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【小説 パパはゲームプログラマー】第二十四話 勇者の国4

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「これで一発当ててみない?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべるジェニ姫の手の平には、白い横長の物体『ゲーム』があった。

「なるほど」

 僕のスキル『商才』が発動し、頭の中で今後の展開が閃いた。
 ゲームをこの国で売る。
 きっと流行るだろう。
 だって面白いんだから。

「いいですね!」

 僕は何度も、ジェニ姫からゲームを借りて遊ばせてもらった。
 これほど空き時間を、楽しませてくれるものは無い。
 ゲームは主人公の勇者が仲間を集めてパーティを組み、魔王を倒すという内容だ。
 主人公が死ぬと、スタートからやり直しになる。
 いわゆる、死に戻りというやつだ。

「私、まだ魔王を倒したことないんだー。だって難しいんだもん。だけど、皆、やり出したら、いつか誰かクリアするかもね」

 子供の頃からゲームを遊んでいるというジェニ姫でさえも、まだ魔王を倒せていない。
 それくらいゲームは難易度が高かった。
 ゲームは、何度スタートから繰り返しても同じ展開にならない。
 例えば、主人公の初期ステータスとスキルがランダムに決まる。
 これだけで、前回までのプレイの記憶が参考にならない。
 まさに、前世の記憶を消された状態だ。
 敵もこちらのステータスとスキルと行動を考慮したかの様な動作を取る。
 裏をかかれたプレイヤーは死ぬしかない。
 要は、これといった攻略法がないってこと。
 プレイの度に臨機応変に対応出来ればクリア出来るかも......そんなの無理!

「けど、これ、どうやって作ればいいんでしょうか?」

 僕の素朴な疑問だった。
 これを大量に作る技術は、この世界にあるのだろうか。

「ふふん。私はゲームを駆動させる携帯充電器《モバイル・バッテリー》を開発した女よ。魔法機器を作る技術を応用すれば、こんなものいくらでもお手の物よ」

 ジェニ姫は胸を張り親指を押し当てた。
 確か、ゲームを分解したことがあるとか言ってたな。
 その時に、作り方の当たりもある程度つけていたのだろうか?

「材料は?」
「大丈夫よ。ユルフンさんの店に沢山、適当な素材があったから」

 なるほど。
 僕が牢獄に閉じ込められている間、ジェニ姫なりに色々と考えてくれてたんだなあ。
 ツンケンしてたかと思うと、優しくなったり、実はものすごく僕に気を使ってくれてるんだなあ。
 同じ目的を持つ仲間として、心強いよ。

「じゃ、早速、ユルフンさんの店に行くわよ」
「まっ、待って!」

 僕はソウニンが戻って来ても困らない様に、行く先を置手紙に書いておいた。
 それを机の上に置き、飛ばない様に重しを乗せて置く。
 ジェニ姫は白いローブをはためかせながら、表に飛び出した。
 僕はその背中を見ながら思ったんだ。

 この世界がゲームみたいに何度もやり戻せたら、僕はどうするかなって。

 きっと、僕はパーティに入らない。
 無理やり加入させられない様に、僕はマリナを連れて辺境の地へ逃げる。
 そして、二人で誰もいない、誰も邪魔しに来ないその地で、死ぬまでずっと一緒に暮らす。

 あれ?

 これって、今の記憶があればこその行動なんだよな。
 ゲームだと死ぬ前の記憶がある......
 だけど、現実世界は死ぬ前の記憶何て無くて......

 もしかしたら、僕は何度も死に戻りを繰り返しているのか?
 否、そんなはずは......
 だけど、僕は産まれる前の記憶が無い。
 だから、ゲームみたいな死に戻りを繰り返していることを否定出来ない。

「ああ! わけが分からなくなって来た!」

 街の喧騒の中に飛び込む。
 圧倒的な情報量の前に、そんなことはどうでも良くなった。

 ユルフンはさっきからずっと、ゲームをプレイしている。
 目を皿のようにして、真ん中の透明ガラスをじっと見ている。
 ユルフンの瞳には、ゲームの主人公が敵と戦っている様子が映り込んでいる。

