3フェーズに分けて取り組む「ブートストラップ」英語学習法
先週末、通訳案内士(俗にいう通訳ガイド)のオフ会に行ってきました。今年登録した通訳案内士のみなさんで、通訳案内士向けの研修で知り合った仲間だということです。筆者は3年前の登録(奇しくも東日本大震災の日)ですが、そのうちのお一方と勤務先が一緒という関係で、図々しく仲間に加えていただいた次第です。登録して早速ガイドの実務に関する研修を受け、もうガイドデビューされている方も少なくないという状況で、みなさんそろって非常にアグレッシブで、大いに影響されました。
さて、今回は先月の公開講座でご紹介した「ブートストラップ」英語学習法についてご説明します。
■英語学習の流派は実に多い
英語学習を含む語学学習には、多読、多聴、音読、速読、精読、速聴(早回し)、ディクテーション、聞き流し、「シャワー」(浴びるように英語を聞く)、オーバーラッピング、シャドーイング、文法、作文、単語帳、語源学等々、実に多くの理論や流派が存在しています。
筆者は前記のいずれも意識してあるいは意図せずに、ある程度実践したことがあり、それぞれの効果は実体験として理解しています。その経験から言えば、いずれも一定の効果は認められると思いますが、どれかひとつでよいというようなものではなく、学習のある側面ないし一方法というのが妥当な評価だろうと思います。
■英語で英語を学ぶことの是非
文部科学省は中学の英語を英語で教えようとしているということですが、これにはかなり無理があると思います。
教える側にも非常に大きな課題がありますが、百歩譲ってこれがクリアされたとしても、中学レベルでは教わる方の負担も大きすぎます。日本語で聞けば簡単に理解できることを、どうして教える方も教わる方も大変な苦労をして英語で学ばなければいけないのでしょう。
たとえば、tonsilitisは扁桃腺炎(へんとうせんえん)と言えばすむところを、まず以下のようにtonsil(扁桃腺)の説明からされたら分かるでしょうか。
either of the two small organs at the sides of the throat, near the base of the tongue (Oxford Advanced Learner's Dictionary)
もっとも、「扁桃腺」と言えばよいのは共通の理解が存在するからで、それがなかったら日本語で説明するとしても大変です。
この例から言えるのは、教える側と教わる側の共通の理解を活用した方が、学習の効果と効率がずっとよいということです。
あるところまで習得できていれば、細かいニュアンスなどを学ぶためには英語で英語を学んだ方がよいことは、言うまでもありません。
■「ブートストラップ」英語学習法
前置きが長くなりましたが、筆者が言う「ブートストラップ」英語学習法は、以下の3つのフェーズからなります。
- 英語を勉強する
- 英語で勉強する
- 英語で仕事をする
「英語を勉強する」フェーズでは、ESL(English as a Second Language)向けの教材が使えるレベルを目標にします。大学受験レベルの文法と、ESL向けの辞書を英和辞典なしで読める語彙(ごい)の習得を目指します。辞書によって収録語数の数え方がまちまちですが、1,800から2,000語程度の語彙を身につけることが目標です。
「英語で勉強する」フェーズでは、英語だけを使った、ESL向けの教材を利用します。平易な英語ですが、英語を母語とする人たちが作成する教材なので、「肯定文はsomeで、疑問文や否定文はanyを使う」というような妙なウソはありません。こうしたウソについては、このコラムでしばしば取り上げている、マーク・ピーターセン教授の「日本人の英語」シリーズをご覧ください。
「英語で仕事をする」フェーズは、仕事や趣味を通じて英語を学びます。筆者は「勉強」を「それ自体を目的として、そのために時間を割いて行う」ものと考えているので、このフェーズではもはや「勉強」の域を超えています。
IT系に限らず、やはり英語で書かれた情報は早くて量がありますし、翻訳につきものの問題もありません。仕事や趣味のために英語のリソースを活用するのは、自然に英語の力もついてくるので、一石二鳥の作戦だと思います。
■言語処理系の「ブートストラップ」を思い起こす
「英語を勉強する」フェーズでは、日本語を使って英語を勉強します。次の「英語で勉強する」フェーズでは、文法と語彙が限られるという意味で、「英語のサブセット」を使って英語を勉強します。ただ、ここでは「英語のサブセット」の域を出られません。最後の「英語で仕事をする」フェーズでは、いわば「英語のフルセット」によるリソースを使って、筆者の言う意味での「勉強」ではなく、仕事や趣味の中で自然に英語を学んで行きます。
これはちょうど言語処理系のブートストラップに似ているので、筆者は「ブートストラップ」英語学習法と命名しました。