外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

第9話:“会議がうまく機能しない!~ミーティングのキホン~”の巻(下)

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 新任リーダー明日香のグループでは、このところ、毎週月曜の定例ミーティングがどうもうまく行かない。今週など、リーダーの明日香自身が、参加を渋るメンバーを呼びに行く始末だった。明日香のモヤモヤした思いは、強まるばかり。
 でも今夜は、久しぶりに同期の真紀子と、話題のレストランで一緒に食事をする約束をしている。仕事を早めに切り上げた明日香は、表通りから奥まった一角にある、こざっぱりとした店に向かった。

 同期入社で同じ課に配属された明日香と真紀子は、いつ会っても話が尽きることがない。メニューに額を寄せて注文する料理を決めてから、デザートの皿が空っぽになるまで、時間はあっという間に過ぎた。白いティーカップに注がれた紅茶の鮮やかな色に明日香が見入っていると、真紀子がやっと会社の話題を持ち出した。

真紀子「明日香がリーダーになって、もうすぐ1年ね」

明日香「もう1年経つのね! びっくり」

 店内の照明は適度に暗く、隣のテーブルとも、ほど良い距離が保たれている。各テーブルの会話の低いさざめきが心地よい。真紀子に相談したかったことを、明日香は切り出した。

明日香「そういえば最近、定例ミーティングがどうもうまく行かないの……」

真紀子「うまく行かないって、どういうこと?」

明日香「どうもみんな、ミーティングに来たがらないの。差し迫った資料提出がある、とか何かしら理由をつけては遅れてきたり、結局来なかったり。それに発言も少なくて、早く終わらせたいとみんな思っているみたいなのに、かえって時間もかかってしまうし。
 真紀子のグループはどんな感じ?」

真紀子「そうねぇ。私にとっての定例ミーティングは、週の幕開け。エネルギーが溢れているメンバーたちと活発にコミュニケーションできる、とっても楽しみな時間」

明日香「楽しみな時間?」

真紀子「そうよ。楽しみにしているのは私だけじゃないと思う。ミーティングが終わるとき、みんな晴ればれした顔をしているし。
 うちのグループは、個々に違うユーザー部門を担当しているでしょ。お互いの様子も分かりづらいし、一人で色々な問題に取り組まなくちゃならない時間が長くなりがちなの。そんな中で、定例ミーティングは、グループとして情報やマインドを共有するとても大事な時間だと私は思う。だから、短い時間でも最大限に活用したくて、事前に準備もするし、心掛けていることもあるわ」

明日香「毎週、グループ内の定例ミーティングのために、いちいち準備をしているの?」

真紀子「たいしたことはしていないわ。一応、前の週の金曜午後に、次回の打ち合わせリストと時間配分を、短いメールでメンバー全員に送っているだけ。特に重要な打ち合わせ資料があれば、そのメールに添付するわ。参加できない人がいれば返信して来るから、事前に把握できるし。もし、必要な顔ぶれが揃わないと分かれば、必要に応じて対応を調整すればいい
 特定のメンバーに負担がかかっている時、『今週の進捗報告は特に○○さんに重点的にお願いする予定』と事前に周知することもある。そうすると、余裕のあるメンバーが自分の持ち時間を削ってくれて、みんなで相談に乗ったりする展開になることもある。
 いろいろな意見が出ると、特に書記を決めていなくても、誰かがさっとホワイト・ボードにまとめて図示してくれるし」

明日香「ミーティングの時間がそのまま、仕事に生きている感じね。素晴らしい。うちのグループは、前週とほとんど同じ報告内容をきちょうめんに毎回繰り返したり、マンネリ感があるなぁ……特にベテランには、退屈な時間かもしれない。
 そもそも、打ち合わせる項目を、ミーティングの開始時に私が口頭で伝えていること自体、遅いのかな」

真紀子「小さなことでも、いきなり意見を求められたら、日頃から問題意識のある人はともかく、すぐに発言するのは難しくない? みんながその場で考えながら討議するより、事前に多少なりとも考えてくれば、かかる時間も議論の質も変わる思うわ」

