第8回 システム導入教育(5) システム操作研修を設計する
こんにちは、エル・ティー・エスの忰田です。
このコラムでは、システム導入時のユーザー教育を中心とした「システム展開支援」サービスについて、その目的や内容を紹介しています。
前回のコラムから「システム操作研修について」をテーマに、これまでの経験から前提事項やポイントをまとめています。今回は、システム操作研修全体のカリキュラムをいかに設計するか、を考えたいと思います。
■研修のカリキュラムを作る
システム操作研修の肝となるのが「カリキュラム」です。研修の実施がゴールであれば、カリキュラム設計はそのゴールまでの道筋を作る重要な工程となります。研修の準備から実施までに必要な工数も、カリキュラムが出てこないと詳細化ができません。そのため、なるべく早い段階でカリキュラム設計に着手することが後の工程の失敗を防ぐための最大のポイントとなります。
カリキュラムを作る前にシステム導入時のユーザーに対する「教育計画」ができていれば、ある程度の情報が揃っているはずです(教育計画については4回目と5回目のコラムで説明しています)。
ユーザー教育を実施する期限、教育の目的(ゴール設定)、教育範囲、大まかな対象者、などはカリキュラムを作る前の時点(教育計画の作成時)で明確にしておくべきでしょう。
上記の前提となる情報を踏まえて、具体的な研修実施計画(=カリキュラム)を作成します。
カリキュラム設計で重要なポイントは、以下の4点です。
- 実施形態を決める
研修の実施形態は多種多様です。やり方だけでも、対面で実施、テレビ会議などの非対面形式、eラーニングなどのツール利用、などなど方法はいくつもあります。また対面で実施の場合でも、遠隔地のユーザーがいる場合は本社・支社などに集めて研修をするか、実施する側が各地を訪問するか、という判断もあれば、直接プロジェクト側から研修の対象とするのは主要なユーザーのみとして、その他のエンドユーザー研修はユーザー側に委ねる、などの判断もあります。
その他、カリキュラムをどんな切り口で設計するか? も重要です。システムの機能で分ける、業務の種類で分ける、受講対象者となるユーザーの部署で分ける、などやり方はいくつもありますが、それぞれ一長一短あるために「何を優先するのか? 」を明確にしておく必要があります。ユーザーの都合を最優先するのであれば、ユーザー部署ごとに最適なカリキュラムを提供すべきですし、効率を優先して最小の工数で研修を実施するなら、システムの機能ごとに研修クラスを設置し、それぞれの部署から必要な部分だけを受講してもらう方法をとります(この方法は受講者の選別や業務と機能のひもづけが非常に難しいですが……)。
実施形態によって、研修の開発期間や必要な情報、実施場所や回数が大きく変わってくるため、システム導入教育全体の中でも最も重要かつ難度が高い作業です。
- 研修の基本構成を決める
複数の研修に出席するユーザーの場合、出席するごとに研修内容や教材の構成が全く違っていたら、毎回異なる説明の流れや教材の見方をその都度覚えなければいけなくなります。そうなると、研修を開発する側の工数も多く消費されてしまいます。
このような事態にならないように、研修の基本的な構成や研修教材のテンプレートを決めておきます。業務システムの研修では、大きく分けて「業務の解説パート」と「システム操作手順の教育パート」に分かれます。これらの説明順序や毎回の研修で必ず伝える内容(受講の注意点や各研修コースの前提・目的・ゴールなど)の基本構成をあらかじめ決めておき、各研修コースでは基本構成に沿った形で研修を実施します。教材も同じように、基本構成に合わせた一定のテンプレートを使って開発することで、受講者が毎回教材を最初から最後まで読み込む必要がなくなります。研修開発の作業予定も基本構成が決まっている方が見通しやすいはずです。
- 研修教材を定義する
実施形態や基本構成について結論が出たら、次は実施形態に合わせた、実施をフォローするための必要な研修教材を定義します。研修開発とは別枠で操作マニュアルを開発しているケースでは、そのマニュアルをそのまま教材として利用することが多いですが、実際の研修ではマニュアルの中身を順番に説明する、ではなくマニュアルの内容を抜粋・まとめた説明になります。その場合、マニュアルのみで完結させることが難しくなるため、補足資料や補助教材を準備するなどの合わせ技で対応することが多いです。
また、システム操作研修の場合、実際の「システム操作」そのものを研修の中で実践します。この「操作演習」を行う場合は、演習をスムーズに進めるための「どこで何を入力しどう操作するか?」を説明する資料も準備します。
- 研修の実施管理方法を決める
実施形態が決まると、それぞれの研修の受講者が誰か? が明確になります。受講者をベースにして実施形態を設計している場合は、最初からある程度把握できているかもしれません。
これらの研修クラスに対する受講者をどこまで管理するか、どのように管理するか、を決めておきます。簡単に言えば、個人や部署のレベルで出欠をとるか? を決めよう、という話です。
研修の受講率はシステムが稼働可能かを判断するための要素にもなり得る(ちゃんと研修開発して管理していれば)ため、必要であれば出欠を管理します。ただし、ただ出欠だけ管理しても「理解度」までは判定できないため、受講後のアンケート実施やヒアリング、理解度テストなどの方法も合わせて利用することが重要です。ただし、これらの実施管理や理解度判定は、研修の目的・到達目標が正しく明確に定義されている場合は有効に働きますが、目的がハッキリしないまま行うと出席率の数字やアンケートの結果に翻弄されるだけになるため、注意が必要です。うまく管理できそうになければ、あえてやらない方が無難かもしれません。
■各研修コースで扱う内容を決める
カリキュラムの設計が進むと、各研修のコースで何を教育するか? が明確になってきます。このコースは2時間で「海外向け発注プロセスを説明する」くらいのレベルにまでは落ちてくるはずです。
これを、もう少し具体的な内容に落とし込みます。2時間という時間の使い方を意識して、限られた時間の中で何を伝えるのか? を整理します。このレベルまで整理すると、複数のコースで教育内容が重複する・研修コースに漏れがある、などの問題が顕在化してくることがあるため、必要に応じて研修コースをまとめる・追加する・削減する、などを行い、各研修コース内容の精査を進めます。
内容を決めたあとは、2時間の枠のうち何を何分で説明するか? までを整理し構成を詳細化するのですが、こちらは次回のコラムで説明したいと思います。