エンジニアは「変人」と呼ばれてなんぼだと思う。

エンジニアに残業代は必要か

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■本題の前の言い訳
 僕はこれから書くテーマについての専門家ではありません。しかし、一人のエンジニアとして感じていることを率直に書かせて頂くことで、読者の方がこのテーマについて再考する切っ掛けになれば幸いであります。

■時給とは単純労働の報酬計算法である
 そもそも、報酬金額が労働時間に比例する、いわゆる時給制の報酬計算方法は、その労働が単純労働であるという前提において成立するものだと考えます。例えば、工業製品や食品の製造工場のラインで、ある一つの工程を担当する従業員がいるとします。この部分を担当する従業員Aさんは、1時間に120個の製品を処理することができるとしましょう。単純に計算すれば、Aさんが2時間働けば240個、8時間働けば960個の製品を処理することができます。この場合、Aさんが生み出した価値はきれいに労働時間に比例します。実際には疲労による作業効率の低下等はあるとはいえ、近似的に比例するととらえても構わない程度でしょう。だから、報酬金額が労働時間に比例するのはごく自然なことであり、当然のことといえます。

■時給制においては残業代は自然
 では、単純労働において、超過勤務が発生した場合はどうでしょう?これも当然のこととして、Aさんが1時間余計に働けば、余分に120個の製品を作り出すことができるわけですから、その超過時間に比例した価値を生み出したと考えることができます。ですから、超過時間に比例した残業代を支払うことは理にかなっており、むしろ払わなければならないですよね。

■エンジニアは単純労働か?
 さてエンジニアについてはどうでしょうか。エンジニアは単純労働でしょうか。すなわち、エンジニアの生み出す価値は、時間に比例しているんでしょうか。たとえばソフトウェア開発者が1時間働けば1時間分のソフトウェアが出来上がるんでしょうか。あるいは8時間働けば8時間分のソフトウェアが出来上がるんでしょうか。これは違うように思います。つまり何が言いたいのかというと、労働時間に比例する対価をもらうというスタイルは、そもそもエンジニアに対してはかなり無理のある報酬計算方法じゃないか、と言いたいのです。

 もちろん、例えば仕様書をただプログラムという別の言語に翻訳するだけ、という作業だけならば、単純作業と捉えて構わないかもしれません。あるいは仕様書通りにテストするだけとか。でも、10年前ならいざ知らず、現在のIT業界ではそういう人たちはほとんどいなくて、おそらく多くの方々は、まったく成果が時間に比例するような仕事じゃないでしょう。

 そのような状況で、残業したらその分の残業代を請求するっていうのは、果たして自分の生み出した価値に対する正当な要求なのかと問われたら、僕は自信を持ってYESと答えることが全くできません。

■残業代は抑止力か
 じゃあエンジニアにとって残業代って何なのでしょうか。一つの意見は、企業がエンジニアを働かせ過ぎないようにするための抑止力になる、というものでしょう。それも一理あるのかも知れません。しかし僕自身の今までの経験から考えてみると、そもそも労働時間が問題になるような激務に追われている職場では、残業代を節約する目的なんかで労働時間を減らせるような状況ではない、というのが現実でしょう。業務内容自体の見直しや作業分担の方法変更、あるいはもっと大きな方針転換など、別の側面からのアプローチが不可欠です。

■現在の風潮への疑問
 ここまでの話の流れで予想がつくと思いますが、僕はエンジニアは時給制よりも裁量労働制がいいと考えています。ちなみに社会人2年目でこの業界に転職してからずっと裁量労働制です。それを不満に思ったこともありません。なにしろこの業界に転職して最初の会社に入る際、時給制になりそうだったのを、わざわざ自分から頼み込んで裁量労働制にしてもらったくらいです。しかし世の中の風潮としては、「労働時間=給料」という考え方がすっかり前提として定着しているように思います。

 しかし、自分の受け取る報酬が、何の価値に対する対価なのか、もう少し考えてみてもいいのではないでしょうか。職場にいた時間分のカネは無条件に貰って当然という考え方には、少々違和感を覚えます。

Comment(5)

コメント

tasuku

裁量労働制の方が正しい。 事自体は、間違いないと思います。

しかし、最大のネックは、受注を含めて、真の意味で 裁量 で
評価されていない。 という処では無いでしょうか?


