「WACATE 2012 冬」参加レポート(その3)――人生は短く、ドメインは長い
こんにちは、第3バイオリンです。
「WACATE 2012 冬」参加レポート第3弾です。今回は、2日目のモーニングセッション、ワークショップの様子をお届けします。
■モーニングセッション「『キャリアプラン』はじめの一歩」
NHN Japanの村上 くにおさんのセッションです。
村上さんは「皆さんは『エンジニア』ですか? エンジニアだとしたら、どんな『エンジニア』でしょうか。これからもずっと『エンジニア』でいたいですか?」と質問しました。
ここでいう「エンジニア」とはどういう人でしょうか。「エンジニア」であり続けるために大切なこととは何でしょうか。
村上さんは「エンジニアには大切なことが3つあります」と切り出しました。
- 好きな技術を探そう!
- 世の中を変えよう!
- 幸せになろう!
まずは「好きな技術を探そう!」についてです。昔から「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、「好き」ということは、技術や技能を高めるために必要なことです。なぜなら、好きなことというのは24時間、毎日でも考えることができるからです。好きなことを見つけることは、スキルアップのためにとても重要なことなのです。
次に「世の中を変えよう!」についてです。エンジニアリングという言葉には広い意味がありますが、そのうちのひとつが「社会のために有用な事物、快適な環境を構築することを目的とする学問」です。エンジニアリングを実践する者こそが「エンジニア」と呼ばれるのです。つまり、エンジニアには自分の手で世の中を変える力がある、ということです。
最後の「幸せになろう!」についてです。これは禅僧の言葉にあるらしいのですが、人間の究極の幸せは「人に愛されること」「人に褒められること」「人の役に立つこと」「人に必要とされること」の4つだと言われています。仕事をすることで、人の役に立つことができます。人の役に立つことができれば、褒められ、必要とされる人間になることができます。つまり、仕事をすることで究極の幸せの要素4つのうち、3つも実現することができるのです。
ここまで話したところで、村上さんはこのセッションの本題である「キャリアプラン」について語り始めました。
キャリアプランの目安のひとつが「スキル標準」です。エンジニアのスキル標準といえば、ITスキル標準(ITSS)、組込みスキル標準(ETSS)、情報システムユーザースキル標準(UISS)がまず挙げられます。
しかし、スキル標準はあくまでも目安でしかありません。会社の役職がスキル標準にのっとって設定されているところもあれば、そうでないところもあります。社内の標準が、社外でも通用するとは限らないのです。
さて、「エンジニア」の次は、一体何を目指せばいいのでしょうか。村上さんは、エンジニアの次のステップとして、次の4つを挙げました。
- マネージャ
- スペシャリスト
- コンサルタント
- 生涯エンジニア
会社に所属している人だと、たいていの場合マネージャになることが多いと思います。自身もQA室長というマネージャ職につく村上さん、マネージャが管理するものは「人」「物」「金」そして「時間」であること、どの職種でも対費用効果(ROI)が問われることを説明しました。
最後に村上さんは「人生は意外と短いです。年を取るごとに、1年がどんどん短くなっていきます。だから人の足を引っ張る暇があったら勉強したほうがずっといいです。社会人の勉強には『答え』がありません。だから難しいけれど、楽しいのです。技術力さえあれば何でも好きなことができるし、ひとつの組織で一番になるだけではもったいなくなります。社会人だからこそ、勉強をしましょう。人生の答えはひとりひとり違います。どんなエンジニアになりたいか、エンジニアの次に何になりたいか、よく考えて悔いの無いエンジニアライフを送ってください」と締めくくりました。
1日目のポジションペーパーセッション、夜の分科会でわたしはまさに「今後のキャリアについて」の疑問をぶつけたわけですが、村上さんのセッションを聞いて、ほんの少しだけ道が見えた気がしました。特に「人生は短い」という一言が印象に残りました。将来のことは、考えるとキリがないし、すでに自分の道を見つけている人を見るとうらやましいと思う気持ちもあります。しかし、こうしてグダグダ悩んだり、人をうらやんだりする暇があったら勉強したほうがいいのかも、とも思いました。
■ワークショップ「テスト分析はじめの一歩」
WACATE実行委員会の上條 飛鳥さんのセッションです。
上條さんは、いきなり「この文章をどう読むか、答えて下さい」とある文章を出しました。読者の皆さんも、一緒に考えてみてください。