明日香「たしかにそうね。うちのグループには、頼りになるベテランが一人いて、何が議題になってもその人はかなりちゃんと意見を言ってくれるの。逆にいえば、他のみんなは、準備もせずにその人に任せてしまう傾向があるかも。最近、みんながその人の発言を待つみたいになってきちゃって」

真紀子「その当人だって、自分が言わないと何も進まない、というのは気が重いんじゃないかしら。自分に自信がある人ほど、ミーティングが魅力的な議論の場でないと、あえて時間を取って参加する気になれないと思う。本当は、一人では考えつかないようなアイディアが、みんなとの議論の中でひらめくことって多いんだけどね
 何か良い考えがまとまった時や、何らかのアクションを必要とする結論が出た時は、最後に口頭みんなに確認して共有することも、忘れないようにしているの。場合によっては、その日のうちにごく簡単なメモにして全員にメールする。必要なアクションを取ってこそ、会議の成果がグループの成長につながると思うから」

明日香「その日のうちに?! そこまでしているのね」

真紀子「といっても、本当に短いメールよ。その日に出せば、みんなの記憶も思いも鮮明だし、結局は時間も手間も少なくて済むわ。
 それから、いつも黙っている人が実は良い意見を持っていて、ただ言い出せないことも結構あるのよね。そういう人が発言しやすいように水を向けたりするのも、私の役目だと思って、みんなの発言のバランスに気を付けている

 そういえば……と明日香は、先日の月曜を振り返りながら、真紀子に話した。あの日、討議の後半だけは結構盛り上がった。例によってサイゴウがとうとうと意見を述べていると、無口なサクラジマが珍しく口をはさんだ。サイゴウの主張を、サクラジマなりにどう理解したか自分の言葉でまとめて確認したかったようだ。ところが、その短い発言が本質を見事に言い当てたひと言だった。すると急に何だか、みんな活発に発言し始めて、久しぶりに良い雰囲気になった。気が付いたら予定時間を20分もオーバーしていたのだった。

明日香「議論が活発になることはあるのよね。そうなると今度は、私も夢中になっちゃって時間がオーバーしちゃうの」

真紀子「だからこそ、会議を運営する側にとって時間管理は最も基本的な大事なことじゃない? 始まりにきちっと全員がそろって、予定の時間までに必ず終わる、と分かっていれば、次の予定が迫っていても安心して参加できるわ。もし、一度顔を出したら最後、終わるまで抜けられない、となると、つい予防線を張って欠席したくなるでしょう。終わりの時間をみんなで確認してから会議を始めることが第一歩かな」

 ティーカップに残っていた紅茶を飲んでから、真紀子が付け加えた。

真紀子「各人の報告の中で、誰かがつい弱音を漏らすことがあるの。でも、みんなに話すだけでも気が楽になる。お互い意外と似たような苦労を経験しているから、思いがけないヒントをもらえる場合もある。何かとよく気づくメンバーが、私は見落としていたトラブルの芽を感じ取って、そっと教えてくれたこともあった。
 私はもちろん、グループ全員にとって、ミーティングは、短いけれどかけがえのない貴重な時間になっていると思う」

 真紀子は、生き生きと話している。運用部門では社内初の女性リーダーとして注目され、男女を問わず後輩の憧れの的でもある真紀子。入社当時は負けん気が強く完璧主義で近寄りがたい雰囲気もあった彼女だが、このごろ次第に人望を集めている。その理由が、明日香にもよく分かった。来週の準備をして、ミーティング中も気を配って……明日香の意識も、次の月曜に向かっていた。

会議を活用し効率的に進めるための工夫をしていますか?(下)
□グループ内の情報共有やオープン・コミュニケーションの風土を醸成するために会議が活用できていますか?
□会議の制限時間は設定していますか?
□討議では特定の人の意見に偏らないように進行を工夫していますか?
□会議において、情報がお互いにしっかりと伝わったことは確認していますか?
□会議における情報共有のためにホワイト・ボードに図示するなど、議論の見える化を行っていますか?
□会議の成果を共有し、行動計画を立ててチーム力のステップアップへとつなげることを参加者全員が意識していますか?

原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 樋口敦子 (文:吉川ともみ)

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