「WACATE 2013 夏」参加レポート(その1)――最高の学びにするための再考
こんにちは、第3バイオリンです。
半年に一度の恒例行事、「WACATE 2013 夏」に参加してきました。今回は、いろいろと新しいことにもチャレンジできた2日間でした。それでは、さっそく参加レポートはじめます。
■日時と場所
日時:6月22日〜23日
場所:マホロバ・マインズ三浦(神奈川)
天気予報では、この日に台風が直撃するかもしれないと言われていましたが、当日はとても良いお天気でした。台風まで撃退するとは、WACATE恐るべし。
■テーマ
今回のテーマは「そのテスト、再考」ふだん何気なくやっているテスト、使っているテスト技法について、本当にそのテストでいいのか、テスト技法の意味をきちんと理解して使っているのか、今いちど考え直してみよう、という主旨でした。
■ポジションペーパーセッション
WACATEの最初はポジションペーパーセッションです。参加申し込みのときに提出した「ポジションペーパーセッション(参加表明書)」をもとに、自己紹介も兼ねて自分がWACATEに参加した目的、この場で議論したいことなどをグループで発表します。
今回、わたしはポジションペーパーに仕事と家事の両立についての悩みと、仕事において自分が伸び悩んでいると感じていることを書きました。ワークショップの参加表明としてはかなり後ろ向きです。このポジションペーパーをそのまま読み上げても何も面白くないどころか、下手をすれば変な空気になってしまいます。
開催数日前、ポジションペーパーセッションどうしようか……と悩んでいたところでふとひらめきました。
「そうだ、今までエンジニアライフのオフ会や、OSC京都などで何度もLT(ライトニングトークス)をしてきたじゃないか、それを応用してみよう」
ポジションペーパーセッションの持ち時間は一人あたり3分なのでLTよりは少し短めですが、ポジションペーパーの内容をLT風のスライドにしてみました。ネタっぽい画像も加えつつ、自分の悩みをあまり暗くならないように紹介するスライドを作り、持参したノートPCでグループのメンバーに見せながら発表しました。発表というスタイルはまずまず好感触だったようです。
なお、WACATEでは毎回「もっとも加速しているポジションペーパー」が参加者の投票によって決められます。投票で1位になった人には「Best Position Paper賞(BPP賞)」が贈られます。BPP賞を受賞した人は、次のWACATEでセッションをする権利が与えられます。それが、この次の「BPPセッション」です。
■BPPセッション「フィードバック・ループをつくろう!」
前回の「WACATE 2012 冬」でBPP賞を受賞した松木 晋祐さんのセッションです。
複数のコミュニティに参加し、勉強会やシンポジウムでの登壇経験も豊富な松木さん、このセッションでは「学びのアーキテクチャ」についてお話したい、と語り始めました。
松木さんの「学びのアーキテクチャ」とは、「自分の内側で学びを深める『インナーループ』と、自分の外側に発信する『アウターループ』このふたつのループを回して行くこと」だそうです。順番に説明しましょう。
まずはインナーループです。これは、自分が新しい知識やスキルを学習するためのループです。一般的な学習のループは以下のとおりです。
- 認知する(学びたい、と思う)
- 学ぶ
- 手を動かす(ワークショップに参加するなど)
- 何か作ってみる(仕事に応用する)
- さらに高度に知る(そして1に戻る)
松木さんは、学ぶ、手を動かすことについていちばん効果的なのは「人に教える」ことだと語りました。勉強会で一番勉強になるのは講師、とよくいいますが、人に教えられるようになるためには自分が一番理解していないとつとまりません。だから、何か勉強したいと思ったら、自分が勉強会を主催すればいいのです。
また、松木さんは「人に教える」の次に身に付くやり方は「学んだことをすぐに使う」ことだとも語りました。そのためにおすすめする学習法として「遅延学習」を取り上げました。これは、例えばプログラミングでいうと、自分が作りたいものがあれば、まずそれに関わることだけを調べてとりあえず作ってしまう、ということです。作りたい、という気持ちは学ぶための強烈なモチベーションとなります。また、作ったら必ず「もっと細部を詰めたい、もっと洗練させたい」と思うようになります。すると、細部を詰めるためにまた勉強したくなる、というわけです。テストでいうと、やりたいテストを考えて、それを実現できる技術を学ぶ、といったところです。
