テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

ソフトウェアテストシンポジウム「JaSST'13 Niigata」開催レポート(その3)――もう一度、ずっと 大好き!にいがた

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 ソフトウェアテストシンポジウム「JaSST’13 Niigata」レポート、いよいよ最終回です。今回は、地元新潟のコミュニティの発表の様子をお届けします。

■新潟ソフトウェア開発勉強会「すわにい」の活動 〜話題沸騰ポットのテスト設計〜

 新潟ソフトウェア開発勉強会(すわにい)の齋藤達也さんのセッションです。

 すわにいは、新潟でJaSST初開催となった「JaSST’13 Niigata」の参加者が中心となって発足したコミュニティです。月に一度ほど集まって、ソフトウェアテストを中心とした勉強会を開催しています(過去の活動内容や今後の予定については、すわにいのサイトをご覧ください)。

 最初に、齋藤さんから今回の発表について説明がありました。

 きっかけは、去年の「JaSST'12 Tokyo」で開催されたテスト設計コンテストでした。そのとき、「新潟からも参加したい!」と思っていたのですが、十分な準備ができなかったことから泣く泣く参加を見送った、という経緯がありました。しかし、翌年のテスト設計コンテストの前に、なんとかテスト設計を形にしたいと思ったこと、ちょうどその折に、わたしのほうから「JaSST'13 Niigata」ですわにいの活動について発表しませんか」と声をかけたことがきっかけで、今回の発表が実現しました。

 なお、サブタイトルの「話題沸騰ポット」は、組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)から教材として発行されている「話題沸騰ポット GOMA-1015型 要求仕様書
」にちなんでいます。これまでJaSSTで開催されたテスト設計コンテストでお題として取り上げられています(SESSAMEのサイトからダウンロードできます)。

 さて、齋藤さんたちは、すわにいならではのアプローチとしてまず「利用者の安全」をキーワードに掲げました。ポットは一般の人の生活の中で使われるものです。そのため、どんな人が使うか分からない、また思わぬ使われ方をすることがありうる、ということが考えられます。そのため、さまざまな利用者の使い方を想定し、危険につながる漏れを見つけることにしました。

 そこで齋藤さんたちは、まず要求仕様書を見ずに、ポットの取り扱い説明書から見ることにしました。作り手の「ユーザーはこう使うだろう」という思い込みを排除し、一般的な使用フローを考えるためです。例えば、ポットに水を入れるとき、ポットを流しに置いて、または取っ手をつかんで持ち上げたまま蛇口から直接水を入れるという人がいると思います。しかし、某社のポットの説明書には「ポットに水を入れるときは別の容器に入れて移してください」と書いてあるそうです。つまり、ポットに水を入れるというごく基本的な動作だけで、作り手の想定を越えることもある、ということです。

 また、不特定多数の利用者がいる状態ではアプローチが困難になるので、さまざまな利用者を具体的にあぶり出し、利用者をモデル化した「アバター」を作成することにしました。利用者の年齢や性格などを具体化することで、使い方を想定しやすくしようとしたのです。

 アバターを作成するときは、「Who(年齢、性格など)」「Where(使われる場所)」「Why(目的)」に着目して、メンバーでブレインストーミングを行いました。ときには「Why」を考えているときに「アロマオイルを入れる」「中で金魚を飼う」などといったおもしろネタが登場することもありましたがそこはご愛嬌、どんどんアイデアを出してアバターのリストを作成しました。

 そうして作成したアバターと、取り扱い説明書を見て作成した一般的な使用フローを照らし合わせて、各アバターの使用フローを作成しました。それを要求仕様書にフィードバックし、要求仕様書だけでは気がつかないポットの使い方と、そのときの動作の不明点を洗い出すことができました。すわにいのアプローチで、要求仕様書の漏れを見つけることができることが証明されたのです。

 アバターリストと各アバターの使用フローをもとに、いよいよ設計です。使用フローから利用者の安全に関するポイントを洗い出し、それを「利用者にとっての具体的な現象」→「現象が利用者に与える具体的な影響」→「影響を利用者にあたえる具体的なポットの部位」の順番に分解してからテストケースにまで落とし込むという方法をとりました。その結果、利用者が安全に扱えるポットであることを確認するテストを設計することができました。同時に、要求仕様書の作成者に対して確認すべき動作の観点や機能設計への要求も発見することができました。

 発表のおわりに齋藤さんは、テスト設計を含めたすわにいの活動について「コミュニティで勉強会をすると、他社の人とも共感できること、わかることを見つけることができます。そのときに、自分の会社にいるだけでは気がつけないことにも気がつくことができるのです。それが楽しみでもあり、仕事の息抜きにもなります。今日の発表を聞いて、すわにいの活動に興味を持たれた方、参加したいと思った方はいつでもご連絡ください」と語って締めくくりました。

 発表後、登壇者の鈴木さんから、「コンテストの資料がわかりにくいと、審査員の判定は非常に厳しくなります。『うまくできているはず』と思っていても、第三者である審査員から見るといまひとつだったりすることもあります。これは、会社の仕事でも同じことです」というアドバイスがありました。

 わたしもすわにいの立ち上げに携わったのですが、わずか2年でJaSSTで発表できるほどの成果を出せるまでに成長したことは驚きでもあり、嬉しくもありました。新潟を離れるとき、わたしが離れたあとにもっと盛り上がれば面白いだろうなあ、と思ったことが現実になったのです。以前コラムに「新潟のためになることを何かしたい」と書きましたが、やっと少しだけ、何かできたのかもしれないと思いました。

 しかし、すわにいの活躍はまだまだこれからです。今年こそはテスト設計コンテストに、すわにいの皆さんが参加するところを見たいです。

 なお、すわにいは参加者を随時募集しているとのことなので、興味のある方はサイトに掲載されているメールアドレスにお問い合わせください。

■わたしのことは嫌いになっても、JaSST新潟のことは嫌いにならないでください!?

 クロージングセッションで、わたしはこれまでのセッションの感想をまじえながら、締めの挨拶をしました。

 最後に「『わたしのことは嫌いになっても、JaSST新潟のことは嫌いにならないでください!』なんていうと、どこかの芸人さんみたいだから止めますが(笑)、これからもJaSST新潟を、ソフトウェアテストを愛してください」と語って締めくくりました。

 2011年、2012年と、毎回締めの挨拶で泣きが入るのがお決まりのパターンでしたが、今回は泣きませんでした(ちょっと危なかったですが)。

■情報交換会

 本会の終了後は、場所を移動して情報交換会です。

 お菓子をつまみながら、参加者の皆さん、登壇者の皆さんが交流を深めていました。なかには、演習で作成したマインドマップを見せ合いながらさらに議論をしている人たちもいました。

 この情報交換会では、去年と同じくLT大会を企画していました。参加者にもLTへのエントリーを呼びかけていたのですが、残念ながら参加希望者はゼロでした。そのため、急遽、実行委員のメンバーでLTをしたり、スポンサーさんにセッションをお願いしたりすることになりました。急なお願いに対応してくださったスポンサーさんと実行委員のメンバーに感謝いたします。

◇ ◇ ◇

 「JaSST'13 Niigata」開催レポートはこれでおしまいです。最後まで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。

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