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【小説 パパはゲームプログラマー】最終話 ハッピーエンド

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 僕は老人の家を後にした。
 結局、黒い粒(老人が言うには『万能薬』)は手に入らなかった。
 落胆している暇は無い。
 老人が指定した金額(それは驚くほどの金額だ)を稼ぎ、万能薬を買い取らなければ。

「それにしても、変な爺さんだったな」

 数分前の老人とのやり取りを思い出す。

 老人は自らのことを『神』と自称した。

「人間はわしが、泥をこねて作ったのじゃ」
「本当ですか?」

 僕は老人の機嫌を取ろうと、話に乗る振りをした。

「この世界はわしが作ったものじゃ」
「それはすごいですね。じゃ、この世界はお爺さんの思い通りになるということですか?」
「それがの、そうもいかんのじゃ。一度作ってしまったものは、わしの手から離れてしまうのじゃ。だから、見守るか、こうして間接的に関わるしかないのじゃ」

 老人こと、神はあぐらをかき、ふくらはぎの辺りをポリポリ指でかきだした。

「見守るとおっしゃいましたが、具体的には?」
「そうじゃな、人間が間違った方向に進んでないか、とか」

 この老人が神だとしたら、彼は僕の復讐をどう判断したのだろうか。

 僕はディオ王国に戻ると、早速、商売に専念した。
 神である老人は、僕のジェニ姫への愛を試している。
 僕はそう思った。
 愛があれば、神が指定した金額を、一生懸命働いて稼ぐことが可能なはずだ。

 僕は24時間働き続けた。
 自分のスキルが尽き果てるまで、全力で知恵を絞り、思いつく限りの商売を実践して行った。
 そして、時は流れて行く。

「ユメル王国とメルル王国が戦争を始めるそうじゃ」

 ディオ王が僕を城に呼び寄せ、そう話した。

「戦争......ですか」
「我が国とメルル王国は同盟を結んでおる。この戦争に同盟国として参加するつもりじゃ」

 僕は自分が何で呼ばれたか、何となく理解した。

「武器を生産しろというのですか?」
「そうじゃ」

 僕の会社は大きく発展し、王国には沢山の工場を持っていた。
 その工場の一つでは、ディオ王国の自衛のための武器や魔法兵器も作っている。(僕は武器なんて作りたくなかった。だけど、ディオ王の依頼で自衛のためならと百歩譲って作っている。あとお金のためもあるが。)

「ディオ王様。グランとマリクが去り、王国は平和になりました。その平和を壊すのですか?」

 僕の訴えを、ディオ王はこう退けた。

「ケンタよ。戦わなければこちらがやられてしまうのじゃ。そうなってからでは手遅れなのじゃ」

 時の流れは人の心をも変えてしまうらしい。

「この戦争は国を挙げての一大事業じゃ。お主にも莫大な報酬を授けよう」

 僕は、莫大な報酬のために、ディオ王の間違った選択に従った。

 戦争は5年目に突入した。
 この世界にある7つの大陸間で血で血を洗う醜い争いが続いた。
 ある者は友人同士で争い、ある者は兄弟同士で争い、ある者は親子同士で争った。
 ある場所では恋人同士が引き裂かれ、ある場所では家族がバラバラにされた。
 犠牲になる者は底辺の弱い者達ばかりだった。
 皮肉にも、戦争が続けば続くほど、僕の会社は儲かった。

 そして、戦争が終わった。
 10年間も続いた。
 世界は歪んだ形になってしまった。
 

 僕は遂に、神が望む金額を稼ぎ出すことに成功した。
 人々の犠牲の上で、僕は自分の希望を掴んだ。

「神様、万能薬を僕に売って下さい」

 僕は息を切らせながら、老人の家に飛び込んだ。

「すまんのう」

 神は僕に背を向けたまま、そう言った。

「どういうことです?」
「一足早く、買い手が見つかったのじゃ」
「え?」

 僕は背後に人の気配を感じた。
 僕は振り返った。

「ケンタ......」

 長く美しい黒い髪。
 僕より頭一つ高い背丈。
 優し気な顔には大きな黒い瞳。

「マリナ......」

「ケンタ、あなたがどうしてここに?」
「マリナさんこそ......どうしてここに?」

 約10年振りに、僕とマリナは再会した。
 マリナは僕より10歳年上だけど、昔のまんまだ。
 つまり若々しく美しい姿、そのままだった。

「おお、もう来たか。もう薬は出来ておるぞ」

 神はあぐらをかいたまま、マリナを手招きし呼び寄せた。
 マリナは僕の横を素通りして行った。
 そして、神の横に座る。
 神はマリナに小瓶を手渡した。

「ありがとうございます」

 黒い液体が入ったその小瓶を、マリナは丁寧に手に取った。

「神様、それは一体?」

 僕はそれが何かは何となく分かっていたけど、確かめずにはいられなかった。

「沢山の黒い粒をすり潰して作った『万能薬』じゃ」

 僕はマリナがどうしてこれを欲しがっているのか、そして、これを手に入れるための金はどうやって集めたのかを確かめたかった。

「ケンタ」
「はい」
「あなたも、これが欲しいのね」
「は......はい......」

 マリナは神に金を渡すと、僕を連れて外に出た。
 僕はマリナと久々に会話をすることになった。
 神の家を出て、少し歩いたところにある森の中。
 そこを二人、歩きながら。

