地方エンジニアが感じる地方・中小企業での悩み

わたしの常識はあなたの非常識

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 「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう

 理論物理学者アルベルト・アインシュタインの言葉だそうで、個人的に気に入っている言葉の1つです。ここでは常識という言葉が使われていますが、他にも似たような意味合いの言葉として「普通」ですとか「一般的」ですとか、平均や標準を表すような言葉があるかと思います。「普通~だね」や「一般的に~だよ」という使い方になるのではないでしょうか。

 しかし、ここにはちょっとした罠が潜んでいるように思えてならないのです。

 皆さんがこのような言葉を用いるシーンをイメージしてみてください。どのようなシチュエーションでも構いませんが、例えば、設計について議論をしているようなケースでもいいでしょう。色々意見を交わした末にこの言葉を使った、そのような流れでしょうか。会話の中で「普通」などの言葉が出るケースでは、ほとんどの場合「話している相手と意見が食い違う」などの場面になると思います。もしくは「そうだよね」という肯定の意味合いを込めて使う場面になるのではないでしょうか。

 肯定の意味合いで利用するケースではさほど問題はないと思いますが、反対に意見の食い違いが元となってこの言葉を使った場合は要注意です。この言葉が出たということは自分と相手の考えに違いがあり、なおかつ自分の意見を正しいものとして会話を進めてしまっているからです。ネックは「自分の意見を正しいものとして」です。

 恐らくはあまり意識して「普通」などの言葉を発していることはないかと思います。わたしもこんなことを意識して喋ったことはまったくといっていいほどありません。ですがそれだからこそ気をつけなければならないと思っています。

 あなたは自分の考えていることが本当に正しいと自信を持って言えるでしょうか? 言えるとしたらその根拠はハッキリとしたものでしょうか? こう書いてしまうと非常にデジタル的な考え方と思われるでしょうが……。

 ここでちょっとした例をあげてみます。システムのヒアリングにて実際にあった話です。

ユーザー 「今回のシステムはクライアントが増えていくことを前提にしてほしいんですよね」

SE 「そうなるとセットアップ手順を用意しますのでそれに従って作業してもらうことになりますね」

ユーザー 「え、面倒ですね。何か自動でインストールとかそういうのはないんですか?」

SE 「普通はそういうことはしませんよ? インストールは手作業で行うのが一般的ですね」

 恥ずかしながらここでSEとして作業していたのは同じ会社の先輩でしたので、その場で反論したりすることが当時のわたしにはできませんでした。今でしたら「いや、それはない」と身内であっても思い切り切り捨てるのですが。

 話をしている本人にとってはインストールを手作業でマニュアル片手に行うというのは「普通」であったでしょう。ですがユーザーや、横で聞いていたわたしにしてみるとそれは普通ではなかったのです。もちろんどちらの言い分が間違っているというものでもありません。手作業でのインストールも状況によっては当然ありえます。

 しかし時代が進み、現在では、システムの規模によってはActiveDirectoryを利用した配布、ターミナルサービス利用やAPP-Vなどの仮想アプリケーション技術を利用した配布を行わないタイプ、ClickOnceなどの技術を利用した配布、など一口にインストールといっても様々な方法が用意され、利用するにあたりその敷居は年々下がってきていることと思います。

 このように日々進歩していく技術を踏まえると、以前は普通であったことも普通ではなくなることが数多く発生しているのが感じられるのではないでしょうか。

 SEとして打ち合わせを行っていく上で、このような場面は発生しやすいものだと思います。自分の常識が必ずしも相手の常識ではない、相手には今までの経緯などから自分とは異なった観点での常識を持っている。まぁ、SEに限らず日常生活を過ごす上でも心掛けたいところです。わたしにはどうしても常識というものは、自分と他人との間で必ず一致するとは思えないのです。むしろ「一致しないものだ」と思っている方が楽です。

 広告や記事などにおいてはこのような表現はよくみかけられると思います。ですが大体にしてそれらは普通でも一般的でもありません。広告を出す側として、また記事を書く人間にとってそう思ってもらいたいから、そういう表現を使っているのです。

 また、アンケート結果から「普通」を読み取ろうとする時にも注意が必要です。アンケートの結果からある程度推測することは可能なのですが、そこには「ある特定多数のアンケートの対象」という大前提があります。ネット上で行うアンケートであれば、当然「ネットにつなぐ環境を持ち、アンケートサイトなどに登録している」という条件をクリアした方達が対象となっています。こう書くと、意外とその対象となっている層は狭いと思いませんか? 雰囲気からして、この集計結果は不特定多数の人がそう思っていると惑わせてしまう点が気をつけるべきところだと思います。

 ちなみにこの考え方ですと、新聞・雑誌等で利用されるのも同じようなものだと思えるでしょう。何事も他と比較することによって見えるもの、感じることが増えてきます。

 もし会話の途中で「普通」などの言葉が出た時はその内容を疑ってみてください。

 「それは本当に普通で当たり前のことですか?」

 ……意図的にこの言葉を使うケースもあるから難しいんですけどね。広告などは、そう思い込んでもらいたいために使うこともあるといいます。

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