文学部出身のややくせのある視点から見た、IT業界、人工知能、働くこと、などなどについての文章

「IT業界と教える文化の問題」について思うこと

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 お久しぶりです、消火器です。

 ツイッターを眺めておりますと、近頃は「教える文化」に関する話題が盛り上がっています。教えられる側(新人・駆け出しのエンジニア)は「教える文化がない」と言い、教える側は「こんなに教える文化がある分野もないのに」と言う。なぞなぞのようですね。

 すでにさまざまな考察がなされていますが、自分なりに考えてみると、このなぞなぞに1つの解が導けそうだと思いました。

 それはずばり、「読みゃあわかるだろ!」が両者の分水嶺である、という解です。

なんで調べりゃ出てくるものを聞くの?

 たしかに、大抵の分野は、ネット上にたくさんの解説記事があります。それに加えて公式ドキュメントもあります。たとえ英語だとしても、最近は翻訳サービスも発達してきているので、それにかければ読めないことはありません。だから、たしかにIT分野には「教える文化」が有り余っていると、一方では言えるわけです。

 でも、それはあくまで読んで理解できるという前提の話。実は、読んで理解できるレベルに到達するのは、その人が持つ前提知識いかんによってはめちゃくちゃ大変なのです。自分がその実例ですからこの文言にウソはないです(笑)。今でこそちょっとずつ読めるようにはなってきていますが、最初のうちは、日本語で書いてあるはずの解説がまったく理解できず涙目になっていました。

 「読みゃあわかるだろ!」サイドの方は、ひょっとするとその大変さや苦しさを忘れているのかもしれません。生まれたときからコンピュータを操れる人間はいないわけですから、どこかでその苦しみを味わっているはずなのですが......。あるいは、何かに熱中しているときにそこを潜り抜けた人にとっては、そもそもその苦しみが情熱で覆い隠されていたのかもしれません。

 たちの悪いことに、一回読めるようになってしまうと、読めないという状態がどんな感じだったか忘れてしまいがちです。たとえば、自転車に乗れる人が、自転車に乗れない人の感覚を思い出すことはなかなか困難だと思います。

 こうして、「読みゃあ分かるだろ!」サイドの人間はどんどん「読めばわかる」解説を提供し、「読んでもわからない」サイドの人間はそこから一切情報を取得できない=「教えてもらえない」、という分断が生まれ、しかもお互いに向こうの気持ちや状態を理解できない、という、深い深い溝になってしまうのではないでしょうか。

どうやったら「読める」ようになるのか

 読み書きができる、という能力のことを一般的にリテラシーと言いますが、ITリテラシーを手に入れるまでの道筋があまりはっきり示されていない、というところに、0から始める初心者が乗り越えなくてはならない、でっかいでっかいハードルがある気がします。

 これ、実は現代文という科目の話とよく似ているようにも思います。読める人は最初から読める、読めない人は勉強してもできるようにならないよ、という観念をお持ちの方は、読めるサイド、読めないサイドの双方に多いのではないでしょうか。実際、現代文において、「読む」能力をどう鍛えるのかというと、「本をたくさん読みましょう」みたいになってしまう。逆に、そのメソッドをしっかり示せれば、カリスマ塾講師になれちゃうわけですが......、

 そういえば、なんだかITでも似たようなセリフを聞きますね。「コードをたくさん書きましょう」「毎日githubにアップしましょう」みたいな。とても似ていませんか?結局、ITリテラシーにおいても、「読む」能力を得るためのメソッドがはっきりしていないのではないでしょうか。

なにがわからないのかわからない

 これと似た問題で、「質問しようにも、そもそも初心者にはなにを質問したらよいかすら見当がつかない」という問題があります。「読めない」人というのは、結局「聞けない」人でもあります。仮になにか質問できたとしても、初心者がその答えを口頭で理解するのはなかなか難しいものです(経験済み)。

 そして、そもそもどの解説を参照すればいいかわからない、という意味では、「見られない」人でもあります。結局、自分に入ってくる情報を使える形で解釈することができないのですから、外界にどんなに有用な情報があふれていても、そこから「教わる」ことは一切できないわけです。

 ......ということで、次回の投稿では、自分がこの八方ふさがりの状態から、少しずつであれ「読める」ようになってきた方法を紹介したいと思います。



 最後に、本筋とあまり関係ありませんが、この件に関するたくさんの方のツイートを見ていて、「教える側にも選ぶ権利がある」「ただ待っているだけのヤツに教えたくない」みたいなツイートをいくつか見かけました。赤の他人に対してではなく、同じ会社の人間に対してもそこまでトゲトゲしてしまうとしたら、教わる側からすると、ちょっと怖いな......と思います。どうしてそこまでトゲトゲしくなってしまうのか教えてほしいです......。

Comment(3)

コメント

おたみ

「教えるべき側が実はちゃんと理解できていない」
という理由もあるんじゃないでしょうか?


>どうしてそこまでトゲトゲしくなってしまうのか
自分のことで手一杯でそこまでの時間が取れないという現場が多いのが一番の理由ではないか?と想像しますが、「実はわかってない」ということが伝わると自分の権威が損なわれる危機感なんかもあるんじゃないんでしょうか?

教える側は教わる側より立場上、上位にあることが多いでしょうから。

今年度からwebエンジニアになったのですが、おっしゃる通りで苦しんでいます。
半年経って徐々に公式ドキュメントが読めるようになってきてはいますが、やっぱり苦しいなと感じます。苦しみを忘れないで教えられる立場になっていきたいです。。

山無駄

前述、「教える文化がない」というのは質の問題。後述「こんなに教える文化
がある分野もないのに」とは、量の問題だと思います。ITとネットは相性が良
いのでネットを調べればITについてのいろいろなことを知ることができます。
これが量の話。一方、新人さんが「教える文化がない」とぼやいているのは、
自分のわからないところをわかるように教えてくれない、という教え方の質の
問題。
ただ、新人さんはわからないことがわからないので、教える側も教えようがな
い、という問題は別にIT業界に限ったことではありません。逆に、ネット上に
たくさんの情報があるという、実はとても親切な業界で、新人さんの求めるも
のもネット上にあるかもしれないけど、量が多すぎて見つけ切らないというの
もまた事実なのでしょう。また、一言でIT業界とくくっても、とても大きく複
雑に絡んだせかいなので、体系立ててすべてを教えるにはとても膨大な時間が
かかってしまいます。
教える文化がないとぼやく新人へのアドバイスは、まず学校に行け。
医者は大学の医学部をでて、医師免許を取り、インターンを経験して初めてな
れる職種です。IT業界は専門性が高く、領域も広いのですが、専門を学ばなけ
れも慣れる不思議な職種です。なぜか、ネットに情報があふれているので独学
で技術を身に着けることができるからです。
その独学ができないのであれば、まずは学校に行け。

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