外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

番外編:ある挿話「若手リーダーに伝えたいこと~“言行一致”の重要性」の巻(上)

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 システム部の新任リーダー明日香宛に、同期入社で経営企画部長秘書をしている友紀絵から、久しぶりにメールが来た。

システム部
朝田明日香様

 経営企画部の元木友紀絵です。お久しぶりです。

 本日はご相談があってメールしています。

 次々号の社内報の『この人にきく』で、今屋部長の記事が掲載されることになりました。部長は、“若手リーダーに伝えたいこと”というタイトルで、朝田さん及び同期のリーダー2~3名との座談会形式の記事にしたい、とご希望です。

 そこで、来週中くらいまでに、座談会に参加していただける若手リーダーの人選、および日程の調整をお願いしたいのですが、お引き受けいただけますか。

 人望の厚い今屋部長の素晴らしいお話を、全社のリーダーが読めるチャンスなので、ぜひご協力をお願いします。

経営企画部
秘書 元木友紀絵

 一読すると、明日香は早速、草一郎と真紀子に連絡を取った。そして、いくつかの候補日程を記して友紀絵に返信メールを送った。

 翌週のある日、明日香、草一郎、真紀子の3人が経営企画部の会議室に揃っていた。ドアが開き、今屋部長と友紀絵、そして広報部の社内報担当者1名が入ってきた。

今屋「やあ、皆忙しいところを、今日はありがとう」

真紀子「とんでもありません。このような時間がいただけるのは、私たちにとってもなかなかない機会ですから!」

 草一郎と明日香も、うなずいた。

 社内報担当から、座談会の段取りと時間配分について簡単な説明があり、レコーダーのスイッチが押された。

今屋「この社内報の『この人にきく』の連載は、個人的知見も含めた自由な内容で構わない、ということです。そこで私は、これまで長い間自分のテーマとして持ち続けてきた内容について、若手リーダーと語り合いたいと考えました」

 部長は、ゆっくりと話し始めた。

今屋「私は、現場のエンジニアから管理職を経て、いまは経営企画部長という、当社の現在と未来の全体に関わる職務を担う立場にあります。そして“リーダーシップ”のありかたについて、私自身さまざまな経験をし、あるいは考えさせられる場面に出会ってきました」

草一郎「僕たちが入社した頃も、よく先輩たちに、“リーダーシップ”とは“人に影響を与える力”なんだよ、と話していらしたのを覚えています」

今屋「よく覚えていますね」

明日香「新入社員の頃は、部長のおっしゃる“影響力”という言葉が、ピンときませんでした。今は、どんな仕事も全く一人きりで完結するということはありえないということが分かるようになりました。人と人が関われば必ず、お互いに何がしかの影響を与えあうことになります。
 ということは、誰もが、当社の中で、あるいは社会の中で、生きていくために影響を与える/与えられるという“リーダーシップ”の問題に関係していくということですね」

今屋「そのとおりです。役職にあるかどうかにかかわらず、誰もが、日々の生活のさまざまな場面で“リーダーシップ”に関わっているのです」

真紀子「人事部門が実施しているリーダーシップ研修は、私も受けました。交渉の基本においても、自分のキャリアを考えるうえでも、リーダーシップと密接に絡む内容が含まれている、と気づいたことが深く印象に残っています」

今屋「当社では、リーダー候補になる年次の若手社員が全員その研修を受けることができますね。その成果が、直接あるいは間接に現場で生きてきていることを、最近私は感じています。学んだリーダーシップの知識を実際に実践していく人が増えてきているということですね。ぜひ、若手リーダーになった社員が中心となってさらに進めて欲しいと思っています」

草一郎「しかし実際にリーダーの立場になると、知っていても行動に移せないとか、分かっているのにできない、というもどかしさも日々味わっています」

今屋「そう、『知っていることとできることは違う』、そこが難しいのですね。

『あの人はリーダーシップがある』と評価される要因にはいろいろありますね。みなさんは、リーダーにとって最も重要なことは何だと思いますか?」

真紀子「やはり能力があること、そして何事においても公平な態度を保つことだと思います」

明日香「それから、メンバーのことを大切に思い、応援することも大切だと感じます」

草一郎「みんながついていきたくなるような、ワクワクするビジョンを語れることが、重要ではないでしょうか」

今屋「みんな、さすがだね。挙げてくれたことは、それぞれ現場の経験を通しての項目であり、説得力がありますね。 実は、私が最も重要だと考えているのは『信』なのです。『信』とは、信頼です。少し考えて欲しいのだけれども、人は何をもって『信』を感じ取るのでしょうか」

明日香「……逆の言い方になってしまいますが、言うことと実際の行動が矛盾している人は、やはり信頼できないですね」

今屋「言行一致の人になって初めて『信』が生じる。まさにその通りです。それも一過性ではダメで、継続して実行している姿を見たとき、人は『信頼できる』と感じるようになるのですね」

草一郎「お客様に対しては言行一致を守っていると思いますが、社内、特に身内のメンバーに対する自分を振り返ってみると言行一致になっていないことがあります。難しいけれど、身近においてこそ、意識しなければならないですね。これは、社内だけでなく、家庭内でも同じことですね」

今屋「『信』は人と人との間のことですから、仕事であろうとプライベートであろうと相通じることですね。

 ところで、これは聞いた話ですが、華僑の社会では口約束だけでも互いにその約束を守るために行動するそうです。背景として、華僑社会においては言行一致に対する相互の信頼の文化があるようです。もし相手が口約束を履行しない場合は、『これからはあの人は信用しないし付き合わない』と仲間に宣言し、その結果として約束を守らなかった人は相応の扱いを受けるようです。それだけでなく、約束を守らないような人を見抜けなかった自分を反省するそうです」

真紀子「西洋の契約社会とは違う、東洋ならではの思想ですね」

今屋「東洋思想は非常に幅広く、奥深く、難解な世界であるのはたしかですが、古人の知恵は私たちの現代の実生活にも通じることがたくさんあるのです」

真紀子「ただ、申し上げにくいことですが、いまさら“言行一致”というとなんだかお題目のような感じも……」

(下 へ続く)

~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア顧問取締役 平尾隆行人財創研 代表)~

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