今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

157.【小説】ブラ転10

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初回:2021/6/16

 ブラ転とは...
 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略

1.オファーが待てない

 私(早坂)が二代目からの提案を聞いた後、組織改革の社内掲示板が公開された。翌日には大規模な人事異動情報が公開されていたので、杉野さくらからのオファーが来るとすれば、今日か明日にはあるはずだろう。

(待っていると、仕事が手に付かない...)

 元々、社史編纂室での仕事なんてなかったけれど...

 社史編纂室は電気室と言われる建屋の隣にある倉庫の備品類を片隅に追いやってスペースを確保しただけの場所だった。杉野さくらがいる技術部は、研究棟と言われる建屋で、ここから100mも離れていない場所にあった。

(オファーを受けるとは言ったが、待つとは言っていないし...)

 私はとりあえず技術部まで出向くことにした。

2.障壁

 二代目が、私(杉野さくら)に専属エージェント契約の話を持ってきた後、早速、早坂さんと山本さんにオファーというか、相談に行くことにした。

「杉野さん、ちょっといいかな。第二会議室まで来て欲しいんだが...」

 声をかけてきたのは、開発3課の課長だった。私と亡きマサシさんの直属の上司だった。といっても技術部に事務職は私しかいなかったので、1課と2課の面倒も見ていた。

 課長に連れられて第二会議室に入ると、正面に技術部長が座っていた。その両脇を固めるように、1課長と2課長が座っていた。3課長はさらにその横に座った。正面に横一直線に管理職が座っているので、圧迫面談かと感じた。

「ちょっとした噂があってね」

 着座するとほぼ同時に、部長が口を開いた。

「専属エージェント契約を結ぶとか、プロジェクトを任されたとか...」

「はい。二代目からそのように申し入れがありました」

「で、受けるのかね」

 高圧的な物言いに聞こえた。普段、部長とは話したことがないので、これがいつも通りなのか、何か圧力をかけるつもりでわざとなのか判断がつかなかった。

「部長、まあ、そう急がなくても」

 そうフォローしたのは3課長だった。つまり先ほどの発言は圧力をかけていたという事か。

「よくわからないんですが、面白そうなのと、わざわざ二代目がお声がけ下さったので受けてみようと考えています」

 部長が何か言おうとしたのを1課長が制止した。4人でヒソヒソと話し始めた。しばらくして、1課長が口を開いた。

「エージェント契約も良いと思うんだけど、今の仕事も引き続き頼めないかな。なあに、別の事務担当者が決まって、引継ぎが完了するまでの間だけ、兼任という形でもいいからさ」

 契約を断らすのは無理と考え、なら、今まで通りの仕事をさせようという考えだろう。どうせすぐには後任者は決まらない...いや決めない可能性の方が高そうだ。

「すでに二代目が私のプロジェクトの参加者を決められていますので、その方たちのご意見をお伺いしてからでないと、即答はできません。あと、二代目ともご相談しないと...」

 最後の一言で、部長の怒りがさらに増したようだった。さすがに怒鳴り声は発しなかったが、このまま無事に帰してもらえるのか不安になってきた。

 いきなり会議室のドアが開いて、一人の男性が断りもなく入室してきた。

「事務の仕事は今まで通り行います」

3.オファーが待てない Part2

 私(早坂)が技術部に付くと、何となく冷ややかな視線を感じた。確かに5年ほど前まではここで働いていたのだから、知り合いは多い。といっても親しい仲ではなかった。

 一通りフロアを見渡したが、杉野さくらの姿はどこにもなかった。いや、席がどこか分からなかったので、そもそもこのフロアで正解かどうかも怪しかった。

「あれぇ、早坂先輩じゃないですかぁ、珍しいですね、こんな所に来られるなんて」

 (誰だこいつ?)

