第9回 システム導入教育(6) システム操作研修の開発・準備
こんにちは、エル・ティー・エスの忰田です。
このコラムでは、システム導入時のユーザー教育を中心とした「システム展開支援」サービスについて、その目的や内容を紹介しています。
前々回のコラムから「システム操作研修について」をテーマに、なぜ研修を実施するのか? から研修カリキュラムの設計についてを説明しました。今回は、個々の研修を開発し実施準備をする工程について考えたいと思います。
■準備完了!「これで大丈夫だろう」が命取り
研修のカリキュラムができた時点で各研修の中で何を説明するか? もある程度明確になっています。当日何を話すかを考えて、資料も準備して、そこで「もう大丈夫だろう」と思ってしまうと、落とし穴があります。そのまま進めると、実施当日になって「半分も説明できないまま終了時間になってしまった」という結果になるケースが多いのです。最初から「2時間の研修」と分かっていて、教育する内容もだいたい決まっていたはずなのに、なぜこのような状況が発生するのでしょうか?
■本当にすべてを「今」教えないといけないのか?
特定の業務に関するシステム操作について2時間の「研修」を作成する、という場面があったとします。その業務に関与するユーザー部門を相手に、研修で何を教育すべきか? をヒアリングしていくと、どんな結果になるでしょうか?
- 「せっかく研修をやるなら、この機会にアレもコレも説明したい」
- 「ココを教えるなら、前提知識としてコレも必要だ」
- 「受講者全員に関係ある内容ではないけど、今後のことを考えたら異動もあるわけだし、みんなにイロイロなことを教えよう」
などなど、この機会に教えたいという欲が出てしまい、収集がつかなくなりがちです。その結果を真に受けて詰め込み型の研修を作ると、「一つのテーマは最大5分しか説明できない」といった結果になり「5分ごとに違う内容を休む間もなく説明される」ことになります。こうなると、全体の話の流れもなにもあったものではありません。そもそも5分で1テーマの説明は無理なので時間内に終わらなくなりますし、受講者も「講師が早口で何を言っているのか分からなかった」という感想しか持てないでしょう。
こんな結果を避けるためには、説明する内容に優先順位を付けて優先度の低いものを思い切って切り捨てるしかありません。切り捨てられる説明をしてほしかった一部のユーザーは「いや、ここも重要だ」と反論するでしょう。確かにその反論は正しいかもしれませんが、すべての業務が「その時点で」教育すべき重要な内容なのか? というと、そんなことはないはずです。教育する時点が、ユーザーテストの前ならば、テストシナリオに関わる業務範囲を重点的にケアすべきですし、システムの本稼働前ならば、稼働直後に発生する業務範囲を詳しく教えるべきです。本稼働の半年後に使う機能(でも業務的にはとても重要)であれば、確かに重要かもしれないですが、「半年後にやることを今教わっても忘れる」が現実です。
■何分で説明できるのか? を検証する
「これは15分もあれば説明できるだろう」と考えて、そして考えただけでそのまま進めてしまうと……失敗します。「いやそんなことないだろう」と思う人は、やってみてください。「私は経験豊富だから大丈夫」と思っている人は「経験豊富なプロ研修講師こそ、必ず説明内容と時間の検証をする」という事実を知るべきです。
何が問題か? というと「これは15分もあれば説明できるだろう」という【浅い考え】が問題です。そこに「受講者の前で話して反応を見つつ先に進める」という要素が入っているのか? 「資料やシステムの画面、画面の中でも操作する順に受講者の視点の移動を促し、理解を確認しつつ説明する」という非常に神経を使う作業が考慮されているのか? という話です。
一つのテーマに対して、具体的にどう話すのか? 話すときにどの資料を使って、どうポイントをまとめるのか? システムの操作をさせるなら、一つ一つの操作ステップのデモとその説明、受講者の演習にどれだけ時間がかかるか? など、細かく状況や説明の方法を整理し、使う時間を検証します。そこまでやると「15分だけでは思っていたほど話ができない」ということがやっと分かってきます。
■タイムシートを作る
研修の中で説明する内容を絞り込み、説明する内容を詳細化するところまで終えると、やっと研修1コマの細かい時間配分が見えてきます。この結果を説明内容と時間(分)で区切り、タイムシートに落とし込みます。長時間の研修であれば休憩時間という要素も必要ですし、操作の実習をするのであれば状況にもよりますがシステムへのログインをするための時間も考慮しないといけません。また、連続性のある研修であれば「前回の復習」や「今回のまとめ」のような振り返りの時間も必要です。
これらを全て考慮し、時間配分をタイムシートに記録します。研修教材とタイムシートまで作成しておけば、一つの研修を繰り返し実施する際に毎回ブレなく同じ説明内容や時間配分を維持することができる、という利点もあります。
■そして「仕込み」をする
システム操作研修が他の教育研修より労力がかかるのは、受講者に「実際にシステムを操作させる」ことが求められるためです。操作させるための準備が必要です。いわゆる受講者用の「データ仕込み」という手間のかかる作業です。一度仕込み方を決めてしまえば、場合によっては、後はバッチで自動化、研修実施前の環境を復元して繰り返し、などもできますが、いずれにしても「最初の仕込み」と、そもそもの「仕込みをする環境の確保」また「どんなデータを入れておくか?」「どんな操作をさせるか?」といった決めが必要になります。
この中で最も苦労するのは「どんなデータを入れておくか」の問題です。研修実施時点では「それっぽい」データがシステムに入っていないことがあります(データ移行のテストができている場合は運がいいですが、実際データ移行がスムーズに進んだプロジェクトを見たことがありません)。それでもできる限り「それっぽい」データを準備すれば、受講者は見知ったデータ・名称を見られるため、そこからシステムの構造を理解できます。
仕込み作業は「決め」さえ乗り越えればあとは単純な繰り返しです。体調に気をつけて準備を進めましょう。
■あとは、研修実施!
ということで、やっと準備が終わると、最後の工程「実施」が待っています。後はやるだけ、の状態ですが、最後に失敗すると努力も台無しです。
実施の工程については、次回のコラムで書きたいと思います。