「グロービッシュはブロークンでよい」と誰が言ったのだろうか?
前回のコラムでお知らせしたように、今回はグロービッシュを取り上げます。
■グロービッシュとは
グロービッシュはだいぶ認知されてきていると思いますが、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんので、ここで簡単にご紹介します。
GlobishはglobalとEnglishを合わせた造語で、フランス人で、IBM元重役のジャン=ポール・ネリエール氏が考案しました。同氏の著書はまず母国フランスでベストセラーになり、邦訳されて日本でも知られるようになりました。
ネリエール氏は、ノンネイティブの英語こそグローバルであり、それをEnglishではなくGlobishと呼ぼう、と言っています。
■グロービッシュとGlobish
「グロービッシュ」をテーマとした一部の本や記事では、
- ブロークンでもよい
- 発音がいい加減でもよい
- たった1500語でよい
といったグロービッシュの特徴を挙げ、あたかもこれが日本人が目指すべき英語であるかのように持ち上げています。
しかし、Globishでは「ブロークンでよい」は言っていません。誰が言ったのかは分かりませんが、マーケティング上の戦略にすぎないでしょう。そういう意味では、カタカナ語のグロービッシュを見たら、まず「元のGlobishから変質しているかもしれない」と疑ってかかった方がよいかもしれません。
■そもそも「ブロークン」とは
「ブロークン」は、そもそもどういう意味なのでしょうか。大辞林には「話される英語が、文法にはずれているさま」とあり、大辞泉ではさらに突っ込んで「外国語について文法などがでたらめなさま」とあります。
したがって、「ブロークン」と言ったときには、英単語を並べただけに等しい水準の英語も含むと思っても間違いないでしょう。
“broken”が言語に対して用いられた場合の意味は、Merriam-Webster Dictionaryには“imperfectly spoken or written”(不完全に話された、あるいは書かれた)、Oxford Advanced Leaner's Dictionaryには“spoken slowly and with a lot of mistakes; not fluent”(ゆっくり話され、多くの誤りを含む;流暢(りゅうちょう)でない)とあります。インターネットで検索すると、ノンネイティブの英語を指す向きもあって、ここまで行ってしまうと「ネイティブスピーカーが正しく操る英語以外はbroken」という、非常に厳しい基準になってしまいます。
不完全あるいは流暢でないということが、どの程度のものなのかは幅がありそうですから、厳しめに解釈すれば1%程度の誤りがあれば“broken”であるように思います。
1%というと厳格に感じられるかもしれませんが、原稿用紙1枚あたり4文字の誤りがあるということなので、たとえば文字認識(OCR)ソフトなら修正が大変で使いたくないくらいの水準です(OCRだと、もう1桁精度が高くても、実用上は支障があると言われます)。
しかし、ノンネイティブが操る言語ならば、相当にレベルが高い部類に入ると思います(筆者がふだん書く英語は、ネイティブには「ときとして誤りが見られるが流暢である」と評されるので、上記の基準ではbrokenかそうでないかというくらいのレベルだと思われます)。
■グロービッシュはブロークンでよいか
以上のように“broken”と「ブロークン」には随分開きがあるように思われますが、そもそも“Globish The World Over”では、Globishは“broken English”とイコールではないし、“correct English”であると言っているのです。(括弧内は筆者による訳で、意訳しています。)
It is not "broken English." It is another version of English to which no native English speaker was born. (グロービッシュは「ブロークン・イングリッシュ」ではない。それは英語のネイティブスピーカーが話さない、別なバージョンの英語である。補足:グロービッシュは英語のサブセットであるということ)。
Globish is correct English and it can communicate with the greatest number of people all over the world.(グロービッシュは正しい英語であり、世界中のもっとも多くの人々とコミュニケーションできる)。
We said Globish is still correct English. This means you are expected to write and speak in correct English.(グロービッシュが正しい英語であることは変わらないと述べた。それは、正しい英語で書き、話すべきことを意味する。)
■Globishの原典をガジェットで読む
グロービッシュの原典とも言うべき“Globish The World Over”には、Kindle版があります。
Kindle書籍では辞書を引くのが楽なので、端末をお持ちでない方もアプリで読まれるとよいと思います。本書もGlobishで書かれているという触れ込みですが、辞書を参照できた方が安心でしょう。
MacやWindowsでご覧になりたい場合は、以前のコラム「Kindleユーザーに贈るバッドノウハウ」のクラウドリーダーに関する説明をご覧ください。
ちなみに、本書はKindleオーナーライブラリーの対象商品なので、Amazonプライムに入っているKindle端末オーナーは無料で読むことができます(そう言えば、筆者も、そろそろ次の本を借りなくてはいけません。借りる期間に上限はないのですが、毎月1冊のペースでしか借りられないからです)。
次回は“Globish”を取り上げます。「2回連続で同じテーマではないか?」と思われたかもしれませんが、今回はやや変質してしまった「グロービッシュ」で、次回は元の“Globish”です。