第10回 システム導入教育(7) システム操作研修の実施
こんにちは、エル・ティー・エスの忰田です。このコラムでは、システム導入時のユーザー教育を中心とした「システム展開支援」サービスについて、その目的や内容を紹介しています。
ここ数回のコラムでは「システム操作研修」の設計から準備について順を追って書いてきましたが、ついに今回で「研修」をテーマにした連載が終了です。では、最後となる研修の「実施」について考えてみます。
■実施……の前にリハーサルをやろう
時間がない、実施直前まで説明内容を作りこんでいた、データの仕込みが間に合わなかった、などなど、研修実施前にリハーサルができないケースは多いでしょう。でも、やりましょう。やる前提でスケジュールを組みましょう。
研修実施に不慣れで経験がない人ほど、リハーサルをしません。なんとかなるだろう、と根拠のない自信を胸にぶっつけ本番で失敗します。やってみないと分からないことは、案外多いのです。
部屋の広さや受講者が座る机の配置、講師が使うPCやプロジェクターなどを投影する場所…など、確認しておかないと後悔します。部屋の広さ(あとは形・明るさ・照明の配置も)によって、声の大きさや「どこまで講師から見えるか」が変わってきます。どのくらい声を出せば最後列まで届くのか、全体の何割の顔(反応)を見ながら進められるのか、は重要な要素です。また、マイクがあるか? スピーカーはどこにあるか? など部屋の設備を確認する意味でも、リハーサルは重要です。
■研修講師、得意ですか?
いろいろと書いておいてどうかと思いますが、かくいう私自身、決して講師役は得意ではありません。特に最初のころは不得意というより苦手意識が強かったです。しかし、何度か経験するといくつかの「コツ」が見えてきました。
苦手、うまくできない、という人は以下の問題を抱えていることが多いです。
- PCの画面や教材、マニュアルを見て話してしまう
受講者の前に立っているのに、受講者を見ずに画面や紙ばかり見てしまう。これでは受け手が話を聞いているか分かりません。1人で勝手にしゃべっているのと同じです。これが、苦手意識を持っている人が最もやりがちな失敗です。受け手の顔を見て、反応を確認しつつ説明する、を実践しましょう。
- 教材やマニュアルの文章を読み上げてしまう
読み上げるだけなら、最近は機械でもできますね。細かい説明文を都度読み上げる、などをやると時間も足りなくなります。必要なのは音読して聞かせることではなく、伝えて理解を得ることです。
読み上げをしてしまう原因は、主に説明する対象に関する理解が足りないことです。知っている・分かっていることであれば、ポイントを絞り込んで説明できるはずです。よく言われる話ですが、人に説明できないということは要するに理解できていないのです。理解はしているけど、どうしてもしゃべる段階になるとうまくできない、という場合は説明する単位(ページやフローなど)ごとに、ポイントを1~3つくらい書き出してそれを読んで伝えましょう。ポイントを書き出す、という作業を行うことで頭の中が整理され説明できるようになる、という効果もあります。
- 気が付くと早口になっている
早口で説明する人に「早過ぎるよ」というと「そうですか? そんなに早く話したつもりはなかったですが」などの答えが返ってくることが多いです。自分がしゃべっているスピードの妥当性がよく分からない状態。それは言葉を変えれば「いつもと違う= 緊張している」ということです。
緊張している人はゆっくりしゃべれません。緊張するクセを直すには、まず一番は「慣れる」ことですが、慣れるだけの時間がない場合は「短く区切ってしゃべる」「少ししゃべったら息抜きの動作をする」などを意識して繰り返しましょう。区切ることを意識しはじめると、それだけでスピードが落ちてきます。また例えば「息抜きの動作として時計を見る」と決めておき、一度しゃべるのをやめて時計に目を落とす、という動作を意識的に行うと緊張がずいぶん和らぎます。あまり時計を見過ぎると不自然なので、その場に合う自然な動作がいいでしょう。
- 一度しか言わない
大事なことは二度言ってください。「大事なことなので二回言いました」とは実はかなり的確な言葉です。聞き漏らしは誰にでも発生します。そして、大事なことを聞き漏らすだけで一気にその後の理解が崩れることがあります。前提が違っていた、必須の手順が抜けていた、正常系か例外かを聞いていなかった、などは発生する前提で考えましょう。「途中から聞いても分かるように説明する」を意識して、振り返りをしつつ話をすることが大事です。
■システム操作説明のコツ
まず「話す」という観点でよくやってしまう行動を説明しましたが、これ以外にも重要な要素があります。システムの「操作」の説明であるが故に必要になってくるポイントがあるのです。
- 黙って操作しない
受け手は画面を見ているのだから大丈夫だろう、という考えは捨ててください。黙ったまま画面操作のデモしても受講者は「何をしているんだろう」としか思いません。また、無音の時間が続くだけで受講者の集中力は低下し「今何をやったんだっけ」につながります。
まず「これからどんな操作をするのか」「講師の操作を見ていてほしいのか」「受講者も同じように操作をするための時間なのか」を必ず説明した上で、講師は操作をしましょう。
- 動作や状況を1つ1つ口に出して言う
例えば「システムを起動させて○○ボタンを押して次の画面で△△項目に何か入力する」という動作を説明する場合で、悪い例と良い例で比較してみます。まずは悪い例。
- 「まずシステム起動のアイコンをクリックします。(……起動中……) では○○ボタンをクリックします。(……画面遷移中……) 次に△△にカーソルを合わせます」
このように「操作の説明はしていても合間に空白の時間がある」だけで聞き手の集中力が途切れます。
では、次は同じ操作を説明する良い例です。
- 「これから○○の操作をするので、まずはシステムを立ち上げます。今このシステムのアイコンをダブルクリックしています。さて、立ち上がりましたね。ではメニューから○○のボタンをクリックして、ちょっと時間がかかるので少し待ちましょう…。○○機能の画面が表示されました。最初に入力するのは△△なので、まずは入力項目にカーソルを合わせます。△△は画面の右下の方にあるので少しスクロールして…はいクリックしました。前方の画面は、カーソルを△△に合わせた状態です」
といった具合です。なんとなく「説明慣れしている」ように聞こえませんか? このように「これから何をするか」と「今何をしているか」を、実況するようなイメージで説明しましょう。
- 説明に入る前に、受講者の視点を誘導する
今何を見せているのか? 次に何を見てほしいか? など、次のアクションにつながる情報を常に伝え続けます。
例えば、
- 「前の画面を見てください。教材の20ページを表示しています。次はここから説明します」
- 「これから、お手元のマニュアルの50ページから55ページまでの内容を説明します。前の画面ではマニュアルの手順どおりにシステムを操作するデモを表示しますので、まずは前の画面を見ていてください。その後でマニュアルに書かれている細かい内容を説明します」
などなど、どこを説明するか? これから何をするか? どこを見てほしいか? その後で何をするか? などの情報を提供し、受け手の視点や動作の道筋を示した上で、本格的な説明に入ります。
この時も、画面や紙ばかりを見て話さず、受講者に目を向けて常に反応を見つつ進めることが重要です。
■まとめ
さて、4回にわたって「システム操作研修」について書いてみました。
実際のシステム導入プロジェクトの現場では、なかなか研修の開発や準備に時間をかけられないという事実もありますが、そうはいっても時間や労力をかけなければ成功しないくらいに困難な作業です。データやシステムではなく、人を相手にした作業になるため、相手の期待値や相手の理解力も踏まえた研修を提供しないと、価値が生まれません。「よかった」「理解できた」と思ってもらうこと、をゴールとして考え、さまざまな人の協力を得ながら進めていきましょう。