「グランがね、病気なの」
「はい」
「どんな治癒魔法でも、どんな医者でも治せない死を待つだけの病気なの」

 マリナの横顔は憂いに満ちていた。
 僕はグランにちょっと嫉妬した。
 そして、昔の恋人に意地悪な質問をしてみたくなった。

「マリナさんは、やっぱりグランのことが好きなんですか?」
「ふふふ。魔法が解けたから今は、どうだか......。でも、彼は私の大事な息子の父親だから」

 自嘲するかの様な笑みを浮かべるマリナは、時が経っても、やっぱり僕の知っている優しいマリナだった。
 
「ケンタはどうして?」
「はい。僕は、ジェニ姫を助けるために頑張ってお金を貯めました。だけど......」

 僕はここに至る経緯を話した。
 そして、マリナの持っている小瓶を見つめた。
 それに気付いたマリナは、僕に向き直り頭を下げた。

「ごめんなさい」

 マリナは、何故、金を用意出来たのか。
 マリナはシスターとして、戦争の犠牲になった人々を治癒して回った。
 彼女は無報酬を望んだが、助けてもらった人々は彼女に金を払った。
 僕もそうであるように、他の人々も彼女の慈愛に触れると、礼をせずにはいられないのだ。
 その金でマリナは教会と孤児院を作り、沢山の戦災孤児を養った。
 グランも夫として、彼女を支えた。
 マリナとグランは沢山の人々に慕われる様になった。
 神が望む金額のほとんどは、マリナとグランを慕う人々が少しずつ出しあった美しい金だった。

「マリナさん。僕が戦争で稼いだ金なんて、きっと神様は受け取ってくれません。マリナさんが万能薬を受け取るべきなのです」

 僕はそう言って、思っていることを打ち消そうとする。
 だが、マリナは見透かしたようにこう言う。

「ケンタ、あなたは優しい。本当は悔しいのに。だって、あなたにとっては憎きグランが生き延びて、愛するジェニ姫が死ぬんだから」

 マリナは僕の思いを代弁してくれた。
 そして、マリナは意を決した様にこう言った。

「グランに会ってみない?」

 マリナの家は教会だった。
 その隣には病院と孤児院が併設されていた。
 お世辞にも立派とは言えない建物だ。

「マリナ様!」
「おかえりなさい!」
「グラン様が待ってますよ!」

 沢山の子供、看護婦、治癒魔法使い、医者にマリナは囲まれた。
 ある子供がマリナの手にある小瓶を見て、声を上げた。

「万能薬だ!」

 皆、マリナを称えている。
 それは、グランが助かることを喜ぶ歓喜の声でもあった。

「あっ! 魔王だ!」

 ある子供が、僕を指差しそう叫んだ。
 その声がきっかけとなり、子供たちが僕に向かって一斉に石を投げ始めた。

「あなた達! やめなさい!」

 マリナの一喝で子供たちは不承不承といった態で僕への攻撃を止めた。

「ごめんなさいね。ケンタ」
「いや、仕方のないことです」

 あの子は恐らく戦争で親を亡くしたのだろう。
 僕は傷付いたこめかみから、流れる血を手で拭った。
 戦争に敗れたディオ王国において、国民は戦犯探しに躍起になっていた。
 武器商人として活躍した僕は『魔王』というあだ名を付けられ、国民から目の敵にされていた。
 だから、昼間外を出歩くのは僕にとって命懸けだったんだ。

 僕はパーティの一員として、人々を魔力で苦しめる魔王ハーデンを倒した。
 僕はジェニ姫と共に、圧政で国民を苦しめるグランと、その黒幕マリクを倒した。
 僕は救世主だったはずだ。
 だけど時は流れ、僕は魔王と呼ばれている。
 いずれ、僕は善の何者かによって倒されるのだろう。
 その善の何者かも悪に染まる。
 世界は善と悪が世代交代しているだけなのだろう。
 だとするなら、本当の平和なんてどこにも無いのかもしれない。

