外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

第12話:“グループ内のトラブルにどう立ち向かう?~メンバー間の確執”の巻(下)

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 明日香のグループでは、あるプロジェクトを一緒にサポートしているサイゴウとハヤブサの2人が、どうもうまくいっていない様子だ。しばらく2人を見守っていた明日香は、3人で話し合う場を持つ必要がある、と判断した。

 明日香が自席を立つと、サセボが話しかけてきた。

サセボ「あ、リーダー。打ち合わせですか? 今日は私、お昼にヘルシーランチ弁当を買いに行くんですけど、リーダーの分も買ってきましょうか」

明日香「ありがとう。サイゴウさんとハヤブサさんと、小会議室でちょっと話し合いするだけよ。じゃあ、いつもどおり半ライスでお願いするわ」

サセボ「は~い。お代は後で結構です。サイゴウさんとハヤブサさんと、ですか……」

明日香「そうよ。じゃ、お弁当よろしくね」

 サセボの視線を背中に感じながら、明日香は小会議室に向かった。 

 明日香がドアを開けると、すでにハヤブサがいて、緊張した面持ちで振り返った。そこへ、サイゴウも入ってきて、ノートPCを机の上に置いた。すぐに画面を開くと、ハヤブサの方には目を向けず、大きな声で明日香に話しかけた。

サイゴウ「リーダーが言っていた“プロジェクト・サポート活動報告”って、こんな感じでOKですか?」

 明日香は、サイゴウが示した画面をざっと見て答えた。

明日香「そうそう。ではこれを使って、サイゴウさんから、このプロジェクトのこれまでのサポート活動状況を説明してください

 サイゴウは、明日香が時折はさむ質問に答えながら、てきぱきと報告した。たしかに、サセボの言う通り、仕事が偏っている。一言でいえば、表舞台に立つ仕事はサイゴウ、サポート的な裏方の仕事はハヤブサが行っていた。

明日香「仕事の割り振りはサイゴウさんが決めているのですか」

サイゴウ「割り振るというほどのことでもなくて、適した分野を担当したほうがいいので。僕は得意なプレゼンを、ハヤブサくんには技術的な分野をお願いしています。それにこのプロジェクトのトラブルシューティングは、ネットワークのハード絡みが多くて、ハヤブサくんの経験と技術センスが頼りで」

明日香「なるほど。トラブルシューティングが難しい仕事だから、ハヤブサさんに頼っているのですね」

サイゴウ「そうですね。正直なところ、僕がやると不安材料が多いし、時間も倍くらいかかることもあるだろうから」

 ハヤブサは、びっくりしたような顔をしている。裏方の仕事をサイゴウに押し付けられているという気持ちになっている彼にしてみれば、サイゴウが、あっさり“頼っている”と認めたり、“僕がやると不安材料が多い”と口にしたことは、かなり意外だったようだ。

 たしかにサイゴウは押しが強いし、簡単には相手を認める素振りを見せたがらない。しかし明日香はサイゴウと付き合いが長いので、彼が物事を率直に考え、力量のある相手は正当に評価する、ということも知っている。

明日香「ということは、2人の間でいつも同じような仕事の分担になっていることになりますね」

サイゴウ「え? まあ、そのとおりです。でも僕もハヤブサくんもそれぞれ、得手不得手があるから」

 そう言いながら、サイゴウはハヤブサの方を見た。明日香は、ハヤブサに内心、エールを送りながらたずねた

明日香「ハヤブサさんは、プレゼンとか、フェアで不特定の人の相手をしたりするのは苦手?」

ハヤブサ「いえ、そういうつもりはありません。むしろ、そういうスキルを身につける機会があまりなかったので、やってみたい気持ちがあります」

 ハヤブサとしては、たぶん思い切って発言したのだろう。今度はサイゴウがびっくりする番だった。

サイゴウ「はぁ? それは知らなかったよ。だけど、このプロジェクトのトラブルシューティングは明らかにハヤブサくんのほうが適任だよね」

明日香「ハヤブサさん、対応した問題の情報をサイゴウさんと共有している?」

ハヤブサ「え? プロジェクトのオオムラさんには報告を出していますが、サイゴウさんには渡していません。トラブル対応はずっと自分だけでやっているので、サイゴウさんと共有する必要はないと思って」

明日香「トラブルって、似たような問題が関連して起きることも珍しくないでしょう。ハヤブサさんが解決した記録を共有していけば、サイゴウさんが対応できるトラブルの幅も広がるんじゃないかしら」

 2人ともちょっと困ったような表情をしたが、ハヤブサが答えた。

ハヤブサ「たしかに、トラブル対応関係の情報は僕だけが持っていて、サイゴウさんとは共有していませんでした」

明日香「それを共有することは可能? サイゴウさんはどうですか?」

サイゴウ「そりゃ、このプロジェクトでの対応記録があれば、見たいですよ。具体的なケースで経験したことは、あとあと必ず応用が効くし」

 またしてもハヤブサは、意外な表情を浮かべている。やれやれ。
 
 同じグループに所属して、さらに担当も同じプロジェクトで、それでもお互いを理解することは難しい、と改めて明日香は実感した。それどころか、思い込みや憶測が積み重なると、関係が悪化してしまうこともあるのだ互いの本音を若干でも理解すれば、この2人なら関係はすぐ改善できそう

 サイゴウとハヤブサは、明日香に促され、その場で今回の仕事の分担の相談を始めた。その中でハヤブサは、技術情報を1人で抱えていることに気付いていなかったと認め、情報共有の方法についても話し合った。最後にサイゴウがハヤブサに言った。

サイゴウ「僕はもともと、自分だけが仕事を割り振っているつもりはなかったよ。これからも相談して決めていこうな」

 3人とも、会議室を出るときはスッキリした表情になっていた。明日香は1人でカフェテリアに向かった。テイクアウトのコーヒーを片手に自分のフロアに向かいながら、今の話し合いを振り返った。

 (草一郎も言っていた通り、こんなふうに確執を乗り越えながら、本当のチームになっていくのかもしれない。今回は、サセボさんがまだサイゴウさんの真価を分かっていないことにも気付けた。そうだ、久しぶりにグループの飲み会を企画しよう! サセボさんに良さそうなお店を探してもらおうっと)

 自席に戻ると、12時半を過ぎていた。明日香のグループのメンバーの姿は見えなかったが、サセボが買ってきてくれた弁当が机の上に置いてあった。明日香は思わずニッコリして、それから草一郎に御礼の短いメールを打ち始めた。

メンバーどうしがうまく行っていないと気付いたとき、適切な対応をしていますか?(下)

□当事者1人1人に自分の考えを客観的に話させ、対策を考えさせていますか?

□リーダーが問題を放任せず、解決を図る姿勢を見せることにより、チームの行動指針を示していますか?

~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 池田典子~ (文:池田典子 & 吉川ともみ)

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