第15回(番外編): USB充電の歴史について簡単にまとめてみる その3 〜Quick Charge 3.0〜
はじめに
前回に引き続き、「USB充電」についてです。今回はさらなる高速充電に対応するために、スマートフォン用SoCメーカーのQualcommが策定した「Quick Charge」についてまとめてみます。
今回は情報が少ない中、分かる範囲で整理しましたのでお付き合いいただけたらと思います。
Quick Chargeとは
USB BC1.2で5V/1.5Aまでの充電に対応したのですが、スマートフォンの高機能化に従うバッテリーの大容量化の流れもあり、さらなる急速充電の対応のために、米Qualcomm (https://www.qualcomm.com/) が策定した急速充電規格のシリーズが「Quick Charge」(以降 QC)です。
「Quick Charge」の最初のバージョン(1.0)は2013年に登場し、その後バージョンアップを重ねて、2022年7月時点の最新バージョンは5.0です。QC4.0以降はUSB Power Delivery(USB PD)のスーパーセットとなり、充電器はUSB規格を遵守したものとなります。
USB PDについては次回に説明する予定ですので、今回は市場に一番多く流通していると思われる「QC3.0」について、説明していきます。
USB充電器のQC3.0への対応状況
「QC3.0」では、さらなる急速充電に対応するためにUSB充電器の充電電圧(VBUS)をデバイスの要求に応じて、3.6〜20Vまで可変できる仕様となっています。規格上の最大出力電力は36Wです。
USBの通信ライン(D+/D-)を使用してUSB充電器〜デバイス間のやり取りを行いますので、 Type-Cコネクタを使わずに通常の4ピンの「USB-A」コネクタで対応できるというメリットがあります。
QCは基本的には以下の組み合わせで動作します。
-
デバイス: QualcommのSoC( 例:Snapdragon)搭載のスマートフォン
-
充電器: QC対応充電器
Snapdragon搭載のスマートフォンが市場に多く普及していることもあり、充電器もQCに対応しているものが多く発売されています。
内部で使用している充電コントローラICにUSB PDとQC3.0の両方をサポートしているものを採用して、「USB PD+QC3.0対応」の充電器も登場しています。 (例えば以下の分解記事の製品)
QC3.0の判別の仕組み
「QC」自体はQualcommによるクローズドな規格で、正式な規格書は一般にはオープンされていません。
そこで今回は、ネット上で入手できるQC対応ICのデータシートを参考にわかる範囲でモード判別の仕組みをまとめてみました。
Quick Chargeのモード判別の基本の流れは以下のようになります。以降、充電器を「ホスト」、スマートフォンを「デバイス」と記載します。
-
デバイス(スマートフォン)とホスト(充電器)の双方でお互いがQC対応か判別
-
QC対応であれば、デバイスがD+/D-ラインに0V/0.6V/3.3V の3値の組み合わせで出力する電圧を要求
-
ホストは、D+/D-ラインの電圧の組み合わせに応じた電圧をVBUSに出力
実際のモード判別の仕組みはPower Integrations(https://www.power.com/)のCharger Interface Physical Layer IC「CHY100」のデータシートに記載を見つけました。
https://www.power.com/sites/default/files/documents/chy100_family_datasheet.pdf
(1) ホストがUSB BC1.2充電器(DCP)としてデバイスと接続
ホストのVBUS電圧が閾値(3.9V)を超えたら、20ms以内にD+とD-を接続しUSB BC1.2互換の充電器としてVBUS出力電圧を5Vに設定します。D+とD-を接続したらホストはD+の電圧の監視を開始します。
(2) デバイスがQuick Charge対応であることをホストに通知
デバイスはD+に0.6Vを1.25秒以上継続して出力します。ホストはこのD+の電圧を検出してQuick Chargeモードに入ります。
ちなみに、検出期間中にD+がローレベル(< 0.325V)になると、1.25 秒タイマーはリセットされ、USB BC1.2 互換モード(出力電圧5V)で動作します。
(3) ホストがQuick Charge対応であることをデバイスに通知
ホストはQuick Chargeモードに入ったらD+とD-を切り離し、D-を19.53kΩで1ms以上の期間GNDにプルダウンします。
