外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

第2話:コミュニケーションの活発なチームにしよう!(下)

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 草一郎のチームのやりとりを新鮮な目で観察した明日香は、自席に戻ると、新任リーダーとして改めて自分のチームをそっと眺めやった。

 皆とてもまじめに仕事をしているのだが、オフィスは静まり返っていて会話がほとんどない。今日だけではなくて、いつもこんな感じだ。皆が個人で黙々と取り組んでいるのは、全員に共通する専門分野が少ないからだ。明日香自身がメンバーだったときにも、会話がなくても何の問題もないと感じていた。

 リーダーの立場になった今は、少し見え方が違ってきた。

 先日の面談で、どのメンバーもそろって口にしていたのは「がんばっているのに、自分にばかり負担が集中している」という訴えだった。実は明日香もメンバーだったときに、そう思っていたふしもある。でも、リーダーの立場でみれば、必ずしもそうではないと感じ始めている。

 それに、先週こんなこともあった。

 チームの中でも特に若いメンバーのイサハヤが、明日香のところに相談に来た。

イサハヤ 「業界誌の最近のバックナンバーに、『参考になる○○の導入事例がちょうど出ていた』とお客様に言われて探しているんですが」

 明日香は、該当すると思われる記事を紹介し、イサハヤはさっそくコピーを取っていった。すると今週、別の年少メンバーのサセボさんとたまたま一緒に駅まで帰ったとき、まったく同じ記事の話が出た。

サセボ 「わたしの担当のお客様が『先々月号の業界誌にこういう記事が出ていたけど読んだ?』とおっしゃって、わたしはその記事を読み落としていて、ちょっとあせりました」

明日香 「その記事はね、先週イサハヤくんもコピーしていったわ。彼のお客様にも聞かれたんだって」

サセボ 「なんだ~。そうだったんですか」

 じつは案外、それぞれが同じようなことに引っかかったり、悩んでいるのではないだろうか。

 (せっかくのチームなんだから、ちょっとした情報やノウハウを共有できたら、もっとチームも活気が出てくるんじゃないかしら。でも、黙々と仕事するのが当たり前で、いまさらどうやってコミュニケーションの機会をつくれるかなぁ。そういえば、リーダーになってから、しばらく今屋部長にご連絡していなかった。近況報告を兼ねて、ちょっと聞いてみよう)

 明日香は、昼休み、皆が昼食に出払ってしばらくしてから内線電話に手を伸ばした。今屋部長は愛妻弁当派だから、昼休みはだいたい自席にいるのだ。

明日香 「今屋部長、朝田です。ごぶさたしております。ちょっとおたずねしたいことがあるのですが、いま23分よろしいでしょうか。お昼はもう終わられましたか?」

今屋部長 「朝田くんか。さっき終わったところだよ。どうしたの?」

明日香 「はい、チームリーダーになっていろいろ気付いたり、悩んだりしています。実はさっき、草野くんのチームに打ち合わせに行ったら、とても明るい雰囲気なのでびっくりしたんです。営業といっても、わたしのチームと同じようにおとなしそうな人もいるのに、なぜだろうと思ったんです。職種の違いとして片付けたくなくて、わたしたちのチームももう少し活気のあるチームにできないかなと考えているんです。わたしは何をすればいいのかご助言をいただければと思いまして」

今屋部長チームの雰囲気づくりはすごく大事だね。リーダーのできることは、たくさんあるよ。たとえば、『おはよう』『おつかれさま』『元気?』……と、率先して君が声を出すことはとても重要だよ。全員を毎日よく見て、さりげなく声をかけていると、ちょっとした変化も気がついて、フォローができるだろう。定例ミーティングで、メンバー持ち回りで小さな報告を毎回共有することも必要だね。1つひとつはありふれた小さなことだよ。どれもごく基本的なことばかりだけど、欠かさず実行していくのが大切なんだ。継続するのは難しいと思うよ。でも、リーダーである朝田くんが、チームの雰囲気を良くするんだ、という気持ちを持って率先すればきっと変えられるよ

明日香 「ありがとうございます! やっぱり基本、なんですね」

 受話器を握る明日香の視線は、窓を横切って勢いよく飛び交うツバメを追っていた。梅雨明けも近そうだ。

まとめ:チーム内でコミュニケーションは活発ですか?(下)

□リーダーから率先して挨拶するチームですか?

□こまめなちょっとした情報交換を気楽にできる場を設けていますか?

~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 樋口敦子/池田典子~ (文:吉川ともみ)

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