ここまで語ったところで、松木さんは次にアウターループの説明を始めました。アウターループとは、学んだことを外に向かって発表、発信するためのループです。発信のためのループは以下のとおりです。
- 伝えるための何かを作る
- 伝える(発表、講演、人に教えるなど)
- フィードバックを受ける
- 芸を磨く(そして1に戻る)
松木さんは、どんなに高度な知識を持っていても、伝わらなければ意味がない、と語りました。自分から発信をして、何かしら突っ込みを受けることはときに恐ろしいものです。しかし、なにも意地悪で言う人はいないし、どうでもいいような人に対してわざわざ指摘する人はいません。そこは真摯に受け止めればいいのです。
また、自分が持っている情報の価値は、自分自身では判断することができないものです。外に向かって発信してみて、はじめて値打ちが出るものです。しかも、時代や場所、受け取る人によって値打ちは異なります。だから発信すること、フィードバックを受けて伝え方を変えていくことが大事なのです。
松木さんは、インナーループとアウターループ、このふたつのループをさらに回していくことが大事と語りました。インナーループを通して学んだことをアウターループに持っていく、そしてアウターループで得たフィードバックをまたインナーループに持っていく、この繰り返しでどんどん学びを加速させていくのです。
最後に松木さんは、「この2日間で、ループを試しに一度回してみましょう。ぜひ、自分で学んだらアウトプットしてほしい、身になっているという実感を得てほしいです」と締めくくりました。
わたしは今回のポジションペーパーに「今の自分は伸び悩んでいる、成長している実感がわかない」といった意味のことを書いたのですが、松木さんのセッションを聞いて、成長の実感がわかないのであればいっそのことアウトプットする側に回るといいのかもしれない、と考えてみました。そろそろ、受けるばかりではなく、与える側に回る時期が来ているような気はしていたのですが、ちょっと真面目にその辺りを検討してみましょうか。
■テストクエスト ぼうけんのしょ1
WACATE実行委員の上條 飛鳥さんのセッションです。
冒頭でいきなり
「おきのどくですが ぼうけんのしょ1は きえてしまいました。」
なんて懐かしいネタをはさみつつ、セッションは始まりました。
さて、我々テスト勇者たちは王様に呼び出されました。王様はテストのことについて悩んでいることがあるらしく、勇者に力を貸してほしいと言うのです。
王様が抱えている悩みは以下の3つです。
- 「テストなんてやってもムダだし必要ない、時間とお金のムダになるだけ」という声に対して反論する言葉が思い浮かばない
- 本で読んだ内容と、実際のテストがあまりに違う。理想と現実が違ってしまう理由は何か
- うまくテストをしている人に、テストをする理由やテストについての思いを聞くといろいろな答えが聞けるが、それでもまだ十分だと思えない
さっそく、王様の悩みを解消するべく、ワークが始まりました。まずは個人で王様の悩みに対する答えを考えて、その後グループで答えをまとめました。
わたしのグループでは、メンバーで話し合い「テストは必要だが、目的のないテストならしないほうがいい」という意見をまとめました。また、理想と現実の違いについては「そもそも『理想のテスト』って何?」というところから考えを整理しました。最後の、テストをする理由については、楽をしたい、安心したい、難題にチャレンジしたいなどなど、テストエンジニアの数だけ理由がある、とちょっとカッコ良く決めてみました。
そんな感じで、各チームでまとめた意見を順番に発表しました。みんなの考えた意見に王様も納得したようで、「このセッションで考えたことを忘れず、立ち向かっていけ。成長するためには多くの経験が必要だ、さあ、行くがよい!」とテスト勇者たちを力強く送り出してくれました。
このとき、前回の「WACATE 2012 冬」で登壇された山本さん(村上さん)がいらしていて「テストが必要かどうかは状況にもよる。また、ひとくちに理想といっても、計画、設計、実行それぞれのフェーズに理想があるはず。それから、テストをする理由として『リスクを減らす』『コストを減らす』ことを挙げているグループが多かったけど、それでは個人が趣味で作ったもの、お金がかからないものにテストはいらないのだろうか? それが少し引っかかった」とご講評をいただくこともできました。
テストの必要性、テストをする理由、理想と現実との違いなど、テストをしていると一度は必ず悩むことです。そういった、ある意味テストの永遠のテーマについて、他の参加者と一緒に考え直すことができたのは良い機会だったと思います。
「WACATE 2013 夏」参加レポート第1弾はここまでです。次回は、1日目の後半の様子をお届けします。