第12話:“グループ内のトラブルにどう立ち向かう?~メンバー間の確執”の巻(上)
間もなく午後1時。グループ・リーダーの明日香は、他部門とのミーティングに出席するため、エレベーターホールに向かった。
休憩時間で照明を落としているエレベーターホールの薄暗がりの奥に、うつむいてエレベーターを待つ先客がいた。よく見ると、明日香のグループのハヤブサだった。
(なんだ、ハヤブサさんか。どうしたんだろう、下を向いて……考え事かなぁ……)
明日香が何となくためらいを感じて立ち止まった瞬間、ハヤブサの前のエレベーターの扉が開いた。彼は明日香には気付かず、そのままエレベーターに乗った。誰もいなくなったエレベーターホールで、改めてボタンを押しながら、明日香は考えた。
(そういえば、今週のグループ・ミーティングのとき、ハヤブサさんの様子が少しいつもと違う気がしたな。議論がずいぶん白熱したのは良かったけれど、サイゴウさんの発言に対してハヤブサさんがやけにネガティブで、ちょっと気になった。そのあと、議論の内容に意識が行ってしまって忘れていたけれど、今思えば2人とも表情がこわばっていたような……)
翌日の昼休み。明日香は、グループで最年少のサセボと2人で、近くのベーグル・サンドの店に行った。サセボは好奇心旺盛で皆にかわいがられている上、意外としたたかに周りを観察しているところがあり、なかなかの情報通だ。クリームチーズとハチミツのベーグルにかぶりついているサセボに、明日香はそれとなく聞いてみた。
明日香「ねえ、サセボさん。最近、ハヤブサさんのことで何か気付いたことある?」
サセボ「(もぐもぐ)……ハヤブサさんも大変ですよね~」
明日香「何が?」
サセボ「そりゃ、やっぱりこのところサイゴウさんと一緒の仕事だからですよ。サイゴウさんって、目立つ仕事は全部取っちゃうじゃないですか」
明日香「サイゴウさんが?」
サセボ「そうですよ~。きっと、みんなそう思っていますよ。リーダーはそう思いませんか?……(もぐもぐ)」
明日香は、それとなく話題を変えた。しかし、頭の中はサイゴウとハヤブサのことを考え続けていた。2人は数カ月前から、あるプロジェクトのサポートを一緒に担当している。考えてみれば、ハヤブサの様子がどうもおかしくなったのは、その後しばらくしてからだ。
それにしても、サセボが、サイゴウのことを「目立つ仕事を取ってしまう」と言ったのには驚いた。明日香がリーダーになるまでは、サイゴウの方が先輩格だったし、前向きで積極的な最年長メンバーとして頼りになる存在だ。ただし、押しはかなり強いし、自慢話もやや多いかもしれない。一方、ハヤブサは、年齢の割にさまざまな現場を経験していて、新技術の飲み込みの速さはピカイチだ。自分の主張を押し通すタイプではないが、しっかりした考えを持っている優秀な後輩である。
(あの2人の間で、何かうまくいかないことがあるのかしら……気付かなかった……)
昼休みから帰ったところへ、営業グループのリーダーをしている草一郎から、同期会についてのメールが来た。明日香は、返信の末尾につい、「グループ内のメンバー同士がどうもうまく行っていない雰囲気で、アタマイタイ……」と書いてしまった。すると、草一郎からすぐに返信がきた。
「明日香さん、グループというものは、いろいろな段階を経験して初めて真のチームになれると思います。僕も以前、メンバー間の確執で手を焼いた時期があって、そのときの経験からいうと:
- 早合点して判断しない。まずは注意して2人の様子を見守る
- 周りから情報を集める(ただし、うのみにするのは危険)
- その上で、2人から直接話を聞く
というようなことかな。
幸い大事に至る前に兆候をつかまえることができたみたいだから、グループの成長のチャンスと考えて取り組めばいいのではないかな。また何かあったら相談して。
草一郎」
草一郎のメールで「兆候をつかまえることができた」という部分を読み、明日香は今さらながらハッとした。ハヤブサの様子がどうもおかしい、と気づいたことが大切なことなんだ。これからは2人の様子を注意深く見守って、何が起きているのか見極める必要があると感じた。
数日後。
ふと明日香が頭を上げると、サイゴウの席にハヤブサが来て話し合っていた。それとなく観察すると、2人とも表情が乏しく、相手の目を見ることなく事務的に言葉を交わしている。ビジネスライクと言うよりは、何か冷たいものが2人を隔てているような感じだ。
(これは、どう見てもおかしい。とても信頼し合って協力して仕事をしている間柄には見えないわ)
さらに翌日。明日香は、リーダー・ミーティングで、2人が担当するプロジェクトの相手先部門のリーダーであるオオムラの姿を見かけ、それとなく声をかけた。
明日香「オオムラさん。サイゴウさんとハヤブサさんのグループのリーダーの朝田です」
オオムラ「ああ、朝田さん。いつも2人にお世話になっています」
明日香「なかなかオオムラさんと直接お話しする機会がないのですが、いかがですか」
オオムラ「2人ともさすがスペシャリストですね。頼りになります。ちょっと気難しいけど、まあプライドですかね。先日も、ハヤブサさんにお願いした話がサイゴウさんに伝わっていないことがあって、サイゴウさんにその場で説明したらバッチリ解決してくれました。
2人とも、大切な話はそれぞれ個別に伝えてほしいということのようです。まあ、それ以降は2人の顔を立てるようにしていますので、ご心配なく」
やっぱり。これではまるで、2人が別のグループからサポートに来ているようではないか。明日香はため息をつきたくなったが、気を取り直して答えた。
明日香「そうでしたか。率直なお話をお聞かせくださって助かります。2人の間の連絡や情報共有について、こちらでも確認しておきます」
(一応2人で話し合ってはいても、肝心なことを伝え合っていないのかもしれない。1度、サイゴウさんとハヤブサさんから、それぞれ直接話を聞かないと)
そう考えながら明日香が自席に戻ると、ハヤブサがやってきた。
ハヤブサ「リーダー。実はオオムラさんのところのプロジェクトのことで、相談があるんですが……」
明日香は内心どきりとしながら、ハヤブサを伴って別室に入った。(中 へつづく)
メンバーどうしがうまく行っていないと気付いたとき、適切な対応をしていますか?(上)
□メンバー間の確執の兆候に注意していますか?
□中立的な態度を取るつもりで、結果として問題を放置していることはありませんか?
~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 池田典子~ (文:池田典子 & 吉川ともみ)