「男の娘と結婚する」
さあ、どう読みましたか。おそらく、たいていの人は次に挙げるふたつのうちのどちらかが頭に浮かんだことと思います。
- おとこのむすめとけっこんする
- おとこのことけっこんする
どちらが正しいか、というのはとりあえず置いておくとして、なぜこのような読み違いが発生するのでしょうか。
上條さんは、このような読み違いが発生する原因として、以下の要因を挙げました。
- ドメインが違う(そもそも、「男の娘(おとこのこ)」というワードを知らない人が2を選択することはありえません)
- 余計な情報がある(先入観など)
- 同じ言葉を違う意味で使う(上の場合は「娘」という言葉)
- 同じ意味を違う表現で記述する
- 具体的な内容がわかりにくい
- 文章が長過ぎる
こういう、文章の読み違いからくる誤解は、わたしたちの周りにもよくあることではないでしょうか。
ここで上條さんは、このセッションの本題を説明しました。テストの担当者に選ばれて最初にすることは何かというと「仕様書を読む」と答える人が大半だと思います。前回のテストケースがあるならそれを流用すれば、という考えもありますが、何も考えずにそのまま流用するだけでは漏れや重複が出てきて非効率的です。仕様書や資料を読み込み、どのようなテストをするかよく考えることが大切です。しかし、ただ読むだけでは先に述べた「読み違い」の罠にはまってしまう恐れがあります。つまり、「どう読むか」が大切なのです。
仕様書をどう読むかを学ぶために、3色ボールペン法を使ったワークショップが始まりました。
3色ボールペン法とは、赤、青、緑の3色ボールペンの色を以下のように使い分けながら資料に書き込みを行い、内容を理解しながら整理する方法です。
赤:すごく大事
青:まあ大事
緑:主観的に見て気になる
仕様書として、架空のアプリ「ついでに買ってきてスマホ版」の仕様書が配布されました。サーバに登録をしたメンバーが外出先や外出日などを登録すると、「そこに行くならついでに買ってきて」と買ってきてほしいもののリクエストやメッセージなどを送ることができて、なぜかアフィリエイトやアバター、ガチャといった今どき感満載の機能までついているというアプリです。
まずは個人で3色ボールペン片手に仕様書を読み込み、しばらくしてグループで意見をまとめることになりました。
途中で「グループの中で常連の名札を付けている人1名、手を挙げてください。その人は隣のグループに移動して、自分のグループの気づきを隣のグループに発表してください」というアナウンスがありました。わたしのグループではわたしが手を挙げて、隣のグループに写りました。隣のグループに移動して発表し、そこのグループの話も聞いて……を繰り返して1周し、元のグループに戻ってきたところでグループごとに成果を発表、となりました。
自分のグループの中で他のメンバーと話し、また各グループを回って参加者全員の観点を見せていただいたわけですが、やはり誰でも自分が扱っているドメイン(テスト対象)に関わるところは多くの指摘を出すことができます。
たとえば組込み系の人は、状態遷移図を描いて画面や内部状態の遷移を確認している人が多かったのに対して、Web系の人はパフォーマンスやネットワークに関わるところを注意して見ている人が多くいました。またソーシャルゲームの開発に携わっている人は、アフィリエイトやガチャといった、ユーザーとお金のやり取りが発生する部分についてかなり深く突っ込んでいました。
また、3色ボールペンの使い方も人によって異なることがわかりました。わたしは気になったワードに3色それぞれで下線を引いて、注意書きを添えるような書き方をしていましたが、同じグループには緑しか使わなかった人、仕様書の本文中には書き込まずに周りの余白に書き込みを行っていた人もいました。
ドメインが異なれば観点も異なります。自分の中にできるだけいろいろなドメインの観点を持てたらいいのですが、世の中には無数のドメインが存在し、そのすべてに携わるには人生はあまりに短すぎます。
今回、「WACATE 2011 夏」のモーニングセッションを担当された、細川 宣啓さんがいらっしゃっていました。細川さんと昼休み中に少しお話したのですが、「ワークで見た他の人の観点を、自分の現場にどう応用するかを考えてみるといいよ」とアドバイスをいただきました。
ひとりで世の中にあるすべてのドメインをカバーすることは不可能です。他の人のドメインのお話を聞いて、少しでも考え方を取り入れる。これこそ、いろいろな人が集まるWACATEのワークショップの醍醐味だなと思いました。
今回のレポートは以上です。次回は2日目のクロージングセッションの様子と、今回のWACATEで得た気付きをお届けします