第12話:“グループ内のトラブルにどう立ち向かう?~メンバー間の確執”の巻(中)
明日香のグループのサイゴウとハヤブサの2人は、ある他部門プロジェクトのサポートをしている。このところどうもハヤブサの様子がおかしく、明日香は注意して見守っていた。そしてついに、ハヤブサが明日香のところに相談にきた。明日香はハヤブサを伴って別室に行った。
ハヤブサ「じつはおととい、例のプロジェクトのリーダーのオオムラさんから、2件のサポート依頼を受けたんです。オオムラさんのプレゼンの一部を分担する仕事と、もう1つは組み込みがうまくいっていない機能のトラブルシュートで……」
しかし、その後のハヤブサの話はめずらしく要領を得ず、一体何が問題で何を相談しに来たのかよく分からなかった。明日香が質問をしても奥歯に物がはさまったような受け答えをするばかりだった。明日香は、思い切って一歩踏み込んでみることにした。
明日香「ところで、ハヤブサさんとしては、どちらの仕事をしたいと思っているの?」
するとハヤブサは、思い詰めたような表情で明日香を見た。明日香はもう一度たずねた。
明日香「ハヤブサさんの率直な気持ちを教えて。どちらの仕事をしたいと思う?」
ハヤブサは、意を決したように話し始めた。
ハヤブサ「僕としては、今回はプレゼンテーションをやりたいです。このプロジェクトに入って以来、トラブルシュートはずっと僕だけで行ってきました。仕事の割り振りは全部、サイゴウさんがやっているんです。役員向けのデモのサポートやフェアでのプレゼンのような仕事はサイゴウさん、裏方のトラブルシュートや地道なテストデータ作りなどはずっと僕です」
明日香「いつもそういう分担だったの?」
ハヤブサ「そうです。サイゴウさんは、今回の2件の話はまだ知らないと思います。伝えたらきっと『今度のプレゼンも自分が担当する』と言うと思います」
明日香「それで、今回の依頼についてはまだサイゴウさんに伝えていないのね」
ハヤブサ「はい」
(仕事の割り振りの不公平感が、2人の間の確執と関係がありそうね。ハヤブサさんはすっかり被害者意識にとらわれていて、率直に話し合うことができなくなっているみたい。ちょっとした情報も素直に共有できなくなっているようね)
明日香「今回の仕事の分担は、私も含めて3人で決めましょうか」
ハヤブサ「いや、それは無理だと思います。リーダーが仕事を割り振っていただけませんか」
明日香「……ハヤブサさんの希望は分かったわ。明日まで、考える時間をちょうだい。思い切って相談してくれてありがとう」
明日香の知る限り、サイゴウがそこまで一方的な割り振りをするとも思えない。サイゴウにはサイゴウの考えがあってのことかもしれない、と明日香は感じた。
その日の夜、ハヤブサが退社し、まだサイゴウが残業しているタイミングを見計らって、明日香はサイゴウに声をかけた。
明日香「今日、オオムラさんと会ったので、ちょっと話をしました」
サイゴウ「ああ、今日はリーダー・ミーティングでしたね」
明日香「サイゴウさんもハヤブサさんもさすがスペシャリストで、とても頼りになるって。ちょっと2人の間で情報が伝わっていないことがあっても、オオムラさんたちの側でカバーできるし、というようなことも聞きました」
サイゴウ「そうですか。何となくハヤブサくんと役割分担ができているので、互いに相手の領域にはあまり関わる必要もないから」
明日香「どんな感じで分担しているんですか」
サイゴウ「ネットワークの最新技術がらみのトラブルシューティングが結構あって。そのへんは僕はハヤブサくんにかないませんからね。僕はネットワーク関係、特にハード周辺は、正直なところオオムラさんたちの期待に応えきれない時があるので。
その代わりプレゼンは好きだし、専門的な内容をかみくだいて伝えるのは得意ですから。
逆にハヤブサくんは、この分野に経験が豊富だし、トラブルシュートの勘は天才的なところがあります。でも、人間相手の臨機応変な対応や、分かりやすく説明する、といったことになるとどうも、ね。最近は何となくクールなところがあって、僕との会話も最低限にしたいみたいだし。
まあ、お互いの強みを生かしたところで仕事をすれば、結果として高い成果につながりますから」
明日香は、サイゴウなりに2人をチームとして考えていると知って、少しホッとした。ただし、自他の強みの判断はやはり独りよがりのところがある。それがサセボにも誤解される原因になっているのかもしれない、と感じた。自分の弱みを認識しながら、克服しようとしないでハヤブサに任せきりにしていることも、気になった。
(サイゴウさんのことをとやかく言う前に、グループのリーダーである私自身の問題もあるわ。日頃から、サイゴウさんに対するモニタリングとフィードバックが足りなかった、ということよね。それにしても、サイゴウさんに、2人チームのリーダー格として、ハヤブサさんにも納得できる行動をとってもらえるようにするにはどうしたらいいんだろう……)
その夜、明日香が帰りの電車に乗っていると、草一郎からの着信があった。明日香は、駅に着くと、比較的人通りの少ない場所を選んで、草一郎に電話をした。
明日香「もしもし、明日香です。さっきは出られなくてごめんなさい」
草一郎「やあ、きっと帰りの電車だと思ったけど。こないだのメンバーの話がちょっと気になって、その後どうなったかなと思って」
明日香「心配してくれてありがとう。それが今まさに、佳境なの」
明日香は、かいつまんで経緯を説明した。
草一郎「メールにも書いたけど、確執が表面化するときはチーム作りのチャンスでもあるから。この機会に、仕事の分担の話をきっかけにして明日香も含めて3人で話し合うことが必要だね。その場では、お互いに強みと弱みを共有できるように、明日香がうまく促せるといいね。
明日香としては、チームがどうあってほしいか伝えることも大切だね。実際のところ、独りよがりに考える傾向の強い人に、チーム第1の発想を身につけてもらうことは、本当に難しい問題だけど。その年長の人には、単に2人の強みを活かすだけではなくて、2人がそれぞれ成長できるような仕事の割り当てができるようになってほしいね。その人もそのうちにリーダーになるんだから、と伝えてみたらどうかな」
翌日、明日香は、サイゴウ、ハヤブサに声をかけ、3人で話し合うことにした。 (下に続く)
メンバーどうしがうまく行っていないと気付いたとき、適切な対応をしていますか?(中)
□確執は相互理解のチャンスでもあることを理解していますか?
□表面的な仲裁ではなく、確執の“真の原因”を掘り下げて考え、対応しようとしていますか?
~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 池田典子~ (文:池田典子 & 吉川ともみ)