Windows Serverを中心に、ITプロ向け教育コースを担当

早寝早起き、整理整とん

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 月刊「Windows Server World」の連載コラム「IT嫌いはまだ早い」の編集前原稿です。もし、このコラムを読んで面白いと思ったら、ぜひバックナンバー(2008年5月号)をお求めください。もっと面白いはずです。

 なお、本文中の情報は原則として連載当時のものですのでご了承ください。

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 古来、多くの人が、健康を維持する生活習慣や、効率のよい仕事の仕方を提唱している。たいていの人は、何らかの方法を実践しようと試み、そして挫折している。今回は、生活と仕事の習慣について考える。

●早寝早起き

 IT業界は残業が多いといわれている。あながち間違いではないが、仕事をする姿勢に問題があるケースも、ないわけではない。もちろん「好きで残業をしているわけではない」と反論する人が大半だろう。まったくその通りである。納期間際の開発現場に出向いて「あなたの仕事は非効率的だ」と責める資格は誰にもない。

 徹夜続きの原因は、プログラマやSEにあるわけではない。多くは、仕事の割り当てを行った上司や、無理な要求を出した顧客、そして予想外の動作をするソフトウェアやハードウェアの問題であろう。

 実際のところ、徹夜で仕事をしてもそれほど効率は上がらない。効率が上がらなくてもやらざるを得ない状況もあるが、本当はその状況を作った原因を探るべきだ。

 普段から仕事の段取りを考え、上司には進行状況を逐一報告し、行程に遅れが出そうなら上司に連絡し、対策を相談する。いわゆる「ほう・れん・そう」ができていれば大半の徹夜はなくなるだろう(ただし「報告は読まない、連絡は無視する、相談しても話にならない」という上司がいる場合を除いて)。

 しかし、中には好きで残業しているとしか思えない人がいることも確かである。特に、徹夜にはある種の高揚感がある。昔、20年以上前に読んだコラムにこういうフレーズがあった(*1)。

さあ、今日は徹夜だ、決心した瞬間、無限の時間が手に入る。朝までは長い。きっと、この仕事の山を片付けられるかもしれない。もちろんそれは錯覚にすぎないのだけれど。

 長く仕事を続けたいなら、連日の徹夜などの無理な仕事のスタイルは絶対に避けるべきである。 長時間労働はそれだけでメンタル疾患の要因となるという説もある(*2)。

 しかし「徹夜をした」という自己満足は、ほかに代えがたい魅力があるのも確かだ。こうした誘惑は「悪魔のささやき」である。引っかからないようにしたいが、絶対ひっかかるだろう。断言する。せめて常態化しないようにしたいものだ。

●整理整とん

 「机の上はきれいにしましょう」というのは社会人としての常識である。乱雑な机は、大事な書類を紛失する可能性がある。また、機密文書の盗難という恐れもある。机の上は常にきれいにし、書類はすべて鍵のかかる引き出しの中にしまうべきだ。

 会社によっては休日に監査があり、机の上に放置されているものは回収され、警告の張り紙が残されるらしい。以前、電車の中で若い男性2人がしゃべっているのを聞いた。

おれ、マウスパッド代わりにレポート用紙を1枚使ってるんだ。もちろん白紙で。でも、この間の日曜日に監査が入っちゃって。「机の上にメモを残してはいけません」という警告がきてしまったんだよね、どう思う?

 筆者は彼に同情するが、それよりも、帰宅時に机の上にレポート用紙1枚しかなかったことに感動した。筆者の机は極めて乱雑だからだ。

 「仕事のできる人」として有名な知人の女性の机も乱雑だ。そのことを指摘したら

乱雑な机でも、自分では何がどこにあるか分かっている人がいる。けど、わたしは何がどこにあるかも分からない。本当に乱雑なのよ。

と開き直られた。

 仕事術の類が多く提案されているが、ほとんどの場合、基本は「整理整とん」である。古くは京大式カードがそうだ。もちろん多くの人が挫折している。

 野口悠紀雄氏は「すべてを時系列に並べるだけ」という画期的な方法「超整理法」を提案しているが、これにも落とし穴がある。「資料を封筒に入れて保存する」という簡単なことができないのだ。

 まず封筒の調達が難しい。野口氏は「いくらでもある」と主張するが、そうでもない。「超整理法」が世に出た1993年当時は、定期購読の雑誌の多くが紙封筒だった。しかし、今ではビニール包装である。ビニール包装を再利用できるように開くのは困難だし、ふにゃふにゃな材質は使い勝手も悪い。Windows Server Worldもいつのまにかビニール製になった。会社の封筒を使ってもいいが、文具置き場まで封筒を取りに行くのが面倒である。あとで整理しようと思ったら最後、整理されることは絶対にない。

