第2話:コミュニケーションの活発なチームにしよう!(上)
今日は朝から雨。
新任リーダー明日香は、ふと頭を上げてチームのフロアを見渡してみた。チームのメンバーは皆、自分のパソコンに向かい、黙々と真剣に仕事をしている。静かなフロアに、キータッチの音だけが響いている。
雨空のせいだろうか、どことなくオフィスの空気もいつもより曇っているみたいだ。
昨日の帰りがけ、営業チームリーダーで明日香と同期の草一郎から、メールが来た。現在お客さまに売り込み中のシステム拡張提案において、明日香のチームが扱っている技術がポイントになるという。
「案件の詳細内容をざっと説明するから、明日香さんのチームでこの分野に一番強いメンバーを選んで、お客さま訪問に同行させてほしい」というのが草一郎からの依頼である。人選も含めた相談でもあり、明日香が草一郎のもとに出向いて話し合うのがてっとり早い、ということになった。
いくつかの資料を選んでクリアフォルダに入れると、明日香は席を立ってエレベーターで草一郎のいるフロアに向かった。
(こんなお天気だと、同じビルの中でも、席をいったん離れるのは気分転換になるなぁ)
草一郎のチームがある営業部に入ると、同じビル内と思えないほど、何だかフロアが明るい。
(あれ? 雰囲気が違って明るい! ……そうか、営業の集まりだもの。活気があって当然よね)
明日香の頭の中でなにかがひらめいた。
(営業とエンジニアの個性の違いだけの理由でこんなに違う雰囲気なのかな? マネできることはないかしら)
そう思うと、見るもの聞くもの全部新鮮に感じられてきて、明日香はキョロキョロしながら草一郎の席に向かった。
草一郎「やあ、待ってたよ。わざわざありがとう。チームリーダーの仕事にも慣れてきたのかな? なんだか目が輝いちゃってるよ(笑)」
明日香「えー、本当? このお天気で、うちのチーム全体なんとなくドンヨリなんだけど(笑)。ところで、おたずねの件、まずは状況聞かせて」
草一郎は頭の回転が速い。すぐに本題に入り、提案中のシステム拡張の状況をテキパキと説明していく。明日香も質問をはさみながら、メンバーの顔を順に思い浮かべる。
(この件は、やっぱりサイゴウさんに行ってもらうのがいいかな)
明日香「ここまでの内容を聞くと……」
ふと気配を感じて資料から目を離すと、草一郎の斜め後ろ少し離れたところに、若い社員が遠慮深げに立っていた。草一郎は明日香に「申し訳ない」と一言断り、さっと椅子の向きを変えた。
草一郎「シブヤさん、どうしたの?」
シブヤ「お話し中なのに申し訳ありません。今、○○社さんに行って帰ってきたところなんですけど、ちょっと急いでご相談したいことが……」
シブヤさんと呼ばれたその若い社員は、蚊の鳴くような声で答えた。草一郎は椅子をさらに彼のほうに寄せて、たどたどしい報告にじっと耳を傾けている。
草一郎「そういうふうに、お客さまに言われたんだね。すぐ報告してくれてありがとう。これはシブヤさん1人では対応できないから、スガモさんに一緒に入ってもらおう。でもスガモさんは外回り中だし、とりあえずいまの報告内容を簡単なメールにまとめて僕に送っておいてくれる?」
そのとき、紺とグリーンの太い縞模様のネクタイをしたメンバーが帰社してきた。
スガモ「ただいま戻りましたぁ!」
するとあちこちから「おつかれ~!」「おかえり~」「暑かっただろ~」と声がかかった。
草一郎「スガモさ~ん! おかえり。ちょっといいかな?」
スガモ「はい!」
草一郎「シブヤさん担当の○○社さんでね、ちょっとスガモさんの力を借りたいことがあるんだ。1回一緒に訪問してほしいんだけど。僕は打ち合わせ中なので、あとでちょっと相談させてくれる?」
スガモ「はい! じゃあさっそく、午後の早い時間にご相談、ということでお願いします」
草一郎は、シブヤにニッコリと笑顔を向けた。少しほっとした表情になったシブヤは、明日香に向かってペコリと頭を下げ、自席に戻っていった。この間約3分。明日香は彼らのやりとりをじっと見ていた。草一郎は詫びた。
草一郎「やあ、待たせて申し訳ない」
明日香「たかだか数分よ。全然構わないから」
すぐに本題の打ち合わせに戻りながら、明日香の脳裏には、体の向きまで変えてメンバーの話に耳を傾けていた草一郎の姿、話しにくそうにしながらも一生懸命報告していたシブヤの様子、帰社するなり草一郎の依頼に快く応じたスガモの大きな声の返事が焼きついていた。
(これが明るい雰囲気の理由かな? みんな、すごく基本的なことばかり。わたしのチームでできているかしら?)
エレベーターを降り、明日香は自分のフロアに戻った。
まとめ:チーム内でコミュニケーションは活発ですか?(上)
□リーダーから積極的にコミュニケーションをとっていますか?
□メンバーから話しかけられたとき、直接に向き合って相手の言葉を聞いていますか?
~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 樋口敦子/池田典子~ (文:吉川ともみ)