テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

「WACATE 2013 夏」参加レポート(その2)――人生に正解はあるか

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 前回から少し間があいてしまいましたが、「WACATE 2013 夏」レポート第2弾をお届けします。

■みんなのテスト分析

 WACATE実行委員の上田 卓由さんのセッションです。

 夏のWACATEの名物、がっつりワークショップです。最初に、上田さんからワークショップの説明がありました。

 さっそく、ワークショップのお題として架空のオンライン勉強会開催システム「勉強カイザー」の仕様書や資料が配られました。そして、資料からこのシステムのテストに必要な情報を整理して、グループで必要なテストを検討してまとめることになりました。

 わたしのグループでは、まずメンバーそれぞれが資料を見て気がついた観点を付箋紙に書き込み、それを分類してグループとしての意見をまとめようとしました。

 しかし、観点は出そろったものの成果物をどのような形にすればいいのか、イメージが湧きません。メンバー全員で首をひねっているところに、クロージングセッションの講師である細川さんがやってきました。

 わたしたちが困っていることを伝えると、細川さんは「それじゃみんなに聞くけど、このテストは一体誰を納得させるためのテストなのかな? このシステムを使おう、取り入れようとしているのは誰なんだろう?」とヒントをくれました。このシステムをテストしてほしいと思っている「顧客」のイメージがつかめていなかったことが、成果物のイメージが見えない原因だったというわけです。

 細川さんの言葉をうけてわたしたちのグループは、このテストの「顧客」として、「システムを取り入れるサービス会社」を想定することに決めました。それをふまえて、テスト要件の優先度を考え、さらに個々のテストケースについても優先度と実施する理由を出して、表にまとめました。

 こうしてわたしたちのグループは、なんとか制限時間内に成果物を完成させることができました。そのあとはいよいよ成果発表……といきたいところですが、それは2日目のお楽しみということで、このセッションは終了しました。

 誰のためにテストをするのか、テストの「顧客」は誰なのか、それを意識することができたことは良い学びとなりました。また、「顧客」によって成果物の形をどうすればいいか、も考えることができました。

■ディナーセッション

 ワークの後はディナーセッションです。温泉に入ったあと、お酒と三浦海岸名物のマグロのお刺身に舌鼓です。

 毎回、ディナーセッションのときには参加者の申し込み時のコメントを紹介したり、豪華プレゼントが当たる抽選会があったりするのですが、今回はそれに加えて、今回のWACATEの運営の裏話も少し紹介されました。

 その内容は、申し込み開始日から締め切り日までの申し込み件数の推移だったのですが、なんと半数近くの参加者が締め切り当日の申し込み、さらにその大半が23時以降の駆け込み状態だったという、とんでもない話でした。

 これにはさすがの実行委員の皆さんも、たいそう胃の痛い思いをされたそうです。「今後は、申し込みには余裕をもってください。こんなところで境界値テストされると心臓に悪いのでやめてくださいね!」と、実行委員からお叱りを受けてしまいました。

 わたしもJaSST新潟の実行委員長をしているので、この申し込み状況に実行委員の皆さんがどれだけヤキモキしたかはよくわかります。もし同じことがJaSST新潟の申し込みで起こったらわたしは間違いなく発狂寸前です。今回、わたしも比較的申し込みが遅い方でしたが(さすがに締め切り当日ではないです)、これからは遅くなりすぎないように気をつけようと思いました。

■夜の分科会

 ディナーセッションのあとは夜の分科会です。テーマ別にグループに分かれて自由なスタイルで議論をします。

 実は今回、わたしは初めてセッションオーナーを担当することになりました。どうしても参加者と話し合ってみたいテーマがあり、参加申し込み時に「分科会でセッションオーナーをやりたい」とアイデアを提示したところ、わたしの持ち込んだテーマでセッションオーナーを任せてもらえることになりました。

わたしが考えたセッションタイトルは

「キャリアパスとかスキルアップとかじゃなく、それも含めてどう生きるかについて語ってみようか」

 ずいぶんと仰々しいタイトルですが、少し説明しましょう。

 前回のレポートで、ポジションペーパーに仕事と家事の両立についての悩みを書いた、とお伝えしましたが、ここ最近、毎日帰りが遅くなって、夕飯もまともに作れない日々が続いていたこともあり「夫に夕食も作れずに、わたし何やっているのかなあ」と悩んでいました。とはいえ夫は同業者ということもあり、わたしの仕事の大変さも理解してくれていますし、帰りが遅いことや夕飯を作れないことに対して不満を言うこともありません。それはありがたいと思う反面、自分自身がそういう生活に納得がいかず、ときに自分を責めてしまうこともありました。

 そんな折、オルタナティブ・ブログのブロガーである田中淳子さんが「『女性』であること」という記事を書かれているのを読みました。この記事の内容は、まさにそんなわたしの悩みをズバッと言い表したものでした。そして、田中さんの「バリキャリだけが働くことじゃない。『ふつう』に働いてもいいんだよ」というメッセージに少しだけ救われた思いがしました。

 とはいえ、この調子で仕事を続けるか、いっそのこと仕事を辞めて方向転換するか、すぐに決められるものでもありません。それならばいっそのこと、もっと境遇の近いWACATEの参加者の話も聞いてみたい、同じようなことで悩んでいる/悩んでいた人と話し合ってみたい、と思い、今回の分科会のセッションオーナーをやろうと思ったのです。