「あ~っ。やられた」

 悔しそうに呻くと、カウンターにゲームを置いた。

「どう?」

 ジェニ姫が、その価値がどうなのか問う。

「うーん。面白いね。これは皆、欲しがるんじゃないかな。問題はどう作るかだよな」

 ユルフンも僕と同じ疑問を持った。

「この店にある素材で作れると思うの」

 ジェニ姫の視線の先には、銀、銅、金、鉄で出来た武器や防具が並んでいた。
 
「あれでどうやって?」
「ゲームは電気で動いてるの」

 ジェニ姫はゲームに接続されている携帯充電器《モバイル・バッテリー》を指差した。

「電気?」
「雷の魔法よ」

 そして、ジェニ姫は器用にゲームを分解して見せた。
 緑色の板の上に無数の銀色の線が並んでいる。
 真ん中には黒い真四角い板があった。
 その横に、横長の黒い板がある。
 そこには『A GAME SOFTWARE』と書かれていた。

「STARTボタンを押すと、電気がこの銀色の線を通って、この黒い真四角のエンジンを駆動させるの。そうすると、横長の黒い板の中にあるゲームが開始されるの」

 分解したままの状態で、STARTボタンを押す。
 部品が熱を持った。
 電気が通ったという証拠か。
 透明ガラスがボワッと光り、ゲームが表示される。

「銀色の線は銀、銅、金、鉄で出来てるの。そこの武器や防具を溶かせばすぐに用意出来るわ」
「おいおい、勝手に売り物を素材にするなよ」

 ユルフンが困った顔をする。
 だが、口角がちょっと上がってるところを見ると、この商売に乗り気の様だ。

「問題はエンジンとゲームの中身をどう作るかだよな」

 ユルフンが腕を組んで考え込む。
 こればっかりは、ここにある素材では難しいか。

「私も解析しようとしたんだけどね......。特にゲームの中身は0と1の羅列しか見えなかった」
「二種類の数字だけで、ゲームの中身が作られてるって訳かい」
「0101これがランダムに繰り返されてたの。意味が分からないわ」

 僕は話についていけなくなっていた。
 ジェニ姫は何らかの魔法でゲームを解析しようとしたけど、難しくて無理だったのだろう。
 
「お二人さん」
「はい」

 僕の声掛けに、二人同時に応答した。

「作るのが難しいなら、そっくりそのままコピーすればいいのでは。それこそ、物体を複製出来るスキルを持つ人を探すとか......」

 そんなスキルを持つ人がいるか分からないが、とりあえずアイディアとして言って見た。

「ありかもね」

 ジェニ姫が手を打った。
 僕らはギルドに向かった。

「いるわよ」

 ギルドマスターのヒロコが事も無げに言う。

「無機の方ならね。さすがに有機の方はいないわよ」
「無機? 有機?」
「無機は、そうね例えばこの机とか椅子。有機は、君みたいな人間。つまり生き物」

 なるほど。

「無機の方で」

 紹介されたのは、中性的な顔立ちの背の小さい少年だった。
 名前はハルト。
 二重瞼で目がくりくりしていて、マッシュルームみたいな黒髪が可愛らしい。

「僕、この前ガチャで『複製』ってスキルを身に付けたんだ」

 得意気にサムズアップする姿が、無邪気で男の子って感じ。
 そのガチャは、ハルトで打ち止めになって消えたらしい。

「素材さえ用意してくれれば、同じものを増やしてあげるよ」

 こうして、僕らはハルトにゲームを増産してもらった。
 彼のスキルレベルだと一日10台が限度だった。
 報酬はゲームが売れてからということで、我慢してもらった。

 そして10日後、100台のゲーム機を前にした僕とジェニ姫とハルト。

『ルキ堂』

 ゲームを売る店の名前だ。
 キャッチコピーは『いつでも、どこでも、楽しく』。

 そして、ゲームは飛ぶように売れた。
 街の人が至るところでゲームを持ち歩いて、遊んでいる。

「中ボスを倒したよ」
「すごいな。俺はやっと最初のダンジョンを攻略したよ」

 街の人同士で攻略方法を話し合っている。
 だが、それは無意味なことだった。
 なぜなら、ゲームの主人公はプレイヤーごとにそれぞれ異なるステータスとスキルを持っていて、なおかつ、冒険の舞台となる世界もまた異なるからだ。

「すいません。売り切れです」

 僕はせっかく買いに来てくれた人に、頭を下げてばかりいた。
 もっと増産しないと人々の期待に応えられない。

「僕、頑張るよ」

 ハルトは額に汗して、健気にゲームを量産し続けてくれた。
 彼の両親は無実の罪で、親衛隊に捕らえられ牢獄で非業の死を遂げたそうだ。
 僕らとこの悲運の少年はグランに復讐するために、協力し合った。
 ハルトはスキルレベルを日に日に上げて行った。
 一日当たり10台が限界だったが、今では100台まで出来るようになった。
 だが、『複製』スキルの発動は、過度のHPを消耗するらしい。
 体力を回復させるためのポーションが足りず、生産性が頭打ちになって来た。
 需要に応えきれていない。
 その内、国民の間でゲームの希少価値が上がって行った。
 僕らを通さず人々の間で直接ゲームの売買が行われる様になった。
 
