度が過ぎる保守的な考えの先にある孤立
Windows 8 がいよいよ発売され、IT 業界もまた一つ大きく動こうとしています。TV の CM に始まり家電量販店などへ赴けば、Windows 8 コーナーとして大きく賑わっている光景を見かけた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回登場した Windows 8 はご存知の方も多いでしょうが、今までとはその UX を大きく変化しています。今までのようにマウスとキーボードを主体としたものではなく、タッチパネルもメインに据えた操作性は、非常に新しい刺激を与えてくれていると思います。
しかしその裏で、今年の冬には発売されるのではないかと言われた Windows Phone 8 や、新しい PC デバイスである Surface は、今時点で日本での発売は発表されていません。色々なニュースサイトでは Windows Phone 8 や、Windows RT、さらには Surface についての記事も多く書かれていますが、残念なことにいまだ日本では登場していません。
この流れを見ると、今の日本が置かれている状況というのが、かなり危険な状況ではないかと考えられます。今まではほぼ同時に提供されていたものが、徐々に日本では手に入らなくなってしまっているのは、進歩著しい IT 業界に身を置くものとして、物凄く危機感を感じてしまいます。このままでいけば次の Windows は、ひょっとすると日本では遅れて登場、最悪は提供されないという事態すらあり得るからです。何故このような状況が起きたのでしょうか。
多くの人が思われているでしょうが、それは日本市場というものはかけるコストと比較して手に入る利益が非常に割に合わない、というのが大きな理由だと思われます。現在のほとんどのアプリケーションやシステムは海外で開発が行われています。そのようなアプリケーション等を日本で発売するには、非常に多くの労力をかけてローカライズを行う必要があります。私も自作ソフト等でローカライズ作業を行ったことがありますが、単純に文言を翻訳すればよいというものではなく、翻訳した結果画面の表示バランスを調整する必要が発生したり、もともとの文言とは異なるニュアンスの文言を新たに考えることもあったりと、非常に手間がかかる作業です。
また聞いた話としてゲーム系の場合では、イベントシーンで口パクを行わせているような箇所もローカライズ対象だそうですし、音楽やシーンそのものも場合によってはそのまま利用する事ができない等々、とても大変な作業だということです。これほどの手間をかけても相手の国で発売しようとするのですから、やはりある程度は売れていかなくては次につながることはありません。
先の Windows Phone では残念ながら1機種しか日本では登場していません。このあたりには消費者だけではなくメーカーやキャリアの思想など、様々な要素が複雑に絡み合いますので、簡単にどうこう言いきれるものではありませんが、少なくとも日本市場で活動されるメーカーとしては、Windows Phone を提供するメリットを感じなかったために切り捨てた、と言わざるを得ません。非常に残念な次第となっています。
個人的な考えとしては、このような事態を招いた要因の一つに、強烈な保守的思考があるのではないか、と考えています。どちらかと言わずとも、変化を嫌う風潮が強いのが良くも悪くも日本の特徴の一つだと思います。できるだけ変化せずに、現状を維持していたいという勢力が強いのではないでしょうか。
そのような思想が強いあまり、よほどのことがなければ新しいものを受け入れずらい環境を作り出してしまっているのではないでしょうか。これは何かしらの製品だけではなく、私たち IT 業界もそうですしそのほかの多くの業界が似たような環境に置かれているのだと考えます。
この話はなにも今回の Microsoft 製品に限ったことではないと私は思います。著名な iOS や Android、その他の多くの OS や製品はほとんどが海外製です。それらの製品において、今回と同じような事件が起らないと誰が言い切れるでしょうか。多くの分野で、私たちを取り巻く環境は取り残されていっているのではないでしょうか。
今までも言われている事ですが、今後は自分たちから国内にとどまらず世界に目を向けて動いていかなくてはいけないと思います。それは別に、皆さん全員ワールドワイドに仕事していきましょう、ということではなく、今の自分たちの状況と世界での流れ、そういった視野を広く持って動いていかなければ、変な言葉で揶揄される独自の世界として取り残されてしまうのは、非常に避けようのない事態だと思います。
慎重に物事を行うことで保守的になる面はどうしてもありますし、それ自体は悪い事ではありません。ただ、度が過ぎた保守的思想が招く未来というのを考えると、どこまでが保守的でよいラインなのか、そのようなバランスについて一考してみることが大切なのではないでしょうか。
幸いにも私たちの IT 業界は、比較的世界に目を向けやすい業界です。今回の事件をきっかけにして、多くの方がそれぞれ考えていただけるようになると幸いです。
コメント
仲澤@失業者
MSの日本軽視は今に始まったことでは有りません。
Surfaceに関わらずMSの過去の多くの製品のリリースは
当時の先進諸国内では最も遅れがちであったという
歴史を無視するべきではないかもしれません。
肝心の開発ツールも例外ではなく、特に開発者用のドキュメントの翻訳が
現場に間に合うようになったのはここ2年ほどのできごとで、
それも機械翻訳が優秀になっただけといったありさまです。
しかし、彼らを責めるのは筋違いでしょう。
過去の不平等な国家間条約を例に挙げるまでも無く、
有史以来、世界がこの極東の劣国を平等に扱った例はあまり見つかりません。
日本が世界と肩を並べられたのはごく最近でここ数十年ほどのことなのです。
これからも、世界は日本を特に気にかけることはないだろうという予測は、
常に、肝に命じておくべきでしょう。
また、日本の孤立も最近始まったことでは有りません。
これを自戒するのは結構なことですが、
仲間にしてもらえたのは最近なのであたりまえにも思います。
一方、このようなハンディキャップを抱えながらも、
仮にも先進国に留まっていられることは、むしろ奇跡的だとすら思います。
昔の人たちはとってもがんばったんですね。
彼らの努力を無にしないよう、受け継いだ技術と文化、人間性を
より高めて後進に託すべきでしょう。
異国の街に立って見回せば、自分が変な言葉をしゃべり
変なものを口にする変な人間だということが良くわかります。
もっとも、実用的なCPUチップを作ったのも、
アルファベット以外の文字をコンピューターに表示したのも、
そして、携帯電話で電車に乗ったのもみんな日本人が最初です。
案外アバンギャルドな人たちなのかもしれません(笑)。