髪盛ってるから森姫

「私はずっと未来への小さな約束をする」

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はじめに

 この度の東日本大震災により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様とその家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。

 そして各土地で為すべきことをなさっている皆様、ありがとうございます。震災当日、私は横浜にいました。気が付いたら電車は走っておらず、そのまま帰宅困難者として某施設にお世話になりました。

 一人きりだったので不安そうにしていたら、色々な人が話しかけてくださり、「これを食べなさい」と美味しい食べ物をいただきました。

 気が付いたらパーティーのようなメニューになっていて人の温かさがしっかりと身にしみました。電話とメール、Twitterなどでも励ましてくださったみなさま、ありがとうございます。

 お礼はこのぐらいにしておきまして、みなさまと同様ですが私も震災について少しかかせていただきます。この手の話が苦手な人は森姫先生の次回作にご期待ください。

無力感に苛まれる日々

 震災後はとある方のご提案により、西の方で療養しておりました。実は被災地に多数の友人を残してきてしまったわけなので、療養という気分ではありませんでした。ずっと自分を責め続ける毎日でした。

 世の中は、復興に向けて動いているのです。もちろん、被害を最小限に食い止めるために。それなのに、自分は温かい場所で温かいご飯を食べるだけの毎日。googleでは「Hack for JAPAN」という被災者を救うためのハッカソンイベントが催されており、私もなんとかして参加したかったのですが、自分で思いついたアイデアをノートに書きだしながら、ひたすら紙を破る気難しい職人のような時間を過ごして終わりました。

 アイデアは出てくるが、実装まで落とせず。そもそも思いついたアイデアが非現実的であったり。自分がどうしようもなく無力なのだ、と実感する、ただそれだけの悲しい日々でした。

誰にでもできることをひとつ

 私と同じような「なにもできない」という無力感に駆られている人は、きっと多いのではないのかと思います。コーディングもできず、仕様書もかけず、(普段なにやってんだ……っていう感じですが)ただ、与えられた毎日であるという無力感。そんな無力感にかられながらも、私は思うのです。私には、声があるではないかと。文字を書くことができる手があるではないかと。

 私は被災地の友人に向けてメールを送りました。「必ず、来週は東京で会いましょう」

ただ笑顔で「必ずまた会いましょう」という約束

 これはIT技術者でなくてもできる簡単な「人へ明日への活力を与える方法」です。自分と会う約束をすることで、その人が「この人と会うために、せめてこの日まではがんばっていきよう」と思ってくれる。そして、その日に会うことができたら笑顔で「次は、来月またここで会いましょう」という約束をするのです。

 そうすれば、その人はまた来月に向けて歩いてくれるのです。「約束」は頭の中に強く残ります。瞬間としては忘れてしまうものかもしれませんが、頭の片隅に居続けることができます。

 ふとした時……、たとえば何気なく温かいものを飲んでいるときや、歩き疲れてもう倒れたいと思ったときなどに「そういえば、約束していたような気がする」と思いだすことができます。その時に、約束という言葉は強い力を発揮します。約束したのだから、また会わないといけない。生きなくては、ならない。

継続的に行う約束

 私は直接、大きな震災にあったことはありません。ですが、幼いころに見た「震災の映像」の記憶が鮮明にあり、なにか震災が起こるたびにその映像が頭を駆け抜けとても苦しい思いをします。

 震災を受けていない私ですら、精神を病んでしまうほどになってしまうのだから、震災を受けた人はもっと強い記憶として一生付き合っていくものになると思います。

 震災を受けた直後は、色々な人が手を貸してくれます。それは今の世の中でよくわかります。ですが、5年後、10年後も同じように力を貸してくれるわけではありません。本当は同じように力を貸してくれる世の中ではなくてはならないのですが、記憶は風化します。

 だからこそ、1人1人が「小さいながらも継続的に行える救助方法」を身に付けて、ずっと行う必要があると思うのです。

 それが、「未来への小さな約束」です。

小さなものを大きなものへ

 明日の約束をする、明後日の約束する。そして、それが達成できたら大きな笑顔で迎える。約束と笑顔、これらを毎日することはITエンジニアでなくてもできます。私のように能力がないものでもできます。

 小さな約束が達成できるようになれば、同時に大きな約束をもっていいんじゃないかなと思います。たとえば、「将来、人の役に立つエンジニアになる」とか。

 ただ、大きな約束はブレやすいので、小さなものをコツコツつみあげていくことが重要です。小さな力が大きくなったら、大きい力が人を襲った時に助ければいいだけなのです。

 私も、そうやって被災地の人に言葉をかけていくうちに「来週はこの人に会うから、体調を整えておかないと」という気持ちになれました。被災地だけでなく、私と同じように映像だけでなにかを思い出して苦しんでしまう人や強い立場にあり、人に弱みを見せることができない人に対してのみならず全ての人に有効です。

 ただ、ひとつ。「約束は、果たされるためにあるもの」ということを念頭に置いてください。

好きです

 数日前に友人に会うために東京に戻ってきましたが、すっかり活気がなくなってしまったように見えますね。震災後、友人に会うとすごく笑顔になれます。無事でよかったと。

「今はこうして言葉をかけることしかできないけど、将来はきっと良いシステムをつくるから」

 では、そのために今日はなにをしようか……と思いながら、また「未来への小さな約束」をつくっていきます。「また来週、会いましょうね」

 では、みなさん次回のコラムでお会いしましょう。

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