MBAより簡単で英語より大切な決算書を読む習慣を読んだがさっぱり分からなかったので別の観点で読み解いて書評を書くことにした
絶対に自分が読まない本を読んでみた
書評を書かないかという依頼が来たので受けてみた。書名は「MBAより簡単で英語より大切な決算書を読む習慣」だ。他のコラムニストの方々書評を書いているのでご存じだろう。そもそも、私はMBAが何の資格かよく知らない。MBAと言えば、真っ先に浮かぶのが Mac Book Air というレベルだ。自分の思考は個人から全体をみる傾向が強い。大きな枠組みからものをみる観点を学ぶのにいいかと思いこの本を読んでみることにした。
と思って読んでみたが、全く頭の中に入ってこないし、何が言いたいのか理解できない。金の流れに関する話に全く興味が無いからだ。資本主義を全面否定するような考え方だが、「一つの組織が無制限に成長できる訳が無い。」という前提でこの本を読むと話が成り立たない。平家物語の書き出しを引用して「諸行無常」とか「盛者必衰」で片付いてしまう。
全く頭に入ってこないが、通しで三回くらい読んでみた。そこで分かったのは、本の内容ではなく著者の理論の組み立て方だ。データの引用が非常に上手い。個人的な感想に走らずに、データを元に丁寧に話を組み立てている。データをピックアップする基準については、私が理解できていないので言及できない。多くの情報を元にしたバックボーンの強さは読んでみて感じ取れた。
ITに全く興味の無い人が技術書を読んだりITの話をされると、こういう風に見えるのだとよく理解できた。言葉、一つ一つの意味は分かるが、言葉を繋げた先の意味が、どこか彼方に流れていくのがよく分かる。「読めば分かるだろ」は机上の空論だ。興味の無いものを人に理解させるには、単に情報を押し込むのではなく、きちんと道筋を示す必要があるのだと痛感した。
堅実な理論の立て方
この本の著者が私のコラムを読んでコメントを付けたとしたら、非常に良いコメントを付けてくれると思う。情報の意図を読み取るからだ。人間が発信した情報というのは、必ず意図がある。理論的に話したいのであれば発信した人間の意図を理解することが前提になる。でなければ、話がかみ合わず、お互いが正しいことを語っても、パラレルで話が進んで理論が破綻する。
この本を読んでみたところ、どうやら決算書の意図を理解しろということのようだ。市場の傾向っぽいものが色々書かれているが、これは著者が予想して書いたものではない。企業が公式に出した情報から読み解いた内容だ。自分が調べなくても、情報を持っている人が言ったことを正しく引用することで説得力が増すのがよく分かる。
この本を読んでも決定的新ビジネスのチャンスが書かれている訳でもなし、斬新な未来予測が書いてある訳でもない。そういう内容を求めている人にとっては、本書は退屈な内容かもしれない。むしろ、淡々と理論の組み立て方を丁寧に書いている。決算書云々は結局分からなかったが、考え方の組み立て方からいろいろ学び取れた。
相手にハッと言わせたいなら、一割のぶっ飛んだ内容に対して九割理論で固めていくという書き方をする。本書は十割理論で固めてる。本書の使い方は、高いところに置いた物を取るときに使う踏み台だ。より、高度な内容を勉強をするための踏み台として非常に役に立つ内容だと思う。ただし、私のように踏み台の高さに達してさえいない人であれば、もっと根本的な説明が書いてある本を選ぶといいだろう。
決済に限らず人の書いたものを読み解く習慣
論理性を追求する人は多いが、人の話を適切に理解しようとする人は少ない。正確に言うと、理解しようとはするのだが、話の聞き方が間違えていたり、自分の言いたい事が先行してしまう。人の話を聞くというのは訓練が必要だ。
私はヘルプデスクの電話対応でこの訓練をやった。現場の先輩方が優秀だったおかげで、非常に鍛えられたと思う。人の話を聞く力は単なるコミュニケーション能力と片付けられやすいが、れっきとした手法が存在する。友達の気持ちや空気を読むのと、お客様から事実を聞き出すのは別だ。
この本を読み込めば、人の書いたものの意図を読み取る力が鍛えられると思う。決済書を読んで何を把握すべきか明確にしている。把握すべき目的に対して何をどう読めばいいか、本の最初の方で丁寧に説明してくれている。そのやり方に沿っていけば決算書を読み解けるようになる。このプロセスが、正に人の書いたものの意図を読み取るプロセスになっている。
人の話を聞けるようになるには、人の話を聞く人のやり方を見るのが一番だ。フィーリングや顔色をうかがうだけでは越せない壁がある。決算書を読むのも同じだと思う。読み方を覚えて繰り返してこそ見えてくるものがあるのだと。決算書については全く分からなかったが、繰り返す習慣の大事さは共感できた。
考え方は他でも活かせる
私は経済やら会社の戦略云々には全く関心は無い。確かに、世の中を支えている仕組みなので、多くの人が知っておくべきことではあるだろう。だが、いちいち全ての事柄に対して「知るべき」を網羅していたら、それだけでも相当な労力だ。全ての人に要求するには無理がある。
知らずとも、無関心であってはいけない。私としてはそのくらいに留めている。でなければ、違う価値観の人と話ができなくなってしまう。自分と違う価値観の人というのは、当然自分と違う考え方をする。そのためか、自分に無い能力を持っていることが多い。話していて、非常に学ぶことが多いのだ。
経済やら企業活動にばかり気を取られていると、社会問題や自然環境の破壊、資源の消耗に気づかずに足元をすくわれるというのが私の考え方だ。これをもし、人につたえるのなら本書と同じアプローチをするだろう。いろいろな団体の公式文書のエッセンスを絞り込んで、淡々と説明するだろう。
考え方や視点は違っても、事実の伝え方に共通するところは多い。そして本書は事実の伝え方が上手い。決算書を読む習慣の大切さはいまいち分からなかったが、事実を元に組み立てる考え方には共感できた。本書のようなロジックが組み立てられるようになれば、人を説得する力が非常に増すのではないだろうか。ロジックの組み立て方という観点で本書を読むと、別の面白さがあるかもしれない。
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