「...あ、えっと、新人研修の時にプログラミングの基礎を教えて頂いた、長瀬です」

 (ん~、何度か新人教育したが、名前なんて覚えられんわ)

「所で、先ほどから何かお探しですか?」

「察しがいいな。実は事務の杉野さんに用事があるんだ」

「ああ、さくらさんですね。えっと...」

 そういうと長瀬と名乗った人物は、少し離れたところにあるホワイトボードを凝視した。行先掲示板だ。昔と変わっていない。

「どこにも書かれていませんから、小用でしょう。すぐに戻られると思いますよ。席は...」

 そう言って指をさすかどうか位のタイミングで、すぐ近くに座っていた別の人物が割り込んできた。

「長瀬よ、さっき杉野さんなら、うちの課長に連れられて、どっかに行ったぞ」

 長瀬と名乗った人物と私がほぼ同時に再び行先掲示板の方を見た。確認したかったのは課長の行先だった。2Kと走り書きされていた。長瀬は即座に「第二会議室ですね」と答えた。

「部長も第二だな」

 すぐ近くに座っている人物が別のホワイトボードを指さして答えた。すぐに二人とも「1課長も2課長も入ってるみたいだ」といった。

 私には察しがついた。以前と同じで、事務職はこのフロアに一人しかいない。きっと業務の引き留めだろう。私は二人に礼を言うと、第二会議室に向かおうとした。

「...ところで、第二会議室って、どこ?」

4.キックオフ

 私(早坂)は第二会議室に入ると「事務の仕事は今まで通り行います」と宣言した。話なんて聞いてないが、どうせそういう事だろう。もし違う話なら『しっつれいしましたぁ』といって、冗談にしてしまえばよいだけだ。

 4人...いや5人がきょとんとした顔でこちらを見ている。こういう反応の時は、バッチリ読みが当たっていた時だ。

「な、なんだね君は?」

 部長が突然の見知らぬ人物の乱入で動揺しているようだった。私の事を知っているのは、この中では1課長だけだろう。それも課が違ったから、覚えているかどうか不明だ。

「早坂君だね、何か誤解があるようだけど、君とは関係のない話なんだ」

 そう口を開いたのは、1課長だった。

「内容を聞いてなかったので、無関係な話なら謝ります。ただ、杉野さんのエージェント契約の件なら、私にも関係があります。彼女は私にオファーすることになっていますから」

 4人がほぼ同時に「え?」という顔になった。

「ご安心ください。事務作業は今まで通り彼女が行います。もちろんエージェント契約も彼女が進めます」

 3人が少し安堵した表情になった。1課長だけが、さっきより不安が5割増しになったような顔をした。

「では、この後キックオフがありますので...」

 私はそういうと、彼女と連れ立って、第二会議室を後にした。


======= <<つづく>>=======


 登場人物
 主人公:クスノキ将司(マサシ)
     ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
     残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして...
 母(マサコ):クスノキ将司の母親
     母一人子一人でマサシを育てあげたシングルマザー
 婚約者:杉野さくら
     クスノキ将司の婚約者兼同僚

 社長兼会長:ヒイラギ冬彦
    1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
 兄:ヒイラギナツヒコ
    社長の長男。中学時代に引きこもりになり、それ以降表舞台に出てこない。
 姉:ヒイラギハルコ
    ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
    弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
 二代目(弟):ヒイラギアキオ
    ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
    性格も社長に似ており、考えもブラックそのもの。
    ただし、この小説では残念ながら出てこない。
 ヒイラギ電機株式会社:
    従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
    大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
    社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。


スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』

 ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。

 P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
 早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。

 P子:「今回は、早坂さんが主役ね」
 早坂:「これからは、もっとキーパーソンになっていくからね」
 P子:「本当?でも、1課長、よくあなたの事覚えてたわね」
 早坂:「人望の違いですよ。僕はとっくに忘れてたけどね」
 P子:「もしかして、足を踏まれた方は忘れないけど、踏んでる方は忘れてるってあれ?」
 早坂:「何のことでしょう」
 P子:「ごまかした」

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