蓋をそっとなでて、引き出しに納めました。こうして、私はDELL Streakとこれからの人生を歩むことになりました。

 しかし、少し問題がありました。LYNXと歩む人生は「2年縛り」という契約があったのです。
これ以前に契約を解除すると、解除料が……計算はしたくないのですが、相当な金額です。

 私はLYNXの電源をいれました。

 「あと1年ぐらい、3人で生きていこうか」

 そんなわけで紅白の旦那と過ごす生活がはじまったのです。使い心地などはまたいつか。

◆お知らせ

 2月24日発売の『ASCII.technologies』4月号に記事が出ています。これまた本名なのでウォーリーを探すよりも難しいですが、今回はページ数が多いのでおそらくすぐ分かります……。

 よかったら、読んであげてください。

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コメント

第3バイオリン

森姫さん

第3バイオリンです。

私がMacbook Airを買ったときのことを思い出しました。
「婿」なんですよね!

>紅白の旦那

ここが一番の爆笑ポイントでした。

今回も、スピード感あふれる楽しいコラムでした。
新しい婿との生活、またコラムに書いてください。楽しみにしています。

インドリ

技術者の心を上手く表現していて、凄く面白かったです。
私も情報処理技術が生涯の伴侶です。

ある

伴侶と別れ次の相手に行きたいけど契約上すぐには行けない。
う~ん。女性の結婚生活に似てますね。

>これまた本名なのでウォーリーを探すよりも難しいですが
前の雑誌記事は、何より女性の物書きさんの人数から特定できました。
今回も探してみようかな。

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