【書評】レッドビーシュリンプの憂鬱:罪と罰
今回、リーベルG さんの Press Enter■ で連載されていた「罪と罰」が、タイトルも改め出版されるにあたり書評を書かせていただける機会をいただけましたので、あらためて思うところを書かせていただこうと思います。
とはいっても、相手はここエンジニアライフで最も読まれていると言ってよいほどのタイトル。多くの人が実際に目にされていたことと思います。改めて書くようなことはあるか、と言われると非常に難しいのですが、自分の思う IT 業界の姿と併せて色々思うところを書いていこうと思います。
■エンジニアは常に勉強していく必要があるか
私自身のスタンスとして自分のコラムでも時々扱いますが、この業界でやっていくならば常に勉強していくことは必須だと考えています。それは例え年齢を重ねたとしても同様で、常に自身の引き出しを増やしていけるよう、開発技術を向上させていく必要があると思います。安くはない費用をユーザーに出してもらい開発を行う場合でも、一般ユーザーを相手にサービスを提供する場合でも、どちらでも全く同様で、そうすることこそが利用者にとって最も良いシステムを提供できるようになる、ただ一つの手段だとも思っています。
残念ながらこの業界には、言われたことだけをやる、言葉は悪いですがサラリーマンプログラマ的な方々というのも非常に多いです。そのような考え方、生き方があることは否定しませんが、私の思う IT 業界のエンジニア像としては含みたくはないというのが本音です。
その時に持てる技術を用いて最適なシステムを提供する、次に同じ要件が発生した時にはさらに良いものを提供できる、エンジニアとしてはそうあるべきではないでしょうか。
■向上心のないエンジニアは切り捨てるべきか
作中のテーマの一つでもあるこの話題、決して正解が一つだけに収まる類のものではないのは承知しています。先のエンジニア論と同様に、多くの人たちが多くの考え方を持っているのが当然ですので、切り捨てることが正解かも知れませんし切り捨てないことが正解なのかも知れません。
それを踏まえたうえで私の考えるのは、何を最優先に考えるか、というところがまず重要だと思います。私の中では、作り上げたシステムがユーザーのためになる、これがまず第一にクリアしなければならない点だと考えています。そしてそれは時代とともに良しとできる回答は進歩し、10年前に良しとされているものであっても今のご時世では不可となるものが多いです。
それを満たすためにも、向上心のないエンジニアについては切り捨てられても仕方がない、というのが私の考えです。勉強したくない、今のままでやっていきたいと思うこともあるかも知れません。ですが、自分はエンジニアを続けていこうと思える限りは、アンテナを広げできるだけ色々なものを見聞きし、身につくよう手を動かしていくのが必要だと思います。
■年齢を重ね最新技術についていけなくなったエンジニアは切り捨てるべきか
上のテーマに関連して扱われている話題です。私もそれなりにいい年齢となってしまっているので、気持ちはわからなくもありません。特に SNS などが発展したこともあり、非常に有能な若い人たちの活躍がいくらでも目につきます。それを見るたびに、自分がそこに追いつけないだろうな、と感じることが殆どです。
だからといってそこで何もしない、現状を維持することを選択するのであれば、それはエンジニアという職業でやってはいけないことだとも思います。作り上げたシステムがユーザーのためになる、それこそが第一にクリアする課題である以上は、IT 業界としてもそのような体制を是としていなくてはいけない、年を取ったからと言って現状維持を許していてはいけないのだとも思います。
正社員であれば安定して雇用され続ける、それがあてはまってはいけない業界の一つが IT 業界なのではないでしょうか。
改題されたタイトルとなっているレッドビーシュリンプは、作中でも説明のあった「グレードの低い個体を残しておくと、高グレードの個体の血統を薄めてしまう」事象を表すのに用いられたものです。それと同様の状況は、IT 業界に確実に起きています。もちろん、業界に関わる人すべてを高グレードな品質にすることは不可能です。働きアリなどと同じように、一定の割合で高グレードと呼ばれる層とそうでない層とに分かれることは避けられません。それは永久に付きまとう問題で、どこまでを目指すかという程度問題でもあります。
ただ間違いないのは、今の状態ではシステムを使う側にとっても良い状況ではない、ということです。質の悪いシステムしか提供できないのでは、私達開発側それ自体がいつか淘汰されてしまうことでしょう。そうならないためにも、年老いたとしても常に先を目指すことを良しとできる業界へ、私たちも含めその意識から変わっていくことが求められているのではないでしょうか。
色々書きましたが、この作品は業界に関わる人であれば考えさせる点が多い素晴らしい作品だと思います。今回の改版にあたり、特別篇としてとあるエピソードも追加されていますので、原作のファンの人も一度手にしてみるといいのではないでしょうか。