テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

ピアニストは暗譜が必須、エンジニアは?

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 先日、オルタナティブ・ブログのブロガーである永井千佳さんが「暗譜しないことで舞台に消しゴムを投げつけられる」という、面白い記事を書かれていました。永井さんはプロのピアニストで、ボイストレーニングやアマチュア合唱団の指導もされている方です。音楽好きのわたしは、永井さんの音楽とビジネスをつなげるお話が大好きで、ブログを毎日欠かさず読んでいます。

 今回は、永井さんのこの記事を読んで、ピアニストが暗譜をする意味と、エンジニアにとっての「暗譜」とは何か、暗譜をすることでどのようなメリットがあるのか、私なりに考えたことを書いてみたいと思います。

■なぜピアニストは暗譜をするのか

 永井さんの記事のタイトルだけを見ると「暗譜しないだけで消しゴムを投げつけられるなんて、ずいぶん穏やかではないな」と思われる方もいるかもしれません。

 この記事の内容を簡単に説明すると、「ピアニストは暗譜が基本。暗譜をする、つまり体で音楽を覚えてしまうことで、豊かなイマジネーションを広げることができる」ということでした。暗譜が基本、といいましたが、近頃では譜面を見ながら演奏するピアニストもいます。しかし、まだまだ演奏会やコンクール、音大の試験などでは暗譜での演奏が一般的なのだそうです。

 ちなみにブログでは、ピアノの試験でわざと譜面を持ち込んだ生徒に対して、激怒した先生が消しゴムを投げつけた、というすさまじいエピソードまで紹介されていました。

 余談ですが、オーケストラの指揮者もほとんどの人が暗譜で振っています。もちろん、譜面を見ながら振る指揮者もいますが、イマジネーションを広げるのはもちろん、オーケストラ全体を見渡すためには暗譜のほうがやりやすい、というのはあるかもしれません。

■これをエンジニアに例えると

 ところで、エンジニアはどうでしょうか。普段、自分が使っているプログラミング言語の文法やAPI、テスト対象となる製品やシステムの仕様をすべて覚えている、という方はどれだけいらっしゃるのでしょうか。

 「別に細かいところまで覚えなくても、わからないことがあればそのつどリファレンスや仕様書を読んだり、ググったりすればいいじゃないか」という意見もあると思います。たしかに、それでもたいていのことはどうにかなると思います。しかし、ちょっとしたことを調べるために、たとえば5分に一度、プログラミングを中断してリファレンスを開く、というのはどうでしょうか。仕事をしていれば、これはどうしても調べないと先に進めない、ということはあると思います。しかし、ちょっとした調べものを何度も繰り返し、そのたびに手が止まる、頭まで止まるというのはあまりに非効率的です。

 また、ググるというのもいいですが、途中で気になるサイトを見つけてしまってついつい読んでしまう、というリスクもあります(もちろん、たまには息抜きも必要ですが)。

 手を止めない、さらに思考を止めないために、ある程度のことは暗記しておいて、何も見ないでもわかるようにしておくというのは大事なことだと思います。やはり、エンジニアにも「暗譜」は必要です。

■やっぱり、全部覚える必要なんてない?

 とはいえ、プログラミング言語の文法やシステムの仕様と、音楽の譜面はまったく別物です。覚えるべき情報量が違います。それに、複数のプログラミング言語を扱っている人が、すべての言語の文法やAPIを覚えるというのはさすがに無理があります。

 それもあるのか、最近のIDEには、APIを途中まで入力すると残りを自動的に補完してくれたり、ドロップダウンリストで候補のAPIを表示してくれたり、といった役立つ機能が備わっています。

 こうしたツールを有効活用することで、覚える負担は少しずつ減っているのではないかと思います。

■要は「暗譜するくらいの心づもりでいろ」ということ

 今までピアニストや指揮者のことを話してみましたが「じゃあ、オーケストラの団員はどうなんだ? 譜面を見ながら演奏しているじゃないか、お前だってそうだろう?」と思われた方もいらっしゃると思います。

 ええ、わたし自身、たしかに演奏中には譜面を見ています。しかし、譜面にかじりついてばかりで周りを見る余裕がまったくないと、指揮者の指示が見えなくなったり、パート内、また近くのパート同士で合わせることができなくなったりしてしまいます。

 弓の動かし方、左手の指の動かし方といった演奏技術以上のプラスアルファを音楽に持たせるには、やはり暗譜できるところは暗譜してしまわないと厳しいです。

 とはいえ、暗譜しても目の前の、すぐ見られるところに譜面がないとものすごく不安になることもまた事実です。何となくですが、譜面があることで安心できる、いわば「お守り」みたいに思うことがあります。

 エンジニアも、今すぐにすべてを頭に入れてしまう必要はないと思います。すぐ見られるところにリファレンスを置いて、ツールに頼れるところは頼ってしまっていいのです。しかし、暗譜するつもりで覚えられることはなるべく覚えてしまうつもりでいることは、自由に動けるようになるために必要なことかもしれません。たとえ消しゴムを投げつけられることはなくても。

Comment(2)

コメント

けーさん

はじめまして。ひとつ意見を述べさせてください

一般的なエンジニアにも「暗譜能力」は必要だと思います。
ただし、APIやフレームワークの仕様などは「どういうものがあるか」を覚えておけば、暗記の必要はないと思います。(限界付近まで使うのでなければ・・・)

演奏家は「どういう風に弾くか」をイメージしつつ暗譜すると思います。
エンジニアも「どういうものを作るか」をイメージしつつ作る能力というのが重要なのではないでしょうか?
なので、「作りたいものの仕様を暗譜する能力」は演奏家に劣らず必要だと思います。

すでに酔っ払っているため、乱文でごめんなさい

第3バイオリン

けーさんさん

コメントありがとうございます。

>ただし、APIやフレームワークの仕様などは「どういうものがあるか」を覚えておけば、暗記の必要はないと思います。(限界付近まで使うのでなければ・・・)

ええ、確かにすべてを覚えるのは大変です。
ですからまずは「どういうものがあるか」「わからないことがあれば何を見ればいいか」さえおさえておけば、たいていのことはどうにかなります。

>演奏家は「どういう風に弾くか」をイメージしつつ暗譜すると思います。
>エンジニアも「どういうものを作るか」をイメージしつつ作る能力というのが重要なのではないでしょうか?
>なので、「作りたいものの仕様を暗譜する能力」は演奏家に劣らず必要だと思います。

それはまさにそのとおりだと思います。
自分が作りたいものがハッキリ見えてないと、何をどうやって覚えるかわからなくなってしまいます。
何より「作りたい」という気持ちは暗譜するための大きなモチベーションになります。それがなければ、暗譜するという行為はただの苦行にしかならないでしょう。

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