●メモを取る

 最近、ワインバーグ氏の新刊「ワインバーグの文章読本」を読んだ。本を書こうとする人は、執筆ノートを作って、とにかく何でもアイデアを記録しなさいというのが基本的な主張(の1つ)だ。

 ワインバーグ氏の著書は何冊か読んでいる。どれも深い洞察にもとづいた面白い本だ。この本もそこそこ面白かったが、実践は無理だ。肌身離さず手帳を持ち歩き、思いついたことをメモ、というきちょうめんなことは、筆者にはできない。

 本連載も4年目を迎え、そろそろ題材探しが難しくなっている。ふと思い出したエピソードを忘れないうちにメモしておくと楽だろうと思う。しかし、まったく実践できていない。「思いついたことはすぐメモしなさい」ということはいわれなくても分かっている。分かっているができないから困っているのだ。

 そもそも筆者はノートを取るのが苦手である。ミーティング中に、きちんと構造化されたメモを取っている人を見ると尊敬する。そういえば、学生のころも「ノートを見せろ」といわれたことがなかった。

 よく考えてみると、長い数式などはノートに写していたが、多くの内容は教科書の余白にメモをしていた。大学の教科書は余白が少ないのによく頑張ったものだ。まだ視力が低下していなかったのだろう。復習するときは教科書とノートの両方を照合しなければならないので面倒きわまりない。どうりでノートを見せろという人がいないはずだ。

●「できる」人間になるには

 これから社会人になる人に覚えておいてほしいことがある。「早寝早起き、整理整とん、忘れないようにメモを取る」の3点だ。こういう基本的なことが仕事をよりよく進める上での基本である。まるで小学生の目標だが事実だ。レベルは違っても、基本的な態度は小学生と同程度である。恐れる必要はない。

 もちろん、基本的なことだから誰でもできるというわけではない。学生時代なら効率が悪くても自分の問題だが、社会人の場合、効率の悪い仕事は他人に迷惑をかける。早い段階で基本的な「よい」習慣を身につけて欲しい。残念ながら筆者には無理だった。人間、何かを始めるのに遅過ぎるということはないが、あきらめた。

 筆者の場合、徹夜をしたことはないが、週末には自宅で深夜まで仕事をすることはあるし、整理整とんもできていない。メモを取るのも下手だ。

 大体、ここに書いたようなことを全部実践できている人がどれくらいいるだろう。えらそうにしている先輩社員だって、あまりできていない人が多いはずだ。中には完ぺきにこなしている人もいるだろうが、筆者とは友だちになれそうにない(向こうもそう思うだろう)。

 仕事を完ぺきにこなし、健康な生活を続けられるのは理想のように思えるが、どこか人間的ではないように見える。連日の深夜残業も非人間的だが、常に完ぺきなのもやはり非人間的だ。最後の頑張りで徹夜をすることもあるだろう。それが人生のメリハリとなって、人間としての幅となる。小説に登場する魅力的な主人公の多くは日常生活がどこか抜けているのもそのせいだ(劇画「ゴルゴ13」に登場するデューク東郷のような例外もある)。

 「徹夜を決心した瞬間に無限の時間が手に入る」という錯覚こそ、人間的な感覚ではないだろうか。20年以上の前に書かれたコラムのタイトルを紹介しておこう。

徹夜は人間だけに与えられた自由である。

(*1)月刊「インターフェース」CQ出版社1985年9月号
(*2)『職場はなぜ壊れるのか』荒井千暁

■□■Web版のためのあとがき■□■

 京大式カードといっても知らない人が多いかもしれないが、おそらく今でも売っているはずだ。実体は単なるB6版カードで『知的生産の技術』(梅棹忠夫)という書籍とともに人気が出た。1969年のベストセラーである。

 基本的なアイデアは、何でも思いついたらカードに書く、後でカードを整理して考えをまとめるために使う、というものだ。もちろん多くの人が挫折している。

 ところで、この号が発売された後、とんでもない事件があった。某社様向け教育コースの打ち合わせである。先方の要求を聞き、実施にあたって問題のないことは確認した。その後、数週間してから「詳細なアジェンダを出してほしい」といわれたので打ち合わせメモを見ようと思ったら……メモがない。ビジネスパーソン失格である。いままで、メモを取ってないという失敗はあったものの(これもビジネスパーソン失格)メモをなくした経験は初めてだ。まったく情けない話である。

 結局、同席した営業担当者のメモを元にアジェンダを作成した。あぶないところだった。

 このことを、本文中に出てきた「知人の女性」に話したら「ああ、そういうことってあるわね」といわれた。彼女とは仲良くやっていけそうだが、仕事はしない方がいいかもしれない。

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