外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

第13話:苦手なメンバーをどうしよう?!“~コミュニケーションを阻害する要因~の巻(下)

»

 昼休みのカフェテリア。新任リーダー明日香と、同期で運用部門のリーダーをしている真紀子は、窓際のテーブルで向かい合って食事をしていた。隣のテーブルからは楽しそうな会話が聞こえてくる。

 しかし明日香は、サイゴウとの一連のやりとりが頭から離れない。箸も休みがちになり、思わずため息が漏れる。

真紀子「明日香らしくないわね。いつもはゴハンさえあればご機嫌なのに。何かあった?」

 明日香は、周囲を気にしつつも、低い声で昨日の面談と今朝の様子を、真紀子に伝えた。真紀子は、じっと聞いていた。

真紀子「相手がエキサイトしても、冷静に対処できたのは良かったわ。だけど、……明日香は、普段からその人に仕事を頼みにくいんじゃない? 苦手なんでしょう」

 図星である。明日香はため息をついてから、言った。

明日香「そうかもしれない……。私がリーダーになる前、グループのメンバー同士だったときは、こうじゃなかったんだけど……。リーダーになってからは、どうも言い返されたり断られたりすることが多くて。つい、敬遠しているかも。どうしても必要な時だけ、思い切って勇気をふり絞って話している感じ」

真紀子「そうだと思った。リーダーになりたての頃、私にも苦手だったメンバーがいたの。だけど、趣味の話を聞いたりしていたら、だんだんと打ち解けてきたのよ。今では気軽に仕事を頼める、頼もしいメンバーになっているわ。明日香は多分、その人にネガティブな先入観をもっているのだと思う」

 明日香はハッとして、真紀子の顔を見た。

真紀子「私がかつてそうだったから、良くわかるの。良くない先入観があると、どんどん悪い方に解釈してしまのよね。でも、思い切って事実を確かめてみると、私の思い違いだったことが結構あったのよ」

明日香「……どうしたらいいのかな」

真紀子「一度その先入観を頭から消し去って、事実を確認するといいわよ。今朝あいさつしなかったことだって、もし他のメンバーだったら『さっきあいさつしたけど、気づかなかった?』とか、聞けるでしょ? その人にも、直接聞いてみたらいいんじゃない? 当人の口から聞いて事実を確認することが大事よ。そして、事実だけを、ありのままに受け入れてみたら? ウツウツと1人で悩んでいるのは、明日香らしくないわよ!」

明日香「そうね。他のメンバーが相手だったら、間違いなく、深く考え込む前に本人に聞くだろうな。サイゴウさんを相手にする時だけ、私、どうかしているのかも」

真紀子苦手意識のせいよ。先入観を離れて接すれば、意外とアッサリ解決するものよ」

 話を聞いてもらって、明日香は少し元気が出た。

 その日の夕方、外出していたサイゴウが、コートの襟を立て、肩をすくめながら帰社した。

サイゴウ「ただいま戻りました! あー、寒かった!!」

 明日香は、何気なさを装いながら立ちあがり、努めて笑顔で話しかけた。

明日香「おかえりなさい! この寒さだから、外回りは大変ですよね!」

サイゴウ「そうですよ! でも今朝に比べれば、今のほうがまだマシ」

明日香「今日は、昨日よりは気温も上がったようだし」

サイゴウ「あ、気温じゃなくて、僕自身のこと。実は昨日、飲み過ぎて家に帰ったら、コンタクトレンズをどこかになくしちゃって。買い置きのレンズも切らしていて、今朝は視力0.1の状態で、やっとのことで会社に来たんです。さっき、帰社途中でレンズを手に入れたので、バッチリ見える~」

 サイゴウは、おおげさにあたりをぐるぐる見回した。そして、目がよく見えないと階段を昇るよりも降りる方が怖い、などとペラペラ話し続けた。そのうち、昨夜のカラオケ騒ぎの事情も、あっけなく判明した。サイゴウがとても楽しみにしていた仲間内の飲み会が急にキャンセルになり、たまたま『そこにいた』イサハヤを誘っただけらしい。

サイゴウ「イサハヤくんが、ノリが良くてねぇ。マラカスやタンバリンで思いきり盛り上げてくれて、つい歌い続けちゃって」

 サイゴウはあっけらかんと楽しそうに話し、イサハヤも周りのメンバーも、下を向いて苦笑している。

 明日香は、胸のつかえが一気に取れた気がした。

 (サイゴウさんがコンタクトだったなんて、びっくり! 意外と外見にも気を遣っているのかな。それにしても、やっぱり、真紀子の言うように、事実を確認するのが大事だわ。今回も、たわいない理由だったのにもしわからなかったら、きっと悪い方に考え続けていた

 苦手な相手だという意識があると、どうしても先入観にとらわれてしまう。リーダーたるもの、先入観から離れてメンバーを見る心がけが必要、ということだわ。

 サイゴウさんは話を聞いてもらうのが好きみたい。今度から、もうちょっと話しかけてみようっと)

 サイゴウの独壇場は、まだ続いていた。若いメンバーは、仕事の手を止めて顔を上げ、一緒になって笑っている。明日香も笑っていた。そのとき、ふと、尊敬する今屋部長が『僕には苦手な人がいないんだよ』と言っていたことを思い出した。

 (私も、苦手な人はいない、と言えるようになりたいな)

 この頃、ずっと前に聞いた今屋部長の言葉の意味が、急に「分かった!」と感じることがある明日香だった。

メンバーとのコミュニケーションを阻害する要因に気づいていますか(下)

□思い込みで悪い方向に考えてしまっていませんか?

□自分がなぜそう考えたか、思考の経緯を振り返ることができますか?

□事実を確認していますか?

□先入観から離れて客観的にメンバーを見ることができますか?

~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 津山元子 (文:津山元子&吉川ともみ)

Comment(0)