常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 パパはゲームプログラマー】第三十二話 雑用係と姫のリベンジ1

»

 窓から差す朝日で、目が覚めた。
 胸の辺りが重い。

「左巻き......」

 僕は、僕の胸に頭を乗せ、すやすやと寝息を立てるジェニ姫のつむじを見て、そう呟いた。
 僕と彼女が一緒に住むようになって一週間が経った。
 彼女に強引に押し切られてこの生活を始める形になった。
 今、こんなことになっている(一晩添い寝しただけだが)のも彼女が夜這い(この言葉は彼女の名誉のために今後は使わないでおこう)して来たからだ。
 ジェニ姫が僕のことを好きなのは良く分かった。
 それだけに、今も僕の心の中にマリナがいるのは申し訳ない気がした。

「ん......」

 ジェニ姫が気だるそうに声を上げた。

「おはようございます」

 僕の挨拶にジェニ姫は応えない。
 その代わり、僕の胸に頬を押し当てたままサファイアブルーの瞳でじっと見つめてくる。

「二重顎」

 何を言うかと思えば......

「そこから見ると、そうなります」

 そして、僕はこう続ける。

「姫のつむじ、左巻きだ」
「うるさい」

 ジェニ姫は形の良い頭を、僕の胸からひょいと上げた。
 ベッドから床に足を着くと、ペタペタと歩き、食卓の椅子にこっちを向いてチョコンと座った。

「ここからのスタートもとうとう24回ね」
「はあ?」

 何を言ってるんだこの人は? 
 僕は身体を起こした。

「ちょっと待って!」

 ベッドから床に足を着こうとする僕を、ジェニ姫が右手の平で制す。

「右足から!」
「え?」
「ベッドから降りる時は右足から!」
「はっ、はい」

 僕は右足を床に着けジェニ姫に向かい合う様に座った。

「ま、そこまで再現する必要はないけど、復讐を達成したかったら私の言う通り動いてね」
「......はぁ」

 さっきから言っていることの、意味が分からない。

「あの......」
「何?」
「僕、混乱してます」
「ま、無理もないわね」

 ジェニ姫はコホンと一つ咳払いすると、僕の目をじっと見据えた。

「あるべき未来を一緒に作りましょう」
「え?」
「私は未来から来たの」
「は?」
「信じ難い話かもしれないけど、こういうことなの」

 ジェニ姫の話では、彼女は死ぬ度にこの日の朝に戻るらしいのだ。

「ゲームのセーブポイントと思ってくれたら分かり易いと思う」

 その例えのお陰で、僕も何となく彼女の話が理解出来た。
 でも、まだ半信半疑だった。

「10秒後に地震が来る」
「え?」

 食卓の上の陶器製のカップが揺れだした。

「ほんとだ......」
「信じてくれる?」
「......魔法、使ったんじゃないですか?」
「このやり取りも何回目なんだろう。仕方ないんだろうけど、君はいつも真っさらになるんだよね」

 ジェニ姫はため息をついた。
 僕は彼女の目に哀しい色を見た。

「窓を見て」
「はい」

 窓から丁度見える木。
 その枝に巣を作っている鳥がいる。

「5個産むわ」
「え?」

 鳥は巣にゆっくりと卵を産み始めた。
 1、2、3、4......
 僕はジェニ姫の方を向いた。
 彼女は頷いた。
 そして、5個目。

「おおっ!」

 僕は驚いた。

「鷲に一個獲られる」

 ジェニ姫の予言通り、鷲が飛んで来て巣から卵を一個盗んで行った。

「あ、助けなきゃ」
「ダメ!」

 鋭い声でジェニ姫の声に、僕はビクリとなる。

「......再現、ですか?」
「うん。言ったでしょ。私はある程度先の未来について知識がある。だから、あるべき未来を作りだすために、今をなるべくいじりたくない。それだけなの」

まず、どこから話そうかしら。
そうね、私のこのスキルについてから話した方がいいかな。
このスキルはマリクが自殺すると発動されるの。
変なスキルでしょ?
私も変だと思ってる。
まぁ、目覚めたものはしょうがない。
これで得している部分もあるから私は受け入れてるの。
逆に言うと、マリクが誰かに殺されたらこのスキルは消えてなくなるわ。
恐らくね。
何で、マリクが自殺すると発動されるか、分かったのかって?
だって見たんだもん。
あいつが自殺するところ。
このセーブポイントからループする様になって20回目だったかな。
結構いいところまで行ってた時よ。
......って、言っても君は覚えてないか。
マリクとの最後の戦いで、一歩及ばず瀕死のダメージを受けた私は立つことさえも出来なくなった。
あっ、その時、ケンタ君はもう死んでたから。
そんな残念そうな顔しないの。
大丈夫。
このループで終わるから。
そうなる様に、私はループするたびに色んな事を試して、攻略法をあみだしたんだから。
マリクが支配するこの『クソゲーム』の攻略法を。
話を元に戻すね。
私が死んだと勘違いしたマリクは、こう呟いた。