 最初に、わたしのグループに集まった参加者の皆さんにセッションのテーマと動機について説明をしました。

 説明が終わったところで、グループのメンバーのひとりがこんなことを語りました。「今の第3バイオリンさんの悩みは『仕事を続けるか、それとも辞めるか』の2択で、どちらも選べなくて迷っているわけだね。そういうときは、第3の選択肢を見つけると新しく道が開けることがある」この方は、趣味で少林寺拳法を30年近く習っていることもあり(以前「WACATE 2011 冬」の分科会でもお世話になったKさんです)、武道の話をふまえて説明を続けました。

「武道では『弱い力で強い力を制する』という考え方がある。普通に考えたらそんなことできるわけない、と思うかもしれないけど、武道ではそれが要求される。ではそれをどうやって実現するか、それが『第3の選択肢を見つける』ことなんだ。『A』か『not A』かしかない状態だと、どちらかしか実現できないけれど、そこに、どちらでもない『第3の選択肢』を追加すると、『A』と『not A』の両立できることがあるんだ」

 その話を聞いていた別のメンバーが口を開きました。

「わたしはまさにそれを実現している。わたしは好きなことをやる時間がほしくて、あえて正社員という働き方をやめた。好きなことをする時間とお金、両方を手に入れるために『正社員として働くか、仕事を辞めるか』ではなく、派遣社員として働く選択をした」

 なるほど、「第3の選択肢を見つける」というと、なんだかとても難しいことだと思っていましたが、「○○するべき」「○○でなければいけない」という固定観念を取り払うところが第一歩なのかもしれません。

 その人はさらに「WACATEとか勉強会に行くと、ものすごく活躍している人に会えるのは刺激になるけど、『自分もああいうふうにならなければいけない』と思いはじめるとしんどくなるから」と話しました。

 すると、その話を聞いたKさんがまた口を開きました。

「武道の世界には『見取り稽古』というものがある。これは、上手い人の姿や技を見るだけの稽古なんだ。上手い人を見るだけで自分も同じことができるようになるという稽古だけど、ただ見るだけじゃダメ。上手い人が何をしているか、技をかける瞬間に何が起こっているか、細かいところまで見ていないと効果がない」

 自分がやりたいこと、「ああなりたい」と思うことを細かくイメージすればできるようになるというのです。ただ、この「細かく」というのが難しいのです。武道でいうなら、手や足のみならず指一本にいたるまでの体の動かし方、心の持ちようまで、すべて言葉で説明できるレベルまで理解することなのです。人間は、自分が想像できるものにしかなれないのですから。

 その話を聞いて、以前、エンジニアライフの竹内 義晴さんのコラムで未来を具体的にイメージする、というエピソードがあったことを思い出しました。実はわたし、一度だけ竹内さんにお会いしたことがあり、そのときもやはり「イメージすることが未来を作る第一歩」というお話を伺いました。そのときは「イメージするだけで実現する? 本当に?」と半信半疑だったのですが(竹内さん、すみません)、この話を聞いて唐突に理解しました(「WACATE 2011 冬」の分科会のときと同じですね)。

 今回の分科会で、自分が悩んでいることについて真剣に話すことができたのはよい機会でした。WACATEに参加してからずっと、いつか分科会のセッションオーナーをやってみたいと思っていたのを実現することもできました。

 ただ、参加者からは「思っていた話と違った」「自分ももっと話したかった」という意見も挙がりました。そこはわたしのファシリテーションに問題があったと思います。もっと、参加者全員から話を引き出す方向にもっていければよかったです。とはいえ、自分が語りたいこと、第三者の意見を聞きたいことがあるなら、分科会のセッションオーナーになることがいちばんです。またいつか、今度はもっと違うテーマで分科会のセッションオーナーをやってみたいです。

◇ ◇ ◇

 「WACATE 2013 夏」参加レポート第2弾はここまでです。次回は、2日目の様子をお届けします。

Comment(2)

コメント

テストの顧客は誰なのか って、「もしも高校野球の女子マネージャがドラッカーのマネジメントを読んだら」を思い出させますね。顧客を意識することは目的をはっきりさせるためにやはり重要なんですね。

あと、少林寺拳法で悟りを開いてる人がいたのですね。私も昔やっていましたが、続けていれば良かったかな(^_^;)

第3バイオリン

abekkanさん

コメントありがとうございます。

>顧客を意識することは目的をはっきりさせるためにやはり重要なんですね。

ええ、開発でもテストでも、目的のない仕事、顧客のない仕事はないですからね。
社内だけで完結する仕事だったとしても、その仕事の成果物を受け取る人(上司だったり、同僚だったりの違いはあるものの)は必ず存在するわけですから。

>あと、少林寺拳法で悟りを開いてる人がいたのですね。私も昔やっていましたが、続けていれば良かったかな(^_^;)

Kさんはベテランのテストエンジニアで、これまでの仕事の経験だけでなく、少林寺拳法を通して気づく人の生き方、エンジニアのあり方についてよく語ってくれる方です。
Kさんのお話には、いつも眼から鱗が落ちるような気づきをいただいています。
(そのうち、私がそういう話を後輩にしてあげられるといいのですが)

ただ、Kさんも少林寺拳法の最終奥義である「宇宙と一体になる」については、まだ模索中だそうです。
「宇宙と一体になる」ということが、例えば身体や精神の状態がどのようになった状態なのか、まだ言葉で説明できる境地に達していないから、とのことです。

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