街で見かけたガジェットを分解してわかったこと・わからないこと色々レポート

第16回: 持ち運びにいいかも。ダイソーの「自動判別機能付USB充電器」を分解してみよう

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はじめにお詫び

番外編の「USB充電の歴史シリーズ」今回はお休みさせていただきます。
「USB Power Delivery」の規格書を読み解ききれませんでした...
またタイミングを見て続きを書かせていただきます。

ということで...

今回の分解はダイソーの「接続された機器を自動で見分ける」という「自動判別機能付USB充電器」です。

製品の外観

ダイソーの「自動判別機能付USB充電器」は2ポート版と1ポート版の2種類が販売されています。今回は300円(税別)の1ポート版を購入しました。

外観

本体の外観

入力電圧は「AC100-240V」、出力電流は「2.1A(最大)」で「タブレット対応」です。パッケージには「USB-Aポートに接続した機器をICが自動で見分けて、最適な出力で充電します」と記載されています。

「PSE」マークは本体に一体成型で表示されており、申請事業者と思われる「テラ・インターナショナル(株)」の名称も記載されています。

本体の分解

本体ケースは接着されているため、接着部分をカッター等で切断して開封します。内部は「ACプラグ」と「プリント基板」で構成されており、ACプラグと基板は電極で接触して接続する方式となっています。

04_本体を開封

本体を開封

ACプラグは折りたたみ式です。基板と接触する電極はバネとなっていて、ACプラグの可動部の支点の電極と接触する形になっています。

05_ACプラグ部

ACプラグ部

プリント基板は1枚構成です。1次側回路(ACコンセント側)と2次側回路(USBコネクタ側)の間には電気用品安全法(PSEマーク)で要求される「絶縁距離」を確保する「絶縁シート」を入れて全体的にコンパクトに収まっています。

06_プリント基板

プリント基板

メインボード

メインボードはガラスコンポジット(CEM-3)の片面基板です。AC入力ラインには「保護ヒューズ」が入っています。電源トランスは絶縁距離を確保するために2次側巻線の端子位置が外側に伸びている少し変わった形状(FE1510)です。

07_メインボード(表面)

メインボード(表面)

裏面パターンと実装されている主要部品です。裏面には型番「307-0025 VER21」の表示があります。半導体は裏面に面実装されています。

08_メインボード(裏面)

メインボード(裏面)

大電流が流れるパターンには半田を盛ってあり、1次側~2次側の絶縁距離を確保するために基板へ「スリット」を入れるなど、「きちんとした基板設計」となっています。

2次側(USB側)の出力電圧の安定化は、電源トランスの1次側の検出用巻線で行っています。

「接続した機器をICが自動で見分ける」という機能のために「USBチャージャエミュレータ」を実装しています。

主要部品

ブリッジダイオード(BD1) MB10F

10_ブリッジダイオード

ブリッジダイオード

AC入力を全波整流してスイッチング電源の1次側DC電圧を生成するのが「ブリッジダイオード」です。本製品では汎用品として複数の会社から販売されている「MB10F」が使用されています。

ガラス基板で使用する場合の定格は1000V(max)/0.5Aとなっており、本機の定格表示の電流(0.3A)に対しても問題はない設計となっています。

電源制御IC(U1) FT8783Nx

11_電源制御IC

電源制御IC

電源制御ICは「辉芒微电子(深圳)有限公司(http://www.fremontmicro.com/)」製のチャージャー向けのスイッチング電源コントローラ「FT8783Nx」です。データシートは簡易版が以下より入手できます。

https://www.fremontmicro.com/product/pmic/p1/6j/20180620/1537.aspx

以下はデータシートに記載のピン説明です。なお、具体的な電気定格や回路ブロック図が記載されたデータシートは公開されておらず、Web上の検索でも見つけられませんでした。

12_FT8787Nxのピン説明

FT8787Nxのピン説明

データシートによると「FT8783Nx」は高効率/高速応答を特徴としていて、米エネルギー省及び欧州連合の電源アダプタにおける規制である「DoE Level 6 /CoC V5 Tier2」に5V/1Aから5V/2.4Aまでのアプリケーションで適合できる、となっています。

USBチャージャエミュレータ(U3) UC2635

13_USBチャージャエミュレータ

USBチャージャエミュレータ

本ICはUSBコネクタのD+/D-端子に接続しUSB充電電流制御のための手順をエミュレートする「USBチャージャエミュレータ」で、「深圳市芯卓微科技有限公司(http://www.semihigh.com.cn/)」製のSingle USB Charger Adapter Emulator「UC2635」です。データシートは以下より入手できます。

http://www.semihigh.com.cn/Upload/20170421/58f9d5be348fd.pdf

14_UC2635のブロックダイアグラム

UC2635のブロックダイアグラム

UC2635がサポートしている規格は以下です。

・ Apple Devices fast charging(2.1A/2.4A mode)
・ Samsung Galaxy Tab Devices fast Charging(2.0A)
・ USB BC1.2(USB公式規格)& YD/T 1591-2009 Charging Spec(2.0A)

Appleの場合はSEL端子で充電電流が選択できます。本機ではSEL=1なのでパッケージの表示通り「2.1A mode」設定となっています。
接続されたデバイスはD+およびD-の電圧を監視して接続されている機器のタイプを「Auto-detect」ブロックで自動検出し、検出結果に応じて内部のスイッチS1~S4を切り替えることによってデバイスに出力可能な電流値を通知します。デバイスは通知された内容に従い充電電流を決定します。

出力電流-電圧特性

電子負荷を使って実際にどれくらいの電流まで出力できるかを測定してみました。
実測した電流-電圧特性を「USB BC1.2」で規定されたUSB充電器に要求される動作領域のグラフに重ねたのが以下になります。

16_電流-電圧特性

出力電流-電圧特性

1台のみの実測結果ですが、定格である2.1Aまでは出力電圧は4.7~4.8Vで安定しています。
出力電流2.31Aで過電圧保護回路が動作、その状態で電流を下げていくとON-OFFを繰り返す様な「間欠発振動作」になることもなく2.20Aで出力電圧が元に戻ります。
上記グラフのグレーの部分は「USB BC1.2」では動作が禁止されている領域ですが、本機は禁止領域に入ることもなく電流-電圧特性としては規格を満たした動作となっています。

まとめ

本製品では主要部品にメーカーの製品検索では出てこないものが使われていて、それがこの価格で販売できるポイントでもあるようです。

100円ショップで購入できるUSB充電器は、以前は作りが雑で危険というイメージがあったのですが、性能や安全性でも特に大きな問題はなさそうで、きちんと製品設計されているという印象を受けました。


次回更新は2週間後の8/30(火)の予定です。

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