「また今回もダメだったか」

ま、ケンタ君はこのセリフの意味が分からないと思うけど。
その後、マリクは電撃の魔法で自殺した。
と、同時に私の意識も飛んだ。
気が付いたら、またいつもの朝だった。
それまでは、私が死んだらループするかと思ってた。
それが違ってたのね。
う~ん、ちょっと悔しかったわ。
で、
マリクはきっと誰かに倒されたがってるのよ。
理由は分からないけど。
この世で圧倒的に強い自分。
その自分を恐れさせ、ひれ伏させるような、そんな相手を求めている。
それがケンタ君、あなただったの。
ケンタ君、目が点になってるよ。
まぁ、驚くのも無理ないよね。
ケンタ君は特に攻撃力も魔力も無いし、あるのは商才スキルだけ。
マリクは、そんなケンタ君に倒されたがってたんだよ。
ケンタ君が復讐しようと思った動機を思い出して。
マリナさんをグランに奪われたからでしょ。
全ての黒幕はマリク。
セーブポイントの設定の仕方で分かったわ。
私が初めてループを自覚したのは、グランの結婚式の日。
このセーブポイントから一週間前のポイントよ。
ケンタ君がグランに寄り添うマリナさんを見て、取り乱したあの日。
あの時、ケンタ君の復讐心はMAXに達した。
マリクは、その状態のケンタ君なら、自分を倒してくれると期待した。
だから、結婚式の朝にセーブポイントを設定した。
MAXケンタ君が何度も、挑戦してくれる様にね。

 ジェニ姫はこの話をもう何度も僕にしたらしい。
 だけど、僕にとっては初めて聞く話だ。
 それは驚きの内容だったし、グランに対して怒りを覚えた。
 そして、ジェニ姫は目に涙を浮かべ、僕に頭を下げた。

ごめんなさい。
私、ケンタ君に嘘を付いていました。
マリナさんは気持ちが変わったわけじゃない。
マリクの魔法でグランを愛しているだけなの。
マリクはあなたに倒されるためなら、どんな酷い仕打ちもあなたにするのよ。
そんな目で見ないで。
私、ケンタ君と一緒に居たかっただけなの。
だけど、本当のことを言わないと、ダメだって思った。
このまま私がケンタ君と一緒にいると、世界が崩壊する。
ケンタ君。
君は救世主なんだよ。
皆のもので、私だけのものじゃない。

 食卓に、ポタリ、ポタリと涙が落ちる。
 サファイヤブルーの瞳が揺れている。
 僕はジェニ姫のことを恨んでなんかいない。
 ここまで来れたのは彼女のお陰だからだ。

「ひとつ訊いていいですか?」

何?
やっぱり、不思議に思うよね。
何で、セーブポイントが変わったのかって。
きっとマリクは相手を変えたんだと思う。
自分を倒してくれる相手を......
私に。

 ジェニ姫はひとしきり話すと、僕に留守を任せて出て行った。
 次の日の朝には帰ってくると言い残して。
 僕は彼女に言われた通り、家で大人しくしていた。

 そして、彼女は約束通り次の日の朝、帰って来た。
 その白い面《おもて》は、どこかやつれていた。

「大丈夫?」
「うん」
「何して来たの?」
「秘密」

 ジェニ姫は僕の肩をポンと叩いた。

 グランの城。
 今やそこは瓦礫の山と化していた。
 僕の元に集った6人のカンストメンバーのお陰で、グランを追い詰めることが出来た。(彼らはあっさりギルドに集まっていた)

「じゃ、これで」

 6人のメンバーは僕に手を振って去って行った。
 ジェニ姫の話だと、毎回のことらしい。
 僕が報酬を満額払えないから、彼らはここまでしか付き合わないのだそうだ。

「さて......」

 ジェニ姫が瓦礫の山の中でへたり込んでいるグランを見下ろす。
 彼は全てを失い、そして深手を負っていた。
 彼の栄華は過去のものとなった。
 彼はすっかり戦意喪失していた。

「ケンタ君。これから君にとってものすごく辛いことが起こるけど、負けちゃだめだよ」

 ジェニ姫がそう言った。

「......はい」
「ケンタ君がどんな選択をするかで、この先の未来が変わる。私は正しい選択を知っている。だけど、私はケンタ君に指図しない。だって、ケンタ君は私が指図しなくても、この場面でだけはいつも正しい選択をするから」
「え?」

 僕の身にこの後何が起こるんだろう。
 そして、僕は一体、何を選択するんだろう。
 僕がやることは、グランにとどめを刺す。
 彼の弱点である首を狙う。
 それだけだ。
 
「マリナさん、どいてください。あなたは魔法の力で騙されているのです」

 グランの側には僕の愛すべき人、マリナが寄り添っていた。

「いやです」

 僕を睨みつけるマリナ。
 怒りを宿した瞳に僕の姿が映り込んでいる。
 一瞬、思った。
 マリナの心は魔法とか関係なく、僕の心から離れてしまったのではないか?
 否、そんなことはない。
 僕は無言で剣を振り上げた。

「私にはグランの子供が宿っているんです!」
「え!?」
「だから、許してやってください」

 グランに覆いかぶさったマリナは大声で泣いていた。
 マリナのその言葉で、僕は剣を鞘に収めた。
 考える必要なんて無かった。
 マリナの子供を父親無しにするわけにはいかない。

「私はケンタ君のそういうところが好きなんだよ」

 ジェニ姫がポツリとそう言った。

つづく

Comment(4)

コメント

桜子さんが一番

個人的にはグランへの復讐はしてほしかったなー。仕方ないですね。

VBA使い

ひれ「伏させる」ような


きっと「マリク」は相手を変えたんだと思う。


ジェニ姫はこの話をもう何度も僕にしたらしい。
→編集してる最中、上書き保存する前に異常終了して、自動保存ができてなかったExcelとオーバーラップする…

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>グランへの復讐
一番悪い奴なんだけどねー。
実行犯よりも黒幕の方が悪いということでお願いします。

湯二

VBA使いさん、


コメント、校正ありがとうございます。
結構、重要なとこ間違えてましたね。


>Excel
画面がうすぼんやりして、マウスのカーソルが動かなくなって、、、
さて、一体どこまで保存したかなって思い出しながら再作業ですね。


コメントを投稿する