地方エンジニアが感じる地方・中小企業での悩み

作り手と使い手

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 よく技術者の界隈で話題にあがる事の一つに Excel 方眼紙があります。データの連携が行いにくい、内容を修正する際に結合されたセルばかりで大変、と不満に思われる点を挙げていくとキリが無い程ですが、視点を利用者側に移してみるとそこまでひどく言われてはいないように感じます。

 今までも色々な方々が、記事や Blog で取り扱われている話題なので「何をいまさら」なのですが、この問題には様々な視点から見ることで、技術者と利用者の間における考え方の違いというのが見えてくると思います。

 技術者視点で行けば、多くの問題点をすぐにでも列挙することができるかと思います。ですが利用者視点で行くと、編集がしにくい、程度でそれ以外に問題点と思われる箇所がなかなかないのではないでしょうか。このあたりに、作る側と利用する側の意識の違いがあるのではないか、と私は考えています。

 作る側としては、利用した技術や作成した製品を「正しく」「想定したように」利用してもらうことで、一番メリットを生み出せると考えています。対して利用者側では「使いやすいもの」が、一番メリットを生むと考えているのだと思います。時として、技術者側の「正しい」方法は、使いやすさとは真逆の方法を採る事があり、その場合は往々にして独自の使いやすい方法にて運用される事も珍しくありません。
 そうして想定していない使い方をされたシステムでは問題が散見されるようになり、利用者側からの「このシステムは使えない」という烙印を押されてしまう事もあるでしょう。このような状態に陥ってしまうと、作成者側も利用者側もどちらも不幸です。

 このような出来事を防ぐにはどのような方法が考えられるでしょうか。

 遥か昔から物づくりにおいては「利用する人の事を考える」というのが大切、と言われ続けています。そうすることによって、本当に使われるものをつくる事が出来る、と。そしてこれが非常に難易度の高い作業工程だ、というのもご存知だと思います。多くの人に受け入れられるものはつくる事が出来るかもしれませんが、全員に受け入れられるものを作るのは、ほぼほぼ不可能だからです。それはどんなに天才と言われるような人でも無理な事でしょう。それぐらいに、人の考え方や好みというのは多様にわたっています。

 将来的にどうなるかはわかりませんが、少なくとも今は人間の感情や心を数学の公式のように表すことはできません。感情や思考が解明されればまた変わるかも知れませんが、今の私たちにはその領域は非常に遠いです。そこを考えるのは将来の人達に任せるとして、今を生きる私たちにはどこまでできるのでしょう。

 極論すれば、技術者から見た利用者、利用者から見た技術者それぞれ他人ですので、お互いの考え方を完全に疎通させることは不可能です。そのために、技術者は利用者の事を、利用者は技術者の事を「頭で想像して」色々考えていくのだと思います。頭の中で描いた利用シーンや、設計時の状況などをそれぞれが考えることで、歩み寄れる部分が多少なりとも増えるのではないでしょうか。

 しかしこの「想像する」というのが曲者です。全く経験したことのないものは想像する事が非常に難しいのです。全く新しいものをつくられることの多い、小説家や脚本家といった事をされている方であっても、そこは非常に難しい事なのだと思います。そのため、間違った事を想像してしまい歩み寄るのではなく、衝突してしまう事も多いように思えます。
 他人の考え方を強制させることはできない以上、自分達が幅広く考えを募るしかありません。そこを踏まえると取れる手段は「人数を集めて思考・意見の幅を広げる」というのが最善だと思います。時間をかけてよいのであれば、実際に新しいものを見聞きしてくるのが良い手段になるのですが、実際の開発においてそこまで余裕があることは稀です。
 だからといって何もしない事は、確実に不幸な方向へ導かれてしまいます。成功するとは限らなくても、やらなくてはならないことなのです。

 最初にあげた Excel 方眼紙についても、何故それが利用しやすいと感じるのか、何故後で困ることが多いと知りつつも利用しているのか、それに対する何らかの対応が見えて来るのではないでしょうか。ただ単に「相手のスキルが低いから」といった、相手の事を見ないで考えていたのではいつまでたっても解決できません。作り手が考えていることよりも、優先度の高い何かが Excel 方眼紙を選択させているのです。それに対する回答を用意できなければ、いつまでたっても状況は変化しないでしょうし、作り手と利用者の関係も改善されることは難しいと思います。
 
 こういった事を繰り返して体験していくことが、もっとも効果的にものづくりができるようになる方法だと私は考えています。いつもであれば、アンテナを高くして情報をより収集して……というよく聞く方法論に落ち着くことが多いのですが、今回のケースで一番必要なのは「知識」よりも「体験」なのではないでしょうか。知識も重要ですが、こと「使いやすさ」に関しては、そう簡単に用いることのできる知識というのはあまり見かけられません。個人的な感覚としては、経験があって初めて知識が生きる、まさに知恵が必要なのだと感じることが多いです。知識だけではだめで、経験だけでは不足、双方が合わさってようやく少しずつ道が拓けていくのだと思います。

 人の考え方や感じ方は、その人が育ってきたそれまでの人生によって大きく異なります。そんな中で、少しでも互いに歩み寄ることができれば、多くの人がより幸せな方向へ向かえるのではないか、そんな風に私は考えます。自分の側から見たものだけではなく、相手側に立って見るものにも、多くの重要な要素は存在します。どちらか片方の視点だけで物事を考えるのではなく、多くの視点で物事を考えていくことができれば、それこそが最もベターな回答を導き出せるのではないでしょうか。

 今の時代だと全てのスピードが速い事もあり、どちらかというと知識が重要視されがちですが、それでも経験が生み出すものも重要です。仕事に限らずかも知れませんが、多くの事を経験していくことも必要なのではないか、そのように私は考えます。経験から得た知見は、現場に即したものであることが多いです。書籍や記事などで得た知識よりも、利用しやすいことが多いでしょう。それはそれまでに培った知識と、そこで得た経験が上手く結びついて、知恵となったからなのかも知れません。

Comment(2)

コメント

fuga

Excel方眼紙よりも、結合セルを使うバカを撲滅してほしいね。

あと、
勤続年数は長いくせに知識がない老害が周りに蔓延ってるから、
経験が重要といわれても鼻で笑ってしまう。
まあこれは個人的感想だけどw

Ahf

fuga さんコメントありがとうございます。

勤続年数が長いくせに・・・という人は
多く見かけることがありますよね。
そういう人たちと付き合わないですむならいいのですが、
なかなかそうも行かないのが難しいところですね。

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