デバイスはD-の電圧が1ms以上の期間ローレベル(<0.325V)になると、Quick Charge対応のホストであると認識します。
(4) デバイスがホストに要求する出力電圧を通知
デバイスはQuick Chargeモードのホストであると判別したら、D+とD-に要求する出力電圧に応じた電圧(出力電圧テーブルを参照)を印加します。印加する電圧は0V/0.6V/3.3V(GND)の3値です。
ホストはD+とD-に印加された電圧の組み合わせに応じて、要求された電圧をVBUSに出力します。
なお、Quick Chaegeのホストは最大出力電圧に応じてClass A(12Vまで)とClass B(20Vまで)の2種類があります。
連続モードでの電圧可変の仕組み
QC3.0で追加された連続モード(Continues Mode)では、デバイスは200mVステップで出力電圧の可変をホストに要求することができます。
電圧可変の仕組みはFitipower Integrated Technology(https://www.fitipower.com/) のUSB充電ポートコントローラ「FP6601Q」およびON Semiconductor(https://www.onsemi.com/)のQualcomm Quick Charge 3.0 HVDCP Controller「NCP4371」のデータシートに記載を見つけました。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1811151552_Fitipower-Integrated-Tech-FP6601QS6_C86198.pdf
https://www.onsemi.com/pdf/datasheet/ncp4371-d.pdf
これらのデータシートから読み取った内容が以下になります。
ホストが連続モードに入ったら、デバイスは以下の方法で出力電圧の200mVステップでのインクリメント(増加)またはデクリメント(減少)をホストに要求できます。
出力電圧のインクリメント
デバイスはD+を3.3Vに200usの間引き上げてパルスをホストに送り、次にD+を0.6Vに戻します。
ホストは1ステップ(200mV)出力電圧を上げます。
出力電圧のデクリメント
デバイスはD-を0.6Vに200usの間引き下げてパルスをホストに送り、次にD-を3.3Vに戻します。
ホストは1ステップ(200mV)出力電圧を下げます。
次回「USB Power Delivary」に続きます...
次回更新は2週間後の8/16(火)の予定です。
コメント
Francesco
どの記事も興味深く読ませていただいております。ありがとうございます。
Type-Cにおけるマスター(ホスト)スレーブ(周辺)に関して知らべたことはありませんか?手持ちのType-C/Type-C OTGケーブルを調べたところマスター側はCCが5.1KΩでプルダウン、スレーブ側は56KΩでプルアップ、両コネクターのCC1/CC2の相互接続はなかった事から外付け5.1KΩがマスターを決定し、スレーブ側スマホはCCが56KΩでプルアップされていることからマスター側スマホがあたかもデフォルト給電している電源のように見えるのだろうと想像しました。
Pixel 6a付属のクイックスイッチアダプターもCCが5.1KΩでプルダウンされていることからも6aをマスター(ホスト)ととしType-Aに接続されるメモステなどを周辺として認識しているのだろうと思いました。
ところが、6a付属のType-C/Type-Cケーブルだは両コネクター共CCに抵抗はなく片側のCCだけが相互接続されていたのです。これでどうして6a側がホストになるのかを調べています。2台のスマホともCCは5.1KΩでプルダウンされている訳ですから両方とも俺がホストだと思っているのではないでしょうか?この点何かご存知でしたら記事にしていただけるとありがたいです。
Francesco
手持ちのQC3.0チャージャー(au 0601PQA)で実験したところ、D+/D-に仕様通りの電圧を印加しても電圧は出力されず、CCを5.1KΩでプルダウンしたところこの記事の表通りのClass A電圧を確認できました。つまり、QCのスペックはType-Cに上乗せする形になるのであり単体では動かないのだろうと思います。
Francesco
主さんに、リンクや流用の許可を取る連絡先ってどこに表示されているのでしょう?
ThousanDIY(@tomorrow569
筆者です。コメントありがとうございます。
流用元でこのコラムを記載いただければ、リンク・流用はご自由にしていただいて結構です。
もし、個別に連絡が必要な場合はTwitterアカウント(@tomorrow56)にDMでご連絡ください。