第3話:個人商店の集まりをチームにしよう!
昼休みのオフィス。昼食に出ているメンバーの席の電話が鳴った。
明日香は、溜めていた資料に目を通しておかねばと思っていた。だから今日は簡単に昼食を済ませようと、出社途中でサンドイッチを買ってきた。電話が鳴ったのは、2個目のツナサンドにちょうど手を伸ばしたときだった。あいにくオフィスには誰もいない。
明日香「はい、MSシステム・テクノロジ社、サクラジマの席でございます」
タナカ「青山商会のタナカです。いつもお世話になっています。サクラジマさんはいらっしゃいますか?」
明日香「こちらこそ、いつもお世話になっております。恐れ入りますが、サクラジマは本日風邪でお休みをいただいております。わたしはチーム・リーダーの朝田です。よろしければご用件をお伺いします」
青山商会は、現在サクラジマがサポートして、周辺機器の一斉入れ替えプロジェクトを進めている。タナカは、至急確認したい技術的な問題に気付いた、という。明日香自身は取り扱った経験のない周辺機器だった。
明日香「申し訳ありませんが、いまここでわたしが即答しかねる内容なので、取り急ぎ社内で確認を取りお返事いたします」
タナカ「分かりました。ご連絡をお待ちします。ただ、場合によっては入れ替え機種を変更しなければならないかもしれないので、ちょっと急いでいるんです。今日中にお返事いただけると助かりますが、いかがでしょうか?」
明日香「はい、もちろんです」
明日香は、自分の電話番号を伝え、いったん受話器を置いた。そのとき、チームの何人かが昼食から戻ってきた。
サイゴウ「なんだか、きょうの麺、いつもよりやけにやわらかくなかった?」
ハヤブサ「そうかなぁ」
明日香「サイゴウさん、お昼のすぐ後なのにごめんなさい、ちょっと聞いてもいいですか」
サイゴウ「はい? 何でしょう、朝田さん」
明日香「ついさっきね、サクラジマさんのお客さまから電話があったの。あいにく風邪で休みだし、わたし1人だったから電話を取ったのよ。そしたらね……」
明日香はタナカの質問をかいつまんで説明した。
サイゴウ「そんな質問はサクラジマさんしか分かりませんよ。だいたい、なんでそんな製品に入れ替えするのかなぁ。気が知れませんねぇ」
と、他人事といわんばかりだ。
ハヤブサ「サクラジマさんのことだから、よほど調べて選んだんじゃないすかねぇ」
と、こちらも顔はパソコンの画面を向いたまま、そっけない返事だ。
明日香「え~? サイゴウさんもハヤブサさんも知らないの~。困ったなあ」
わが社の精鋭が結集している技術集団を自認するグループの割には、残る誰に聞いても「普通弊社では使わないでしょう」「サクラジマさんの家に電話してみたら」など、やはり反応が冷たい。
結局、読みたかった資料そっちのけで、明日香が調べる羽目になってしまった。その周辺機器メーカーのホームページからダウンロードした詳しい取り扱い説明書の欄外に、小さな字で書いてある「サンプル使用例」の説明が、タナカの質問への答えとしてほぼピッタリらしい、と見当がついたのはもう16時近かった。明日香は、机上のサンドイッチがパリパリに乾いていることも気づかず、タナカに電話した。
タナカ「朝田さん、ありがとうございます。ただね、実際にはその記述どおりには稼働しない、という書き込みをどこかで見たという者がおりましてね。そういえばサクラジマさんが、そのリスクについてメモを持っていたような気がして、サクラジマさんにお尋ねしたかったんです」
こうなるともう、明日香にはお手上げだ。
明日香「申し訳ございません。そのサクラジマのメモがどこにあるか……彼は自宅か病院にいると思うので、とり急ぎ確認します」
タナカ「いやいや、それには及びませんよ。明日の朝、サクラジマさんが出社したら電話くだされば、今回は結構です」
明日香は、即答できないことを謝罪して電話を切り、サクラジマのアドレス宛に要点をまとめたメールを書いて送った。
大したことではないように思うのに、結局サクラジマ本人がいないと誰も分からない。
(誰だって体調を崩す時はあるし、電車や新幹線で急に長時間の足止めされてしまうこともある。今回はタナカさんが許してくださったけれど、リーダーとしてはお客さまに対して申し訳なさすぎる……)
明日香は、答えられなかった自分個人というよりは、わがチームの在り方こそが情けなく感じられてきた。
(あー、サンドイッチ乾いちゃった。コーヒー買ってこよう)
明日香は3階のカフェテリアに行き、カウンターで注文したコーヒーをぼんやりと待っていた。そこへ、7~8人のグループがエレベーターから降りてきた中に、真紀子の姿があった。
明日香「あ、真紀子!」
真紀子「あら。こんな時間にコーヒーブレイク?」
明日香「今日は昼抜きだったの。やっと一息ついているんだから」
と、明日香はさきほどまでのことを話し、小さくため息をついた。
真紀子「うちのグループは、業務ごとに“メイン”と“サブ”の2人体制だから、そういうことにはならないわね。常日ごろお客さまのところに行ったりするのはメイン担当者だけど、週間業務報告メールは、わたしだけでなくサブ担当者にも写しで送ることになっているの。サブ担当者も必ず目を通して、把握しきれないときは会えなくても電話などをうまく利用したりして確認し合っているわ。直接関係しなくても、サブとして参加することで実践的な知識が増えていくから、わたしとしてはスキル育成という面も考えて割り当てているのよ」
明日香「メンバー同士がバックアップする体制がうまく機能してるのね!」
真紀子「リーダーのわたしも、週単位で課内メルマガを出して、各メンバーの概況を短信にまとめて全員に知らせているの。だからお互いちょっと休暇の融通をしたいときにも、柔軟に調整ができるというわけ。あらかじめ分かっている休暇の予定は、電子掲示板にも記入するようにしているから、バタバタすることはないわ。この程度は当たり前だと思っているけど?」
明日香「わたしには目からウロコだわ……真紀子、いまはミーティング帰りでしょ? 時間のあるときに、このあたりのこと、もう少し聞かせてもらってもいい?」
真紀子「もちろん、改めて、ね。同じ会社でも部門が違うと常識も違うわよね~。じゃあ、またね」
注文したコーヒーがちょうど飲みごろになって、良い香りを漂わせていた。
まとめ:チーム内での情報共有はうまくいっていますか?
□定例ミーティングなどをうまく使って、メンバーがどのような状況にあるかを全員で共有していますか?
□担当者が不在時にバックアップ体制がとれるようになっていますか?
□スキルの育成を計画的に行っていますか?
□情報共有のツールをうまく利用していますか?(掲示板、ITツール~共有データベースやメルマガなど)
~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 樋口敦子~(文:吉川ともみ)