第9話:“会議がうまく機能しない!~ミーティングのキホン~”の巻(上)
月曜の朝。あと5分で、定例のグループ・ミーティングを始める時間だ。リーダーの明日香は席を立ったが、メンバーは全員まだ着席したままだ。明日香は、あえてメンバーの席の間の通路を通ってミーティング・ルームに向かいつつ、声をかけた。
明日香「ミーティングを始めま~す!」
顔だけこちらに向けて生返事するメンバーもいたが、概して反応は鈍かった。明日香がミーティング・ルームのホワイト・ボードを整え、不要な椅子を隅に寄せ終えた頃、やっとイサハヤ、サセボが入ってきた。
明日香「サイゴウさんたちはまだかな? さっき声をかけたのだけど」
すると、イサハヤが申し訳なさそうな様子で告げた。
イサハヤ「サイゴウさんは、どうしても片付けなければならない別件があるそうで、自分なしでミーティングを進めてください、とのことです」
サセボ「え~? 私だって、午前中に仕上げないといけない資料があるのに」
サセボは思わず口をとがらせたが、明日香は取り合わず、代わりに急いで言った。
明日香「では、時間がもったいないので、サッと始めて早めに終わりましょう」
そして、いつも通り、今日の打ち合わせ項目を確認してから、本題に入った。
明日香「ではまず、例によって先週の報告と今週の予定をお願いします」
若手から順にサセボ、イサハヤが進捗報告をしていると、あとから2人が加わったが、サイゴウはまだ来ない。今日はグループで方針決定をする案件がある。常日頃から一番明確に自分の考えを持っているのは、サイゴウだ。彼が不在のまま決めても、後でかえって厄介になることは目に見えている。
明日香「次の議題に行く前に、少しだけ休憩します。 ……それにしても、サイゴウさんはどうしたのかな」
イサハヤは、サイゴウを呼びに行くと思いきや、聞こえないふりをしているのか、机に突っ伏してしまった。サセボはといえば、自分が作りかけている資料の原稿を取り出し、修正を書き込むのに夢中だ。明日香は、少しいらいらしながら自分でサイゴウを呼びに行った。サイゴウは、自席でPCに向かっていた。
明日香「サイゴウさん。みんなが揃わないと決められない案件があるので、ミーティング・ルームに来てください」
サイゴウはPCの画面を見つめたまま、答えた。
サイゴウ「これ、昼前に片付けなければならないんですが、どうしても、今ですか?」
明日香「今です。サイゴウさんにも一緒に考えていただかないと」
明日香がキッパリ言うと、サイゴウは、しぶしぶ席を立った。
ミーティングが再開され、討議に入った。明日香は、まずはメンバーから意見が出ることを期待したが、みんななかなか発言しない。特に若手は、サイゴウの様子をチラチラうかがって黙っている。そのサイゴウも、口を開かない。
(みんな早く終わらせたいなら、発言してくれればいいのに)
明日香はがっかりしたが、自発的な発言を促している時間はない。結局、明日香が順に1人ひとり指名して考えを聞き、選択肢が出そろったところで各案の良し悪しを討議した。討議の後半になると、やっと活発に意見が出始めた。時間はかかったものの、なんとか全員が納得する案をまとめることができた。
明日香「これで今日のミーティングを終わります」
サセボ「わっ、こんな時間!」
みんな、そそくさと自分の仕事に戻っていった。ミーティング・ルームを1人で片付けながら、明日香は黙って考えていた。
(この頃、どうも定例ミーティングがうまく行かない。みんなにとっては、ルーチンワークに映っているみたい。何かしら理由をつけて、遅れてきたり、出たがらない。確かに、進め方がマンネリ化しているかもしれない。大事な伝達を共有したい、バックアップ体制をうまく機能させたい、と定例化した最初の頃は、もっと活気があったのに。何がいけないのだろう……)
ちょうど今週の後半に、別の部署のグループ・リーダーとして活躍している同期の真紀子と一緒に、話題のレストランに行く約束をしている。リーダーとしては先輩格の真紀子に、どのようにミーティングを運営しているか、聞いてみようと思った。
(下に続く)
会議を活用し、効率的に進めるための工夫をしていますか?(上)
□事前に会議の打ち合わせ項目や時間配分を配布していますか?
□必要なメンバーが揃うかどうか事前に確認していますか?
□定例会議の価値や目的についてグループ全員で共有していますか?
□会議の進行役(ファシリテータ)として、どのような会議にするか設計し、準備していますか?
□会議の参加者に、事前に必要な準備(自分の考えをまとめておく、など)を知らせていますか?
~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 樋口敦子~ (文:吉川ともみ)