1. 社内にて、裁量労働制に移行したのであれば、
  (パイの大きさは変わっていないので)移行の結果
  収入が増えた人が、ほぼ50%。という評価結果にならなければオカシイ。
  訳ですが、この結果になる事が保証出来るように制度設計される事は
  まず無いでしょう。

2. ソモソモ、受注形態が、人月 に代表されるように
  裁量で評価されていないので、収入増加に繋がらない。
  であれば パイの大きさが 変わらない中で
  「裁量労働」に評価変更したとしても収入の増加もコップの中の....。

という事になってしまうので、「Google社のエンジニア」みたいに
収入に直結する様な評価基準が策定できないようなシガナイ会社では
夢のまた夢。 にならざるを得ないかと...。

kazu

tasukuさん、受注形態を人月ベースで見積りするのと、社内の報酬制度は別物と思われます。

裁量性であれば、個々人の努力やチーム全体の生産性向上の結果早く仕事が終われば早く
帰ってもいいわけですし、その時間で他の受注案件を行えば収入のパイを広げることもできます。

だらだら仕事して残業代稼ぐみたいなシステムで、働く人もその会社も顧客もだれも得するはず
ないんじゃないでしょうか。

大事なのは筆者のように変えようという意思だと思います。

tazi

理想は裁量労働制だと思います。
書かれていることもほぼ間違いありません。
しかし、日本の裁量労働制は会社が給与を上げないための手段として取り入れている事が多いので、結果として定着していません。

筆者の様に変える意思を持つのであれば、エンジニアよりも経営者になり制度を整えて行くのが良いかと思います。

fuga

定期的にこういう「偽善者」コラムが出てくるな・・・
困ったものだ┐(´-`)┌

Jitta

> 残業代を節約する目的なんかで労働時間を減らせるような状況ではない

 残業をすれば、企業は儲かります。企業が、残業代という支出を節約する必要はありません。

 「20日でできる」と受注した仕事を、8時間/1日×20日で仕上げた場合よりも、
(8時間+残業2時間)/1日×16日で仕上げると、利益は大きくなります。
事務所の賃料など、いくつかの費目は日割り計算だからです。
なので、残業によって次の仕事に充てられる日数が増えると、利益は大きくなります。
もっとも、「次の仕事がない」なら、損になることもあります。

 「残業代を節約する目的で労働時間を減らす」のは、「20日でできる」と受注したが、
実際には30日かかりそうなので、10日分を残業でまかなおうとする場合、です。
こんな場合もあります。
「30日かかるんだけど、それでは受注できないので、20日分の費用でだそう。」
10日*8時間=80時間を20日に分散すると、4時間になります。
毎日4時間の残業を少しでも減らせば、損は減ります。

 つまり、「残業代を節約する」必要があるのは、

*エンジニアの力量が、正しく評価されていない
*エンジニアの仕事が、正しく評価されていない
*受注しようとしている仕事の総量が、正しく見積もられていない
*社員を養うために十分な量の仕事が、得られていない

などのためです。
従って、ここの考え方も、私は異なります。

> 残業したらその分の残業代を請求するっていうのは、果たして自分の生み出した価値に対する正当な要求なのか

被雇用者は、自発的に残業をすることはできません。してはいけません。
残業は、雇用者の命令で行うものです。
ですから、残業代を請求することは、当然の権利、正当な要求です。
実情は、どうか。
エンジニアが見積もった作業時間が、減らされずに通るでしょうか。
エンジニアが、見積もりの根拠とした「作業内容」(仕様)が、終了までそのままでしょうか。
仕様変更があった場合に、その変更に対して再見積が認めれるでしょうか。
どれも、「否」の場合が多いのではないでしょうか。
そういう現状では、私は、「正当な要求である」と思っています。

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