地方エンジニアが感じる地方・中小企業での悩み

ケース・バイ・ケース

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 開発の世界だけにとどまらず、色々な領域で「目先のことに捕らわれずに」ということを言われたり、耳にする目にすることは多いと思います。将来的な事を踏まえて、近視眼的な視野で物事を決めたりせずに、もっと広い視野で決めていこうという事ですが、これは非常に難しい事だというのは多くの方がご存知の事だと思います。

 私達エンジニアの世界でも、直近の要望にただ応えていくのではなく全体最適を目指してなにがしかの行動を行えというのが、古くから言われている事です。確かに個別最適な状態よりも、全体最適が最も良い状況を作り出すのは疑いようのないことですが、では実際にどのようにすることが全体最適へとつながるか、という問いに答えるのは大変難易度の高い課題です。
 全体最適を目指す場合に必要となるのは、言うまでもなく全体的な視点です。一介のエンジニアにとっては、この時点で既にハードルの高さが伺えます。システム開発において全社的な規模での開発というか、要件定義というのは大変稀な出来事です。ほとんどの案件としては、特定部門の業務に対するシステム化であったり一部の作業を自動化するなどといった、限られた範囲となるものがその多くを占めています。考えておかなくてはいけない範囲を狭めることで、可能な限り適したシステムを提供することができるのですが、場合によってはこれが個別最適の一例となりえます。全社的な方針や姿勢をふまえて考えることで、違う形での解を見つけ提供できる、個別最適に対して全体最適はこのように課題に対しもっと広い観点から見た場合の対応を示しています。

 しかし良い事ばかりに思える全体最適には、大切な前提条件が隠れています。それは、システムを使うユーザー側が全社一体となっていることです。そのような風土でなければ、会社としての方針が上手く作用することはなく、むしろ害となることが多くなります。全社で一斉導入したソリューションに、「余分な機能ばかりで使いにくい」「現場ではこういうことしない」と文句が出てきているケースは、まさに全社一体となっていない現実を表しています。この状態で全体最適を謳ったところで、どれほどのメリットを作り出すことができるのでしょうか。

 まるで悪い事のように言われる個別最適も、上記のような環境では逆にメリットを生み出しやすくなります。現場に適したシステムを提供されることにより生産性や作業効率を向上しやすくする、と非常に分かりやすい価値がそこに生み出されることになります。この部分を見る限り、個別最適が常に悪手だとは言い切ることはできません。むしろ全体最適の方こそ悪手となりえます。

 全体と個別、こういった言葉だけに捕らわれている限り、本当の意味で最適な仕組みと言うのは作り上げることが出来ない、というのは私の持論です。その課題が全体的なものなのか個別のものなのか、その点についての判断が正しく導くことが出来、なおかつそこに関わる人達の中にある種の一体感がなければ、一部の人間が考えるだけの全体最適がうまく行くとは到底思えません。そこでは、下した判断に責任を取れるキーパーソンの存在が必要不可欠ですが、開発側だけを探してもそういうキーパーソンがいるとは限りません。

 ここまでの状態を考えると、開発側だけで全体最適を謳ったところで、それを叶えるのは非常に難しいことだと感じるのではないでしょうか。全体最適を実行するには、自分だけではなく本当に多くの人を巻き込まなくては、真に全体最適な状況は叶えられないのだと思います。

 このように実現するだけでも難しい全体最適ですので、無理にそこを目指し続けるというのはそれだけでリスクを抱えることになります。却って個別最適を考え続ける方が、全体としてメリットを生み出すケースが多いのは無視のできない状態です。それであれば、個別最適を見続けることもそうそう悪い事ではない気がしてきます。言われているほど個別最適だからと言って、悪いものではないのではないでしょうか。

 全体最適はそれが叶えられたのであれば非常に良い事だと思います。しかし叶えられなかった場合に発生するリスクは、個別最適の積み重ねが生み出すリスクとどちらが多いのかは一概に判断のつけられるものでもありません。自身で権限を持つ立ち位置にいるならば、責任を伴った上で判断することで全体最適に向かう事は充分に可能です。ですが、その立ち位置にないのであれば全体最適を望んだとしても、実行に移すためには政治的なものも含め、非常に多くの難関を越えていかなければならず、単に「全体最適こそベストな手法」というだけではそれは全く実現できない夢物語にしかなりません。その状態で「個別最適しているからこのように問題がある」と言っているだけでは、何も良い事を生み出しません。もちろん実施できるかどうかわからない事を目指すことは悪い事でもありませんが、そこだけに捕らわれていては害の面が大きくなってしまいます。ケースバイケース、と言えば聞こえはいいですし逃げているようにも思えます。ですが実際の利用者を考えたときに最適なのはケースバイケースなのかも知れません。

 結局のところは、常にその時点での最善手と思われる方法を採り続けることだけが、私たちにできる全てなのかも知れません。個別だ、全体だ、といった事は案外何も考えない方が結果的にうまく行くこともあるのではないでしょうか。

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