「ケンタか......」

 ベッドに横たわるグランが、僕に呼び掛ける。
 彼は頭髪が全て抜け落ち、顔は皺だらけで、骨と皮だけの痩せ衰えた身体になっていた。
 グランの横には聡明そうな少年が立っていた。

「息子のジュリアンよ」

 マリナにそう紹介された少年は、僕に頭を下げた。
 近くで見ると、マリナ似のハッとするような美少年だった。

 グランのベッドの周りには人だかりが出来ていた。
 皆、万能薬でグランが復活するのを心待ちにしていた。
 だけど、マリナはグランに万能薬を与えようとしない。
 その代わり彼の耳元に顔を近づけ、何か話している。

「ケンタ」
「はい」
「万能薬をあなたに上げます」
「え?」

 僕は目が点になった。
 周りの人達も目が点になったことだろう。
 そして、程なくして周囲から抗議の声が上がった。

「いくらマリナ様とはいえ、魔王になど!」
「見損ないました!」

 マリナは目をつむり、口を真一文字に閉じたまま、皆の言葉を聞いている。
 ジュリアンは母の意図を理解したかの様に、沈黙している。
 そして、グランがこう言った。

「皆さん。私が決めたことなのです」

 ざわつきが、止んだ。

「私はケンタに一度、命を救われた身です。だから今の私があるのは彼のお陰なのです」

 グランはしわくちゃの喉を精一杯動かして声を出す。
 その掠れた声は皆の心に響いている様だ。

「皆さんもご存知の様に私はかつて暴政で国民を苦しめ、沢山の人を傷つけて来ました。そして、我妻であるマリナは、元々はケンタの妻になるはずでした。私はそれを強引に奪いました。だけど、ケンタは私を許してくれました」

 時折、苦しそうに咳き込みながらも続ける。

「過ちを犯した私が、真っ当な人間で終われるのはケンタのお陰です。だから......」

 そう言い残すと、グランは死んだ。
 それを看取ったマリナは、僕の手を取りこう言った。

「善も悪も全て経験したあなたなら、この世界を平和に出来る」

 ベッドに横たわるジェニ姫。
 眠ったままの彼女は、10年経ってもあの時のままだ。
 僕は彼女の口元に瓶の口を押し当てた。
 黒い万能薬が彼女の体内に入って行く。

 沢山旅したこと、沢山戦ったこと。
 忘れられない沢山の場面が思い起こされる。

 瓶の中は空になった。

 あれ?
 だけど、何も起きないんですけど......

 僕は頭を抱えてしまった。
 この薬って消費期限あったりする?
 それとも、あの神はペテン師だったのだろうか。

「......キスしたら、目、覚めるかもよ」

 え?
 微かにジェニ姫の声が聞こえた。
 白い面《おもて》に、桜色の唇。
 その唇がうす笑いの形をしている。

 起きてるじゃん。
 なるほど、そういうことか......

 僕はジェニ姫の唇に自分の唇を重ねた。
 長いまつ毛が上を向く。
 サファイヤブルーの瞳に僕が映り込んでいる。

「おはよ」
「おはようございます」

 沈黙。
 ジェニ姫は僕の目をじっと見たままだ。

「あの......姫......」

 だけど、彼女は黙ったままだ。
 何かをねだるような目だ。
 そっか。
 ジェニ姫は、あの時のままなんだ。
 僕の、あの時の言葉の続きを待っている。

「ジェニ姫」
「はい」
「僕と結婚して下さい」
「はいっ!」

おわり

Comment(6)

コメント

VBA使い

彼は僕の復讐を「彼は」どう判断したのだろうか。


この薬って賞味期限あったりする?
→意味的には「消費期限」が正しいんだろうけど、まあいいか。


前回のディオ王の「99人を救うために、1人に犠牲になってもらう。国を治めるとはな、そう言うことなのじゃ」という言葉が、今回も響いてますね。
コロナワクチンを、幾人かに出るかも知れない副作用を覚悟して、早く世に出すのに通じる…


珍しくマジメなコメントになっちゃいましたね。
何はともあれ、お疲れ様でした!

桜子さんが一番

お疲れ様でした

湯二

VBA使いさん。


コメント、校正ありがとうございました。
お陰で作品が完成しました。

>99人
国を治めることについて、自分なりに感じていることです。
と言っても、ラジオとかテレビのニュースで知ったこととか、です。


エンジニアのサイトなので、エンジニアの話を書く方向に戻ります。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


これで完結です。
応援ありがとうございました。

隠れファン

完結おめでとうございます。
今作も楽しく読ませてもらいました。

湯二

隠れファンさん、


最後まで読んでいただきありがとうございました。
サイレントなファンとして、これからもよろしくお願いします。

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