「なんだこれ! 偽物じゃないか!」

 ある日、メガネを掛けた爺さんが怒鳴り込んで来た。

「どうしましたか?」
「どうしたもこうしたも無いよ! こんな偽物つかませやがって! 金返せ!」

 話を聞くと、どうやら爺さんはルキ堂からではなく、街の誰かから直接ゲームを買ったらしい。
 しかも、ルキ堂が売ってる価格の10倍の値段でだ。
 爺さんは喜び勇んで、いざSTARTボタンを押すと、ガラスの画面に『バカ』と表示されただけで終わったそうだ。

「それは、私達のせいではありませんよ。お爺さん」
「何だと!? お前らが品切れさえしなければ、わしは少ない年金をだまし取られずに済んだんだぞ!」

 爺さんのメガネレンズは後悔の涙でグショグショになった。
 僕は気の毒だなと思ったが、どうすることも出来ない。

「はい。あげる」

 ジェニ姫が僕の横からそっとゲームを爺さんに渡す。

「いっ......いいのかっ?」
「いいわよ。その代わり、おじいちゃんに偽物を売りつけた奴らのこと教えて」

 ジェニ姫は僕らの商売の邪魔する奴を見逃さないらしい。
 爺さんから詐欺集団の特徴を聞くと、

「行ってくる!」

 そう言い残し、店を出て行った。
 数時間後、顔をボコボコに腫らした詐欺集団のボスと一緒に戻って来た。
 ボスの首には縄が掛けられていて、ジェニ姫がその縄の先端を握り締めている。

「すごいですね! この広い街ですぐ見つけられましたね!」

 僕はその行動力と探索力に舌を巻いた。

「おじいちゃんは自分の家の近くで偽のゲームを買ったって言うから、私もその近くで偽のゲームを売ったの。まぁ、正確には売る振りをしたのだけどね。で、やっぱりこの詐欺野郎が路地の奥から出て来て難癖付けて来たわけ」

 ジェニ姫は詐欺ボスに拳を振り下ろそうとした。

「ひっ! すいません!」

 詐欺ボスが頭を両手で防御する。
 ジェニ姫は拳を引っ込めてこう続けた。

「俺の縄張りで何やってんだって言うから、返り討ちにしたの」

 サラサラの銀髪を手ですきながら事も無げに、言う。
 儚げな美少女はどんな暴力をふるったのか。
 味方だとこれほど頼もしい女もいないな。
 敵に回すと危険な女だけど。 

「あんたはゲームの評判を落とした。このままただで帰らせるわけにはいかないわ。一緒に働いてもらいます」

 こうしてジェニ姫は詐欺集団と『白銀子猫党』というギルドを作った。
 まずはハルトの生産性を上げるために、ポーションの元となるスライムの欠片集めを始めた。
 毎日、大量のポーションが手に入ることで、ハルトのHPは常に回復状態となった。
 つまり、『複製』スキルでより沢山のゲームが作れるようになった。

 忙しい、毎日。
 店を閉め、店の二階で食事を終え、寝るまでのひと時だけが落ち着く時間だった。
 僕は屋根の上に座って星を見て心を癒すのが日課だった。

「ね、ここに座っていい?」

 天窓からジェニ姫が顔を出して問い掛けて来る。

つづく

Comment(4)

コメント

桜子さんが一番

ゲームが伏線すか。

VBA使い

顔をボコボコに腫らした詐欺集団のボス
→ジェニ姫だから、氷攻撃で霜焼けだらけにされたんだろう((( ;゚Д゚)))


大量のポーションが手に入ることで
→(勝手に補完)
きっと、東の国のカズシが良質のスライムの欠片を流してくれて、南の国のミナージュがポーションを作ってくれて、西の国のクシカツが配送してくれたんだ

湯二

桜子さんが一番さん。


>ゲームが伏線すか。
一応タイトルにもある様に、伏線になってますが、あまり気にしなくても大丈夫です。

湯二

VBA使いさん。


コメントありがとうございます。


>霜焼け
ドライアイスを投げつけられるようなもんですからねー。


>(勝手に補完)
あえて何も書かないことで読者に頭の中で想像させる。
小説の醍醐味です。
※ただ作者が思いつかなくて書いてないだけかも。

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