システム導入時のユーザ教育に関するノウハウを書いていきます。

第13回 システム導入教育(10) システム操作マニュアルを作る前にやること(完成への仕組み作り)

»

 こんにちは、エル・ティー・エスの忰田です。このコラムでは、システム導入時のユーザー教育を中心とした「システム展開支援」サービスについて、その目的や内容を紹介しています。

 今回も「システム操作マニュアル」の作成をテーマに、「マニュアル作成前にやること」の後半を書きたいと思います。

■完成させるための仕組みを作っておく

 マニュアルの「完成」とは、どんな状態でしょうか? というと「ドキュメントとして100%完全なモノが出来上がること」というよりは「ユーザーの承認が得られる状態に至ること」が実態に近いです。マニュアルは基本的に業務や状況に合わせてメンテナンスを続けていくドキュメントなので、もう何も手を入れなくてもいい状態、にはなりません。「作成前に決めた目標を達成できるドキュメントになっているか?」を判断して、問題なければ納品します。

 この納品に至るまでには、ユーザーのレビューをクリアする必要があります。作成した各マニュアルについて、それぞれの内容の正しさを担保できるレビュアー(の工数)を確保し、同じ基準・同じルールでレビューをしてもらいます。

 しかし、多くのユーザーはプロジェクトワーク特有の「役割」や「責任範囲」の意味、そして事前に決めたルールに従って作業を進める、という仕事の仕方に慣れていません。これは、普段は自社・自部門の中の自分の担当業務という範囲だけで業務を回すという仕事の仕方をしているため、プロジェクト内だけの限定的なルール、役割、スコープという概念にうまく馴染めないのが原因だと思います。エンジニアとは根本的に仕事の仕方が違うのです。

 結果として、ルールが理解できずにレビュアーごとにレビューの深さの差が出たり、スコープを考慮できずに追加の要望を出してきたり…… といった事態が発生します。これは、システム開発でもマニュアルを作る場合でも同じです。

 これを回避するためには、統一したレビューの観点やレビューポイントについての理解を共有する場を設けることが必要です。何をするにもまずは、事前にしっかりとコミュニケーションをとっておきましょう。それでもなかなか難しい…… という場合は、レビュー結果を取りまとめるユーザー側の責任者(権限を持つ人)を設定することが望ましいでしょう。

■マニュアルの公開方法を決めておく

 マニュアルをどうユーザーに公開して見てもらうのか? は、見せ方によって作り方も変わってくるため、実際はかなり初期のマニュアルの設計工程で固めておかなければならない事項です。

 「PDFにしてお客さまがすでに利用しているドキュメント管理システムに載せる」などの公開方法の場合は、PDFにした場合に見やすいフォーマットにする必要がありますし、ファイルをどんな単位で分割するか? も決めなければいけません。実際にマニュアルを読むユーザーの作業現場にPCがない、台数が少ないなどの場合は紙に印刷することが想定されるため、紙に印刷した場合に見やすいデザインにしないと読もうとは思われないでしょう。

 最近はタブレット端末の利用も進んできているため、その場合の配信・閲覧する仕組みも考慮すべき要素です。Webブラウザで見ることが前提の場合は、操作性やハイパーリンクの使い方をどうするか? などが重要なポイントになります。

 取りあえず「社内ポータルサイトにマニュアルの置き場所を作っておく、という方針で、細かいところは後で考える」にして先に進める…… などは、実はよくある話です。しかし「細かいところは後で」にして放っておくと、実は掲載できるファイルサイズをオーバーしていてサイトに載せられない…… とか、システムを頻繁に利用する派遣社員にはポータルサイトを見る権限がない…… などの問題が直前になって分かる、といったことも発生します。実際、何度かありました。

 公開方法を検討したら、必ず「本当に、それが可能なのか?」を検証しておきましょう。

■まとめ

 前回から2回にわたって「システム操作マニュアルの作成前に決めておくこと」について書いてみました。

 今回書いたことをすべて検討したうえでマニュアル作成に進むのは実際のところ時間的に難しいこともありますが、やっておけばそれだけ後工程のリスクを減らせられます。「やらずに進めて失敗」は「上流工程の検討が適当だったから、要件があやふやで開発が難航するシステム」と同じです。苦労は早いうちにしておきましょう、ということです。

 次回は「システム操作マニュアルを設計する」工程について書きたいと思います。
 

Comment(0)